ライフスタイル

家の猫の話 Vol.13/文・ピエール瀧

2025年3月5日

家の猫の話


photo & text: Pierre Taki
edit: Ryoma Uchida

ウチの猫リーダーこと黒猫のコンブですが、御年18歳となってさすがにお爺ちゃんになってきました。

体躯は相変わらずがっしり大きくて、ほぼタヌキくらいのサイズ感があるのですが、黒毛のところどころに白髪が混じるようになりました。「猫にも白髪ってあんの⁈」と最初は驚きましたが、どうやらそうみたいです。白髪の量が徐々に増えていくにつれ、態度も落ち着き払うようになってきました。なんか重くて渋い感じ。そして怒らない。

若い頃はアクティブに遊んでいた猫用のおもちゃも、最近では全く無反応です。これ見よがしに目の前でチラチラさせても完全に無視で眼中にない様子です。「また~。コンブ、そんなことはないっしょ?」と、今度はおもちゃで直接顔面をスルスル~っと撫でてみたりするのですが、難しい顔をキープしながら中空の一点を見つめ、瞬きひとつしない達観ぶりで笑えます。「そんなに見ないことって可能!?」「おもちゃの存在を空気以下に消し去るの凄くない!?」とオイラは最近のコンブに驚嘆しております。

そんな仙人猫のコンブですが、いまだにちょっとだけ反応するのがミカン箱なんかに使われてる幅広の梱包用の硬いテープ。調べてみたところPPバンドっていうらしいです。コンブはこのPPバンド特有のピラピラ感がなぜかたまらないらしく、子猫の頃から秒で食いつく大好物です。宅配便なんかについてきたPPバンドを空中でピラピラさせてやると、目の色を変えて襲いかかり、捕まえたその後は両手で抱え込み、うっとりしながら猫キックでケリケリしていたのです。安上がりで最高。

PPバンド(画像:POPEYE Web編集部)

今となってはそんなPPバンドに対するコンブの反応も片手でちょっとだけ触る程度になりました。触りたいのかどうかも定かではありません。もしかしたら手で避けてるだけかも。動体視力も弱まり、反射神経も衰えてきた身体感覚だと、あんなに大好きだったPPバンドも邪魔でしかないのかもしれません。

足腰も弱くなってきて、ソファから降りる時などは着地の瞬間によろけたりしています。身体も大きいので仕方ないのかもしれませんが、相変わらず食欲は旺盛なので、コンブの“せめてもの楽しみ”を奪ってしまいかねないジレンマを我々人間サイドは抱えているというわけです。やっぱりご飯の時の歓喜ぶり(デカい声で歌うように鳴く)を見るとあげたくなっちゃうんですよね。

その代わりと言ってはなんですが、コンブがお気に入りの場所のソファに乗りたい時には、我々人間がサービスで介助してあげるようになりました。

実はちょっと前からソファの傍に“コンブのソファ登頂用”の踏み台を設置してあるのですが、最近ではすっかりものぐさを覚えたのか、頑張って自力でよじ登る回数が減り、踏み台に登るとまずこっちを見ます。「あれやって、いつもの」てな感じで。そうなると「あれですね、かしこまりました」とオイラなんかがタヌキサイズのコンブをソファの座面まで抱っこで乗せてやるのです。運ばれたコンブは、礼も言わずにいいとこを見つけてさっさと丸くなる。もはや晩年の王の態度です。

まあ今まで猫たちをビシっとまとめ上げてきてくれたのですから、それくらいは喜んでやらせてもらってます。自分が留守にするときは「コンブ留守中頼むな」と話しかけていた仲なので。コンブにはなるべく長生きしてほしいと願っています。しかも機嫌良く。

プロフィール

ピエール瀧

ぴえーる・たき | 1967年、静岡県出身。1989年に石野卓球らと電気グルーヴを結成。道行く人に「あなたのオススメは?」と尋ね、その返答の通りに旅をするYouTube番組『YOUR RECOMMENDATIONS』が好評配信中。著書に『ピエール瀧の23区23時』(産業編集センター)、『屁で空中ウクライナ』(太田出版)など。『地面師たち』(大根仁・監/Netflix)、『HEART ATTACK』(FODで配信予定)にも出演予定。

電気グルーヴ公式ウェブサイト
https://www.denkigroove.com/