ライフスタイル

家の猫の話 Vol.17/文・ピエール瀧

2025年7月5日

家の猫の話


photo & text: Pierre Taki
edit: Ryoma Uchida

我が家の最年長猫のコンブがいなくなってからひと月が経ちました。リビングでは相変わらず猫たちがあくびをしたり、う~んと伸びをしたりして呑気に暮らしています。とても平和。

この日常に“すべて何事もなく”と付け加えたいところですが、実際はちょっとだけ変化がありました。メス猫のブイヨンのくつろぐ場所(寝る場所)が変わったのです。

これまでは、眠くなるとロッキングチェアの座面でコンブとくっついて、“ハートの形”で寝ていたブイヨンですが、最近ではソファーの一角に積み上げられたクッションの山(通称クッションマウンテン)の頂上に陣取り、女王の風格を漂わせながらくつろいでいらっしゃいます。

その様子は、高山の岩場で落ち着き払い、下界に静かな眼差しを向ける神々しい雪ヒョウのようにも見え、「ブイヨンさん、本日も美しくキマってらっしゃいますね。ちょっとテレビ変えていいっすか?」なんつって、テレビのリモコンを取るふりをしながらこっそり彼女の姿を写真に納めたりしています。ブイヨンはおそらく、自分なりの安全で邪魔されない新しい居場所を見つけたのでしょう。

一方のコロッケはというと、「チミはなぜそこで寝る⁈」という意外な場所でスヤスヤ寝息を立てたりしていて笑えます。いつの間にか忍び込んでいる娘の部屋のベッドの上なんかは、もう彼のレギュラーポジションのひとつとして諦めているのですが、最近だと、爪研ぎの上に器用に体を乗せ、押し寿司のサバのごとくすっぽりハマって寝息を立てたりしています。他にもダイニングテーブルの上に置いてあるA4の書類の上とか。他にもっと居心地の良い場所があろうに。変なの。

不思議なことに、この2匹がひと月の間、まったく近寄らなかった場所があります。それはコンブが無くなる直前にずっと乗っていたテレビ前のクッション。コンブがまだ元気だった頃は、変わりばんこに場所取りをしていた最高ランクのくつろぎポイントだったのですが、2匹ともこのひと月は近寄りさえもしませんでした。

コンブのお葬式をしてもらったお寺のパンフレットに「亡くなってから49日を迎えるまでの間、亡くなったペットはまだ家の中にいます。姿は見えなくても、匂いを嗅いだり、音を聞いたりしているのです」と書いてありました。

自分と娘でそのパンフレットを読み、「じゃあ、もしかしたら今もテレビの前のクッションに座っているのかもね」なんつってほっこりしていたのですが、まるでそれを裏付けるように、2匹の猫はひと月もの間テレビ前の空のクッションに興味を示さなかったのです。

さっき、そのクッションにブイヨンがそっと座りました。そして明日はコンブの49日です。コロッケはコンブの遺影の前にシュタッ!っと飛び乗って、お供物のカリカリをちゃっかり食べています。

本日もいい感じの我が家です。

プロフィール

ピエール瀧

ぴえーる・たき | 1967年、静岡県出身。1989年に石野卓球らと電気グルーヴを結成。道行く人に「あなたのオススメは?」と尋ね、その返答の通りに旅をするYouTube番組『YOUR RECOMMENDATIONS』が好評配信中。著書に『ピエール瀧の23区23時』(産業編集センター)、『屁で空中ウクライナ』(太田出版)など。『地面師たち』(Netflix)、『HEART ATTACK』(FOD)、映画『宝島』(大友啓史監督作、9月19日公開予定)など出演も多数。

電気グルーヴ公式ウェブサイト
https://www.denkigroove.com/