カルチャー
一生もののマットレス。
ベルリン郊外の工房「シェーネベルガー・ツィマー」を訪ねて。
2021年11月18日
photo: Shinji Minegishi
text: Akiko Watanabe
edit: Hiroko Yabuki, Tamio Ogasawara
2018年12月 860号初出
ドイツに一生使えるマットレスがあるということを耳にした。それも馬のしっぽの毛でできているらしい。実は日本にも「天然繊維の最高峰」の謳い文句であるにはあるが、ジャーマンサイズでは使う毛量が多いからか、一番安いものでも日本円で30万円超。気軽に買える値段ではない。しかも作り手はジャケットの袖を切り落とした服を着ていた。「馬毛」に「袖なしジャケット」。この工房には気になることが多すぎる。いても立ってもいられなくなってマットレスを作る「シェーネベルガー・ツィマー」を訪ねた。
ベルリン郊外にある工房では、袖なしジャケットを着た彼が袋から黒い毛を出して機械でほぐしていた。これが馬毛だった。触らせてもらうと、らせん状の毛はまるでワイヤのように硬くて不思議な弾力もあり、妙にクセになる感触。工房を営んでいる彼はダニエルという名で「馬毛は通気性に優れる上、横たわったときに背骨に負担をかけにくいんだ。うちのマットレスとコイルのものを比較するなんてナンセンスで、まるで梨とリンゴを比べるようなものさ。だって根本が違うから。うちのは、はじめから何世代にもわたって使えるように作られているんだからね」と語りながら、ほぐした馬毛を丁寧に生地に詰めて縫っていた。「メンテナンスも20年に一度でOK」とは、これまた壮大な話だ。工房で中身を解体し、一部の毛を入れ替えるなどの調整をすると真新しい状態に戻るのだという。
職人としてのモットーを聞くと「いかに持続可能で、しっかりとしたものを世に残せるか、どうしたらお客さんに変わらずいい眠りを届け続けられるかを考え続けているんだ」。
場が温まってきたところで、気になるあの質問を。マットレス作りにはジャケットの袖を切る必要があるの? 「これ? ドリス・ヴァン・ノッテンだよ。僕の一張羅なんだ」
プロフィール
Daniel Heer
マットレス職人。1977年、スイス生まれ。スイスで1907年に創業した家業のマットレス工房をベルリンで新展開。工房のオーナー兼職人として、自らマットレスを作っている。
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