ファッション

そっちじゃな〜い、1950〜60年代の日常シャツのこと。

モノのポッドキャスト『これDOW!?』

2023年12月21日

cover design: Ken Kagami
photo: Hiroshi Nakamura
narrator: Tomoe Miyake
text & edit: Yu Kokubu

 今回は身近なシャツのお話です。そっちじゃな〜い、こっちだよ〜、っていう話は前回テーマにした〈リバティベル〉のダウンジャケットの続きでもあって、簡単に振り返ると、「1970年代ファッションの王道」と謳われているモノや「1980年代ファッションの定番」としてお店に並んでいるモノって、当時から本当に王道/定番だったの? という話をしたんですね、前回。例えば〈ノースビーチ〉のレザージャケットって感度の高い方々は当時着ていたと思うけど、じゃあ、その他大勢=大衆がこぞって着ていたモノってなーに? みたいな話を……。

ポッドキャストの視聴は以下のリンクから!

 でー、今回の配信では時代を少し遡り1950〜60年代のシャツを囲んで、この番組のレギュラーゲストである雑誌『Subsequence』編集長の井出幸亮さんと、同じく編集者のトロピカル松村さんとで雑談してみたのですが、では、まずは数枚のサンプルをざーっと!

 1950〜60年代に製作された、またはその時代を舞台とした映画なんかでよく見かけますよね? こういうオープンカラーのシャツ。近年だと例えば『フェイブルマンズ』(スティーヴン・スピルバーグ/2022年)で、主要キャストをはじめ街の人たちが着用していたようなね。〈Manhattan〉、〈Arrow〉、〈TOWN CRAFT〉、〈Brent〉、〈McGREGOR〉、〈Nelson Paige〉、〈Pilgrim〉etc……挙げればキリがないけれど、当時各メーカーがさまざまな色・柄・形で生産していたごくごく“普通のシャツ”。この日常着が、今回の主役である。

 これらの日常シャツだが、個人的にはやはり「ぱっと見で伝わらない良さ」という魅力をまずは感じてしまうのだ。あのブランドのあの名作モデルといった「見た瞬間にわかる価値」の真逆であり、言い換えるなら、「しっかり見ることで伝わる良さ」という魅力。下写真の〈Stradivari(Strad-O-Travler)〉のシャツには、少し伝わりやすそうなディテールがあるので参考までにご覧いただくと、

見える? エメラルドグリーンの糸。きめ細やかなファブリック。

 という具合に、近くでじ〜っと眺めたり触れたりすることで、へ〜っという新たな発見があり、ず〜っと着ていることで時間差で何かに気づくこともしばしば、本当に楽しいシャツなのだ。え〜っと他にも、〈Brewster〉のシャツもこだわりに溢れていて、

〈Brewster〉各種。1882年頃、W. F. Kellerのシャツ工場で修行を積んだJoseph Almond Brewster(当時12〜13歳)が22歳頃に立ち上げた「Brewster Shirt Factory」。その後みるみる拡大して1912年頃には従業員150名もの大きな工場となり1日200枚程のシャツを作っていたそうだ。これらは特に〈Brewster〉を代表する色柄形ってことでもないけど、まあ雰囲気として参照を。イタリアンカラーってたまに着るとアガるよね。
ORLON素材に微かなネップ。ポケット上部の角には世界一ニクい二等辺三角形(※要ピンチアウト)。クール。

 で、ここからが本題。今回の配信で興味深かったトークテーマが、編集者の井出さんが教えてくれた「(日本における)”フィフティーズ”のイメージのねじれ」についてだった。「’50sファッション」と聞いてみんながどんなイメージを抱くのかはわからないが、少なくとも筆者の場合は、エルヴィス・プレスリーのようなロックンロール/ロカビリー、リーゼントに革ジャン、あるいはドクロモチーフといった不良に近いスタイルを思い浮かべたりする。しかしタイトルにある「そっちじゃな〜い」とは、そういった気合いの入った”フィフティーズ”ではなく、全然気合いの入ってないもう一つの”フィフティーズ”。街ゆく人々はもちろん、アメリカの詩人や小説家らがさらっと着用しているような、なにげない雰囲気のシャツを指している。不良ではなく、毒のある佇まいといったニュアンスだろうか。

