ファッション

ポール・ハーデンのマックジャケット

使ってわかるクラシックの格式。

2026年1月4日

マイスタンダードの見つけ方。


illustration: Dean Aizawa
text: Sana Tajika, Yoshikatsu Yamato
edit: Yasuyuki Takase
2025年9月 941号初出

メンズファッションにおいて、歴史に裏打ちされた名品と呼ばれるものは総じて高い。とびきり高い。果たして、どれほどの価値があるのか。実際に使う人はこう語る。

〈ジョンロブ〉で木型作りを学んだ後、1987年にハンドメイドのシューズ作りから始まった〈ポール・ハーデン〉。独特のシワが波打つ天然素材のウェアは、生地作りから縫製、染色まで、職人の手仕事から生まれ、生産数はとても少ないそう。

 要素が少なく、なんてことのない佇まいでも、よく見たり、身に着けたときに、作り手の意思を感じる服が好きなのかもしれません。〈ポール・ハーデン〉のマックジャケットは、色や素材違いで持っています。

 このかたちが出はじめたときから着ている記憶があって、もうずいぶんたっていると思います。マックやマックコートが定番として知られていますが、僕が気に入っているのはマックジャケット。コートとジャケットの中間のような存在です。車や腕時計もそうですが、コンパクトなものを選ぶ傾向が僕にはあります。

 建築の仕事をしていると、一日のうちに打ち合わせもあれば、工事現場に出向くこともある。ただ、現場はケガをする要因が多いので長袖の着用が必須。そこに対応できるかが服選びのベースになっているかもしれません。

 マックジャケットの表地であるベンタイルコットンは、密度が高く織られていて、風も水も通さず、とても丈夫なので、服に気を使わずにいられます。洗いがかかっているから風合いもよく、「ジャケット」といっても堅い雰囲気ではなく、ちょうどいい。背中側の丈が特に短いので、現場にある足場やハンドルなど、飛び出しているものに引っ掛かりにくい。横から見るとその前後差は明確で、このシルエットが〈ポール・ハーデン〉らしいです。

 ブランドの特徴のひとつだと思いますが、生地作りから縫製まで手仕事で行い、そのほとんどに洗いがかかっているので、サイズの規格はあってないようなもの。Lサイズのマックジャケットだとしても、素材や作られた時期によって着心地は違うし、個体差もある。白い埃が出やすい内装の現場では、黒ではなくベージュを着るなど、汚れの目立ちづらい色を選びます。カーキは万能で、現場の予定がない日は、赤やツイード、別珍のものを羽織ることもあります。それと、ポケットが深くて、左のポケットがマックよりひとつ多いのもいい。極力、手ぶらで出かけたいので。財布や筆記用具、さらには、縦に長い飛行機のチケットも折らずに入れることができます。

 直営店は世界中どこにもなくて、限られたセレクトショップで取り扱いがあります。僕は、東京では〈コム デ ギャルソン〉の店舗や『ドーバーストリートマーケット』で買うことが多いです。

 あらためて自分の持ち物を振り返ってみると、決まったものをずっと使っていたり、服ならば同じ作りのものを柄や色違いで持つ、というタイプかもしれません。シャツは〈コム デ ギャルソン・シャツ〉のフォーエバー、靴下は〈コーギー〉。おしゃれを楽しむというよりは、必要に応じたものが手元に残ってきた。どれも、見るからにわかりやすい特徴があるようなものではないですが、他にはない、強いスピリットが詰まったものだと思います。

プロフィール

荒木 信雄

あらき・のぶお|建築家。1967年、熊本県生まれ。1997年より荒木信雄/アーキタイプ主宰。主な仕事に、「AURALEE TOKYO」「V.A.」など。近年では「GINZA SONY PARK」プロジェクトのメンバーとして建築監修を務める。