カルチャー

新年の気配を感じながら訪れたい展示5選。

さーて、12月はどんな展示に行こうかな。

2024年12月8日

ルイーズ・ブルジョワ展:地獄から帰ってきたところ 言っとくけど、素晴らしかったわ
@森美術館

展示風景:「ルイーズ・ブルジョワ展:地獄から帰ってきたところ 言っとくけど、素晴らしかったわ」森美術館(東京)2024 年 撮影:長谷川健太 © The Easton Foundation/Licensed by JASPAR, Tokyo, and VAGA at Artists Rights Society (ARS), New York, 2024.

ルイーズ・ブルジョワ ヒステリーのアーチ 1993 年 ブロンズ、磨かれたパティナ 83.8×101.6×58.4 cm 所蔵:イーストン財団(ニューヨーク)展示風景:「ルイーズ・ブルジョワ展:地獄から帰ってきたところ 言っとくけど、素晴らしかったわ」森美術館(東京)2024 年 撮影:長谷川健太 © The Easton Foundation/Licensed by JASPAR, Tokyo, and VAGA at Artists Rights Society (ARS), New York, 2024.

展示風景:「ルイーズ・ブルジョワ展:地獄から帰ってきたところ 言っとくけど、素晴らしかったわ」森美術館(東京)2024 年 撮影:長谷川健太© The Easton Foundation/Licensed by JASPAR, Tokyo, and VAGA at Artists Rights Society (ARS), New York, 2024.

渋谷の忠犬ハチ公像のように、六本木エリアで待ち合わせるときは「六本木ヒルズ」入り口の大きな蜘蛛の彫刻《ママン》で集合。なんて人も多いのではないだろうか。「ハチ」の物語はよく知られているが、クモについてはどうだろう。《ママン》のお膝元、六本木『森美術館』で、その制作者でもあるルイーズ・ブルジョワの、国内では27年ぶりとなる大規模個展が開催中だ。家族との関係性と心の修復を切り口にした3つの章立てから約100点の作品を紹介し、そのキャリアの全貌を知ることができる展覧会だ。身体性、セクシュアリティ、ジェンダーといった主題に基づいた作品群。初期作品から最晩年に至るまで、アーティストの内側から発露される引き裂かれるような感情や記憶を芸術の域まで昇華する、そのあまりに生身な表現の迫力に圧倒される。蜘蛛《ママン》が示す母性は優しく深い愛か、獰猛な捕食者か。生き別れること、見捨てられることを恐れたブルジョワ。人間のアイデンティティは他者と関わる中でしか形成されないと考えた彼女の作品前で、人と待ち合わせ・出会うことの意義深さにもハッとさせられる。

インフォメーション

ルイーズ・ブルジョワ展:地獄から帰ってきたところ 言っとくけど、素晴らしかったわ

会場:森美術館
会期:2024年9月25日(水)〜2025年1月19日(日)
時間:10:00 〜 22:00(火曜日は17:00まで)、12月24日(火)・31日(火)は22:00まで
休み:なし
料金:平日/一般2000円、大学生・高校生1400円、65歳以上1700円、中学生以下無料。土・日・休日/一般2200円、大学生・高校生1500円、65歳以上1900円、中学生以下無料※オンラインサイトよりご購入の場合は料金が異なります。※予約優先制です。

Official Website
www.mori.art.museum

黒部市美術館開館30周年『サエボーグ Enchanted Animals』
@黒部市美術館

「黒部市美術館開館30周年サエボーグ Enchanted Animals」会場風景、撮影:柳原良平

「黒部市美術館開館30周年サエボーグ Enchanted Animals」会場風景、撮影:柳原良平

「黒部市美術館開館30周年サエボーグ Enchanted Animals」会場風景、撮影:柳原良平

大谷翔平の偉業「50:50」なんてワードが今年の流行語大賞トップ10にランクインしたそうだが、こちらの「50:50」は半分人間&半分玩具の不完全なサイボーグ・アーティストのこと。ラテックス製のボディースーツを纏うことで自身の身体を拡張させ、家畜等のキャラクターに扮したパフォーマンスを行う作家がサエボーグだ。農場や家という生活世界を舞台に家畜等の役割を演じることで、生きることの関係や構造を開示し投げかけてきた。「Enchanted Animals」(魔法にかかった動物たち)と題された本展では、鑑賞者も家畜に変身。動物たちの耳や尻尾などを身に付けた鑑賞者が、会場に広がる農場世界に誘われる。変身し、演じることによって、無邪気な家畜の生に触れたり、同じ生き物として情を見出したり、あるいは解放された自分自身に出会えるような、舞台的空間が広がる、家畜と鑑賞との「二刀流」の展示にワクワクせざるを得ない。

インフォメーション

黒部市美術館開館30周年『サエボーグ Enchanted Animals』

会場:黒部市美術館
会期:2024年11月16日(土)〜2025年1月13日(月・祝)
時間:9:30~16:30(入館は16:00まで)
休み:月曜(但し1月13日は開館)、12月29日~1月3日
料金:一般500円、高校・大学生400円(団体料金あり)※中学生以下無料、障害者等手帳をお持ちの方と付添1名無料