 いやいや……どちらにせよ悪そうなものが好きなのね、と言われると少し恥ずかしいが、さておき、国内では一体いつからどのようにして、「’50sファッション=ロックンロール/ロカビリー」というイメージになったのか? が肝である。’70年代初頭にはデザイン集団「WORKSHOP MU!」の面々や立花ハジメさんといった”早い人”たちのあいだで取り入れられ、’76年には原宿に〈クリームソーダ〉が出現、その後の、例えば「ザ・ヴィーナス」の『キッスは目にして!』(1981年)のリリースなどなど、一般的なブームになってきたのは’80年代以降の話。大衆化することでねじれが生じ、様々な”事情”を経て(詳しくはポッドキャストで!)、現在のこのイメージに至る。

 源流を辿れば「キャロル」や「クールス」に行き着くが、エディ・コクランやバディ・ホリーはシックなスタイルでキメているのになぜ!? とまあ、そういう雑談などで盛り上がり今回の収録を終えました。で、全部ではないけどいくつかの日常シャツを写真に収めたのでお時間あればスクロールして眺めてみてください。では!

寄り。本体の柄とポケット部分の柄が合っているのがやっぱりいいんだよな。’50s〈TOWN CRAFT〉。
50s マクレガー トランクス
で、インナー付きだしトップス脱いでそのままザブン!
50s TOWN CRAFT シャツ
「襟先がちょっと丸いのが好きなんだよなあ」と、井出さん。

 以下、今回は微妙に違うのかな? となって次回へ持ち越したシリーズの一部。ペンドルトン、ウエスタン、プリントネル、パジャマシャツ、白シャツetc それらの話はまた今度!

 〈PENDLETON〉は今回断念! オープンカラー/ループカラーのボックスシャツより〈PENDLETON〉なら自分はこちら派 。インして”Big” Ed Hurleyのような着こなしで? https://www.dazeddigital.com/fashion/gallery/15202/7/twin-peaks-fashion
白シャツとの出合いは倍嬉しい。今後、年代問わずに白シャツだけの収録も予定。
その他プリントフランネルや、
パジャマシャツなど。なるべくパジャマ“らしからぬ柄”が気分。

 と、一つ言い忘れたけど1950〜60年代を舞台にした映画のファッションについても少しだけ話しました。キューバ危機に揺れる1962年のキーウエストを舞台にした『マチネー/土曜の午後はキッスで始まる』(ジョー・ダンテ/1993年)をはじめ、前出の『フェイブルマンズ』や『クライ・ベイビー』、『ジャズロフト』(サラ・フィシュコ/2015年)、『ウディ・アレンのザ・フロント』(マーティン・リット/1976年)、『地上最大のショウ』(セシル・B・デミル/1952年)だったりかな。みなさんの「定番」はどんなシャツでしょうか? では、またまた! 視聴は以下のリンクから〜。

あのシャツにはどんなインナーを着ようか。という話もまた今度! “ご静読”ありがとうございました。

 

出演者のプロフィール

モノを持ってきた人

国分優

こくぶ・ゆう|POPEYE Webクリエイティブディレクター。本番組のナビゲーター。

聞き手

トロピカル松村

とろぴかる・まつむら|1988年、兵庫県生まれ。編集ライター。70年代や80年代、クラシックなアクティビティ&スポーツに目がない。ジーンズ&スポーツを掲げるブランド『CRT』のディレクター。二子新地で小さなレコード店『トロピカルレコード』を運営。著書に『ボクのニッポンサーフィンサウンド』がある。

聞き手

井出幸亮

いで・こうすけ|1975年、大阪府生まれ。編集者。POPEYE Webシニアエディター。古今東西のアーツ&クラフツを扱う雑誌『Subsequence』(cubism inc.)編集長でもある。本誌『POPEYE』(マガジンハウス)、『工芸青花』(新潮社)などさまざまな媒体で編集・執筆活動中。主な編集仕事に『ズームイン! 服』(坂口恭平著/マガジンハウス)、『ミヒャエル・エンデが教えてくれたこと』(新潮社)、『細野観光 1969-2021 細野晴臣デビュー50周年記念展オフィシャルカタログ』(朝日新聞社)など。著書に『アラスカへ行きたい』(新潮社、石塚元太良との共著)がある。

番組概要

これdow!? アートワーク

これDOW!?

記事を眺めながら聴くポッドキャスト『これDOW!?』は“モノの番組”です。モノの周りにモワ〜ンと漂う想い出や脱線エピソードを中心に、インターネットでは検索できないモノについて語ってみたり、本誌であまり取り上げていないモノについてPOPEYE Webスタッフらで話してみたり、ゲストと一緒にモノを囲んでわいわいしてみたり。番組アートワークは現代美術作家の加賀美健さん。POPEYE Web制作の他番組は以下より。

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