![](https://popeyemagazine.jp/wp-content/uploads/2024/02/fc8de4cbcb17c58e7d8d33fd97a4ef46-3000x1993.jpg)
カルチャー
Mr.デイヴィッド・バーン、もう一度、『ストップ・メイキング・センス』の話を聞かせてください。
ZINEのプレゼントもあるよ!
2024年2月17日
![](https://popeyemagazine.jp/wp-content/uploads/2024/03/28d5b013fc6282bacaae23765b07734b-750x750.png)
世界のかっこいい部屋と、その秘密。
photo: Kohei Kawashima
illustration: Shinji Abe
text: Keisuke Kagiwada
translation: Catherine Lealand
2024年3月 923号初出
![](https://popeyemagazine.jp/wp-content/uploads/2024/02/d3f47d2559472488560e7bef2ead0ddb-1600x1063.jpg)
「やぁ、流したいテープがあるんだ」
トーキング・ヘッズの公演を収めた1984年の映画『ストップ・メイキング・センス』は、ラジカセを抱えたデイヴィッド・バーンが、観客に向かってそう語りかけるシーンから始まる。監督はジョナサン・デミ。あれから約40年。このたび、A24により4Kレストア版として蘇った本作について、デイヴィッドらトーキング・ヘッズのメンバーに話を聞いた!
Talking Heads is back!
トーキング・ヘッズが帰ってきた!
![](https://popeyemagazine.jp/wp-content/uploads/2024/02/11e788d05e45b7c31134232f7acb721e-1600x1063.jpg)
――まずは今回の4Kレストア版をご覧になった感想を教えてください。
デイヴィット この映画を観るのは約15年ぶりだった。だから、大画面に映る若い自分を観て思ったよ。「誰だこいつ?」って(笑)。
ジェリー 以前のバージョンを初めて観たとき、トム・トム・クラブの演奏シーンだけ、他の部分から浮いているように感じられたんだ。だけど、4Kバージョンだと、映像に色調補正が加えられたことで、その違和感が解消され、より一貫性が強まっていると思った。あと、僕は今回のためにサウンドをミックスし直したんだけど、劇場のスピーカーをフル活用できるものに仕上げることができたんだ。だから、映像と音響の両面において、エキサイティングになっていると思うよ。
ティナ ジェリーの意見に賛成。映像の解像度も上がっているし、音も素晴らしい。だから純粋に楽しんじゃった。
クリス 僕の場合、以前のバージョン以上にエネルギッシュに感じられたな。現代社会には、このステージ上にほとばしるポジティブな喜びが必要なんじゃないかな。
![](https://popeyemagazine.jp/wp-content/uploads/2024/02/3510c7fe07275e258eafebf805cbde30-1600x900.jpg)
――まさに。そのポジティブさは、ステージ上で演奏しながらユーモラスに踊るメンバーの印象も大きいと思います。事前に振り付けは決まっていたのですか?
ティナ いや、たまたま隣にいる人の動きを目にして、それに対し「僕もやってみよう」と反応していく中で自然と出来上がっていったものだと思うよ。それが公演を重ねるうちに、どんどん進化していったんだ。
クリス 僕はジェームス・ブラウンみたいに見えればと思っていた。ドラムだけど(笑)。
ティナ 私の場合、楽器を抱えて踊るのは大変だった。この映画がイギリスのテレビで放映されたとき、女性の視聴者からクレームがきたの。「ティナの変な踊りのせいで、編み物の進み方がわからなくなった」って(笑)。でも、そんなことはどうでもいい。私が考えていたのは、どうすれば観客が私たちと楽しい時間を過ごせるかってことだけ。このショーを構成するすべての要素が目指していたのも同じこと。この映画では、40年前のあの瞬間に生まれた、解放感と喜びが凝縮されていると思う。
――実際、ラストでは観客が一心不乱に踊る姿も映っていますよね。今だったら、みんなスマホを構えているから、ああはならないと思います。
デイヴィット 確かに! 気づかなかったけど、今観客側のショットを撮ったら、少なくとも半数がスマホを立ち上げているに違いない。この映画の中の観客は、完璧に目の前のことに集中しているんだね。
ジェリー スマホはあらゆる体験から、それをパーフェクトに楽しむ感覚を奪ってしまうと思う。撮った映像を後で友達とシェアしたりすることはできるかもしれない。だけど、その瞬間を味わい尽くすことができなくなってしまうのは困りものだね。
![『Talking Heads』のメンバー](https://popeyemagazine.jp/wp-content/uploads/2024/02/7e516d7d7731d6c7c7117fd5256307d8-e1707467974192-1600x787.png)
――その意味で、この映画は観客が音楽ライブに心の底から夢中になれた時代の記録でもあるかもしれません。ところで、この映画を観た誰もが気になるのが、中盤でデイヴィッドが着替える途轍もなく大きなスーツです。あれの発想はどこから?
