カルチャー

本棚のある部屋っていいね。

『Yvon Lambert』オーナー・イヴォン・ランベールの本棚

2023年10月15日

本をめぐる冒険。


photo: Alexandre Tabaste
text & coordination: Masae Takanaka
2023年11月 919号初出

フランスのコンテンポラリーアート界のゴッドファザー。その本棚とは。

イヴォン・ランベール
Yvon Lambert/『Yvon Lambert』オーナー
イヴォン・ランベール|1936年、南仏ヴァンス生まれ。フランスを代表するギャラリストでありアートコレクター。1960年代から自身の名を冠したギャラリーをパリで運営。2014年に閉廊後、北マレに書店『Yvon Lambert』を開き、多数の出版プロジェクトを行う。

 フランスのアート業界で、パリの書店『イヴォン・ランベール』を知らない人はいないだろう。’66年にサンジェルマンでアートギャラリーとして開業し、’86年に北マレへ移転。フランスを代表するギャラリーとして名を馳せた。’14年の閉廊後は、少部数のアートブックや写真集を扱い、出版もする本屋として、目の肥えたパリジャンに最新のアーティストを紹介し続けている。創業者はイヴォン・ランベールさん。美術界をはじめ写真やモードの世界でも尊敬を集めるビッグネームだが、今でも本屋に立ち、新しいアーティストを探し、自らアポを取っては会いに行く。エネルギッシュで少年のような人だ。

本棚
左奥のナチュラルウッドの本棚は、引っ越してくる以前からあったもの。ナン・ゴールディンの写真や、サイ・トゥオンブリー、ナタリー・ドゥ・パスキエ、エテル・アドナンなど錚々たるアーティストから譲られたアート作品が立てかけてある。右の白い書架は、イヴォンさんが新しくオーダーして作ったもの。その一角のガラス戸には『Yvon Lambert』の出版物の他、19世紀から20世紀に作られた博物館級の貴重な美術本の数々が保管されている。

「ここに引っ越したのは5年くらい前。もとはアニエス・ベーの持ち物でね、彼女の友人が泊まるためのゲストハウスだった。共通の友人に会うために初めてここを訪れたとき、彼女に『売らないか?』と聞いたんだ。これは私のための家だと思ってね。窓からの眺め、大きな本棚、すべてが気に入ったよ」

 作り付けの本棚に加え、オーダーメイドで白い書架も作った。天井に迫る高さまで、隙間なく本が詰まっている。

「何冊あるかって? ヴィスコンティのお城に行って、ここにはいくつ部屋があるかと聞くのと同じさ。何冊あるかわからない。でも、手放してもいい本は一冊もない。フランス人にとって自分の棚はとても大切なものなんだ。私は店にも家にも好きな本しか置かないけれど、自宅には古い本や貴重な本が多い。なかには17世紀のものもある」

 そんなイヴォンさんの人生は、若かりし頃から常に本と共にあったという。

「’60年代にはすでにソル・ルウィットやローレンス・ウィナーの本を出版していたし、私のギャラリーにはいつだって本が並んでいた。でもそれ以前に、昔から本を集めるのが好きだったんだ。20歳の頃に買ったジャン・デュビュッフェの本があるのだけれど、彼が『イヴォン・ランベールに敬意を表して』とサインしてくれたのが、とても誇らしかったのを今でも覚えているよ」

サロン
ナタリー・ドゥ・パスキエの絵と世界中のアンティークショップで集めた彫刻、そして美しい本が並ぶ入り口のサロン。