Official Website
https://kurobe-city-art-museum.jp/2024/08/07/saeborg/

ハニワと土偶の近代
@東京国立近代美術館

岡本太郎《犬の植木鉢》制作年:1954年 滋賀県立陶芸の森陶芸館

斎藤清《ハニワ》制作年:1953年 福島県立美術館 Ⓒクレジット:©Hisako Watanabe 

“NHK教育番組「おーい!はに丸」1983-1989年放送(左)ひんべえ (右)はに丸” 制作年:1983年 劇団カッパ座

驚くべきはこのようなタイトルが付された展覧会で「出土品」そのものは展示されていない点だ。本展が徹頭徹尾寄り添い、明らかにするのは、ハニワと土偶という「イメージ」がいかに受容されてきたかという文脈の解釈の歴史である。皇国史観に基づいた戦前・戦中の“伝統”イメージのあり方から、岡本太郎やイサム・ノグチらによる「原始美」の発見によって美的な価値が付された戦後。工芸、建築、写真、映画、演劇、文学、伝統芸能、思想、さらには『おーい!ハニ丸』などのテレビ番組に至るまで。現象を巻き起こすほど文化史の舞台に躍り出た「出土モチーフ」の系譜を追いかけながら、ハニワ&土偶に向けられた視線の変遷を辿る。本展の充実した資料・リサーチ・作品群は、日本人が歴史をどのように描きなおし、発掘してきたかという物語への挑戦でもある。東京国立博物館で開催中の展覧会「挂甲の武人 国宝指定50周年記念 特別展『はにわ』」を併せて鑑賞すれば、より理解も深まるはずだ。ハニワの顔を模した表紙が印象的な重厚な図録、はに丸グッズや長谷川三郎《無題-石器時代土偶による》をプリントしたトートなどなど、ミュージアムショップでお気に入りのグッズを出土して帰ろう。

インフォメーション

ハニワと土偶の近代

会場:東京国立近代美術館
会期:2024年10月1日(火)〜2024年12月22日(日)
時間:10:00 〜 17:00、金・土は20:00まで※入館は閉館の30分前まで。
休み:月曜日※12月16日(月)を除く。
料金:一般1800円、大学生1200円、高校生700円、中学生以下・障がい者手帳提示と付き添い1名無料。

Official Website
https://haniwadogu-kindai.jp/

YPAM:横浜国際舞台芸術ミーティング
@KAAT神奈川芸術劇場、フォーラム南太田(男女共同参画センター横浜南)、 横浜市開港記念会館、BankART KAIKO、CROSS STREET、YPAMフリンジセンター、 神奈川県立音楽堂、ほか

提供:日本体育大学

撮影:大野隆介

POP-EYE MEETING』は僕らのポッドキャストのタイトルだけれど、こちらのミーティングもかなりいい感じ。「横浜国際舞台芸術ミーティング」略してYPAM(ワイパム)は、国内外の舞台芸術関係者が公演プログラムや出会を通じて交流するプラットフォーム。日本体育大学横浜・健志台キャンパスで「集団行動」を実践する学生約70人×ドイツの現代バレエの振付家のコラボレート・パフォーマンス、新たな才能にフォーカスする「YPAMフリンジプログラム」や、村上春樹原作の演劇「品川猿の告白」、「ヨコハマダンスコレクション」などなど、注目の公演やプログラムが目白押し。ほとんどのプログラムは一般の鑑賞者も参加することができ、横浜という土地を舞台に、その盛り上がりに触れることができる。横浜に20年ほど住んでいた筆者としては、四十箇所にも及ぶ会場やその周辺スポットもおすすめしたい穴場だらけなので、ぜひとも巡ってみてほしい。

インフォメーション

YPAM:横浜国際舞台芸術ミーティング

会場:KAAT神奈川芸術劇場、フォーラム南太田(男女共同参画センター横浜南)、 横浜市開港記念会館、BankART KAIKO、CROSS STREET、YPAMフリンジセンター、 神奈川県立音楽堂、ほか
会期:2024年11月29日(金)~12月15日(日)
各プログラム詳細やスケジュール、チケット購入方法等は公式ウェブサイトをチェック。

Official Website
https://ypam.jp/

Shake Hands
@parcel

バスの二人席って妙に狭くない? それとも自分がデカいのか。知らない人と相席するのはめちゃくちゃ気を使うし、やっぱり気まずいけれど、二人だからこその予期せぬ出会いの魅力というものもある。例えばこの二人展。『parcel』で開催される石井麻希と石田恵嗣による二人展「Shake Hands」では異なる文脈や表現方法を採る二人の作家の化学反応を堪能できる。ベルリンを拠点とする石井麻希は、映像やインスタレーションを通じて人間を取り巻く「他者」との関係を模索する作家。動物や自然環境など、「非人間」の視点を取り入れることで、人間中心主義を超えた視野が魅力だ。一方、広島を拠点とする石田恵嗣は、私たちにも親しみのある童話や絵本をモチーフにした絵画を展開し、緻密なリサーチに基づいた物語性と普遍性が刺激的。異なるアプローチといえども、共通して「異界の視点」を探る二人。予期しない“異界”の出会いを求めた本展こそ、各々の作家が追求する視点が立体的な意味を持ち広がる。

インフォメーション

Shake Hands

会場:parcel
会期:2024年12月14日(土)〜2025年1月19日(日)
時間:14:00〜19:00
休み:月、火 ※12月23日(月)〜1月7日(火)は冬季休業
料金:無料

https://parceltokyo.jp/exhibition/shake-hands/