デイヴィット このステージに着手する前、トーキング・ヘッズは日本ツアーをしていて、その滞在中、僕は歌舞伎や文楽といった日本の伝統芸能を鑑賞し、とても感銘を受けたんだ。特に面白いと感じたのは、能の衣装の肩幅が大きく、ほぼ長方形だったこと。そんなある日、友人と「次のツアーではどんな衣装にしようか」という話をしている際、彼が口にした「劇場では、いろんな意味ですべてが現実よりも大きい」って言葉を僕は真に受けてね。だったら現実より大きいスーツを作ろうと思ったわけだ。
ジェリー それでゲイル・ブラッカーという僕の知り合いに依頼したんだ。
デイヴィット 彼女はニューヨークのダウンタウンで小さな店を構えていた服職人。舞台衣装専門ではなかったけど、この発注に怯むことなく、どうすれば四角く見えるか、どうすれば動いても垂れ下がらないか、さまざまに試行錯誤をしてくれたんだ。
――まさか日本の伝統芸能が影響を与えていたとは!
デイヴィット あと、日本の伝統芸能に関しては、もうひとつ驚いたことがある。それは歌舞伎で役者の衣装替えをする人や、文楽で人形を操る人の手を、隠さず観客に見せてしまうところ。西洋の人形劇では、操る人たちをパネルなんかの後ろに隠すのが一般的なんだ。でも、日本の場合は、意図的にそれを見せてしまうし、彼らが場違いな動きをしない限り、観客の気が散ることもないんだと知った。ショーの冒頭で、がらんどうの舞台に装置を作る人々を見せたのは、それにインスピレーションを受けたからなんだ。
![](https://popeyemagazine.jp/wp-content/uploads/2024/02/943cd08c62369bd732403d390acea79b.png)
――そうだったんですね。そんな本作の監督にはジョナサン・デミがクレジットされています。最後に彼がこの作品にどのように関わったのか教えてくれますか?
デイヴィット 誤解のないように言っておくと、このショー自体は僕らが作り、ツアーもしていた。それを観たジョナサンが、映画にしたいと提案したんだ。彼の仕事は、僕らのショーを3日間にわたり6台のカメラで捉え、ひとつにまとめることだった。映画では流れをよりスムーズにするため、実際のショーからいくつかの曲を削除しているんだけど。
ジェリー 空っぽのステージにまずデイヴィッドが登場し、曲を追うごとに1人また1人とメンバーが増えていく構成も既にあったんだ。だけど、ジョナサンは誰もいない舞台をまずロングショットで映して「ここから何かが始まるんだ」という感触を観客に与え、それから個々のメンバーに寄っていくことで、物語の登場人物を紹介するように捉えてくれた。おかげで、この映画の観客は、メインボーカルやギタリストだけじゃなく、メンバー全員にまるで昔から知っていたかのような親密さを感じられると思う。ステージ上の誰かと誰かがコミュニケーションを取り、グルーブが生まれる瞬間もたくさん映っている。そういうコンサート映画はほとんどない。
ティナ ただ、この映画に取り組む直前、ジョナサンは別の作品に取り組んでいたから、私たちのツアーに同行して、どこにカメラを置いてどの瞬間に誰を撮影するといったことを事前に決めたのは、当時彼と付き合っていたサンディ・マクロードなんだけど。
ジェリー スタッフの話で言えば、撮影監督のジョーダン・クローネンウェスのフレーミングも素晴らしいよね。クリスがドラムを叩いているショットは、基本的に赤い背景にシルエットで映っているんだけど、ここしかないって位置にカメラが置かれている。先日、飛行機の中で他のバンドのコンサート映像を見ていたんだけど、ドラマーのカメラアングルが毎回同じでとても退屈だったよ(笑)。
ティナ つまり、この作品は私たちやジョナサンだけじゃなく、サンディやジョーダンも含む、とっても大きなチームによる共同作業の結晶なの。
インフォメーション
![『ストップ・メイキング・センス 4Kレストア』 トム・トム・クラブの演奏シーン](https://popeyemagazine.jp/wp-content/uploads/2024/02/1bbaf59f666dfaa7fd73cc821f0d5202-320x180.jpg)
『ストップ・メイキング・センス 4Kレストア』
トーキング・ヘッズの芸術性を余すことなく詰め込んだ珠玉の89分。中盤では、ティナとクリスの別バンド、トム・トム・クラブの演奏シーンも。今回のバージョンの本国公開に際しては、デイヴィッドが例の“ビッグスーツ”を洗濯屋に取りに行くという楽しい予告編も作られたので、そちらをチェックしてから鑑賞すべし。TOHOシネマズ日比谷他にて絶賛公開中。
What is the background of Stop Making Sense?
