ライフスタイル

家の猫の話 Vol.21/文・ピエール瀧

2025年11月5日

家の猫の話


photo & text: Pierre Taki
edit: Ryoma Uchida

今回は猫を飼っているお宅に必ず訪れる悩ましき災い、ゲロについてのお話です。

猫は自分や同居猫の身体をペロペロ舐めて毛繕いをするので、必然的に自分の体毛を飲み込んでしまうことがよくあります。猫の舌を触ったことがある方ならお気づきかもしれませんが、彼らの舌はとてもザラザラしていて、毛が引っかかりやすい構造をしているのです。換毛期になるとその頻度はさらに増します。

この飲み込んでしまった毛が胃の中でたまると、違和感を感じて「キャーウ」なんていう甲高い声をあげながら吐きます。吐いたモノにはしっとり感100%の毛玉が残っているので、後々リビングでゲロ跡に気付いたとしても、毛玉の色から誰が吐いたのかすぐわかります。毛玉ゲロを発見した我々は「おー、スッキリしてよかったですね」とか「そういう季節がやってきましたな」という若干の医療者目線で微笑ましくゲロを片付けます。まあある意味、健康法というか、健康を維持するために必然な措置なので、こちらとしても「順調、順調」といった気分で対応できるのです。

これとは別に、ご飯を食べた直後に秒で吐くというパターンもあります。これはマジで最初意味がわかりませんでした。シンプルに「うわ!なんすか?」とか「噂に聞く盛り場女子の心の病系?」と思ってしまうのですが、これはどうやら猫の身体の構造上の問題らしいです。猫は食道の奥から胃あたりまでの筋肉が犬なんかに比べて動きづらい構造になっているらしく、早食いなんかをしてしまうと、消化器官に送る食物が滞ってしまい、結果吐くみたいです。

これを予防するために、餌皿をちょっと高さがある物に変えて胃までの食べ物の道筋をなだらかなスロープ状態にしてあげたり、「ブイヨン、ゆっくり食べたまえ」なんてあえて言いながらご飯をあげたりしてみるのですが、そこはさすが猫。結局ガツガツと結構なスピードの祭り状態で食べ切って「ふぅ」なんて一息ついた直後、「オェ~!」なんつって吐いたりします。とほほ。さらに、吐いたばかりの“しっとり状態のカリカリ”の山を見つけたコロッケが、「ねえ?これ何?何なの?食えんじゃね?」的なモードでクンクンしてくるので、「ちょっと待て!お前それだけはやめろ!」と手で牽制しながら、掃除用のスプレーとキッチンペーパーをダッシュで取りに行かねばなりません。猫たち、さすがにそれはやめようぜ!尊厳的に。

こんな感じで病気とかに関係なく、穏やかな日々の暮らしの一部にゲロの掃除が組み込まれてくるのが猫の飼い主の勤めです。ソファーカバーに吐かれてしまい、コインランドリーでカバーを洗濯してきた直後にまた吐かれるなんてのはざらの出来事です。

昨晩、ブイヨンが「ケッ!ケッ!ケッ!」と例のゲロ吐きのイントロが始まった時、ゲームをしていたオイラも嫁も、コントローラーを握ったままで全く動けずに、「キャ~~ッ」とブイヨンが娘のノートパソコンにゲロを吐くのを見守ってしまいました。「意外と動けないもんだね」「確かにな。止めるのもなんか悪いもんな」。これが猫を飼っている家の通常モードです。

プロフィール

ピエール瀧

ぴえーる・たき | 1967年、静岡県出身。1989年に石野卓球らと電気グルーヴを結成。道行く人に「あなたのオススメは?」と尋ね、その返答の通りに旅をするYouTube番組『YOUR RECOMMENDATIONS』が好評配信中。著書に『ピエール瀧の23区23時』(産業編集センター)、『屁で空中ウクライナ』(太田出版)など。『地面師たち』(Netflix)、『HEART ATTACK』(FOD)、映画『宝島』(大友啓史監督)映画『ホウセンカ』(木下麦監督)など出演も多数。電気グルーヴ、秋の東名阪Zeppツアー・ 「へびツアー」も開催予定。

電気グルーヴ公式ウェブサイト
https://www.denkigroove.com/