『ストップ・メイキング・センス 4K レストア』にまつわる3つの小話。
1. How to Found the Lost Film
![](https://popeyemagazine.jp/wp-content/uploads/2024/02/How-to-Found-the-Lost-Film-1600x1016.png)
失われていたオリジナルフィルムとオーディオトラックがどうして今頃になって出てきたのか?
4Kレストア化するにあたって、まず必要になるのがフィルムのネガ。しかし、企画が動き出してもコピーしか見つからなかった。アップグレードを担当した技術者ジェームズ・モコスキーはそれでも諦めず、ただ知人がいたというだけで本作とはまったく関係ない映画会社MGMのライブラリーに連絡。すると、なぜか30年近く手付かずで放置されていたオリジナル・ネガが発見されたという。時同じくして、オリジナルのオーディオ・トラックも見つかり、かくして映像、音響ともに極上の4Kバージョンが生まれたというわけ。公開に先立ち、本作のオーディオトラックはアナログ・レコード2枚組で発売もされた。家宝にするっきゃない。
2. About Stop Making Sense
![](https://popeyemagazine.jp/wp-content/uploads/2024/02/About-Stop-Making-Sense-1600x1083.png)
有名な手書きロゴ、実はあの名作と同じ人。
オープニングクレジットを軽やかに飾るヘタウマな手書きタイポグラフィーに注目! 「これってもしや……」と思ったあなたはかなりの映画通だ。そう、スタンリー・キューブリックの『博士の異常な愛情』とまるっきり同じなんだから。生みの親は、キューブリックに見いだされたグラフィックデザイナー、パブロ・フェロ。のちに、このフォントは『アダムス・ファミリー』や『メン・イン・ブラック』なんかでも使われ、最近ではヨルゴス・ランティモスの『哀れなるものたち』でも似たフォントが採用されていた。だけど、デイヴィッドのヘタウマダンスを予告するかのようなそのタイポグラフィーは、本作との相性こそばっちり。
3. Respect To Fred Astaire
![](https://popeyemagazine.jp/wp-content/uploads/2024/02/Respect-To-Fred-Astaire-1600x826.png)
名シーンは、フレッド・アステアへのオマージュだ。
デイヴィッドの遊び心溢れるダンスも、本作の見どころのひとつ。特に忘れがたいのは、「ジス・マスト・ビー・ザ・プレイス」の歌唱中、真っ暗な舞台上でスタンドライトをエスコートするように踊るシーンだ。前ページのインタビューでは、劇中の自身のダンスについて口を閉ざしたデイヴィッドだが、実はこれ、ミュージカル映画『恋愛準決勝戦』で、帽子掛けと踊ったフレッド・アステアへのオマージュといわれている。冒頭の「サイコ・キラー」でデイヴィッドが膝から崩れ落ちるような動作をするのも、本作のアステアが着想源らしい。思えば何をやっても下品にならないデイヴィッドのエレガントな佇まいは、アステアに通じるかも。
Catching up with The Big Suit!
ついでにあのビッグスーツのひとり語りも本邦初抄訳したよ。
![](https://popeyemagazine.jp/wp-content/uploads/2024/02/DMA-ZINE-023-SMS-SUIT-ESSAY-1-1600x1200.jpg)
デイヴィッドはいつもでかい服を好んだ。CBGBの舞台係の男に聞いたことがあるよ。男は体重が300ポンドはあるプロのアメフト選手で、デイヴィッドはいつもそいつのズボンを借りたがったらしい。男は冗談だと思っていたんだが、結局貸してやることにしたんだ。ある晩、ラモーンズのすぐ後にデイヴィッドがステージに上がると、借りたズボンがずり落ちた。だが、小ぶりの毛沢東が描かれた巨大なボクサーパンツ姿のあいつは、ズボンがくるぶしのところにあることなんか気にする様子もねぇ。後日、ディー・ディー・ラモーンが言った。「お前のでかいズボンとでかいパンツ、いいじゃん。今度貸して」。全部デマかもしれねぇし、真相はわからねぇ。だが、俺はその出来事が、デイヴィッドに何かのアイデアをもたらしたと睨んでいる。
俺が生まれたのは……〝生まれた〟って表現が正しいなら、ニューヨークのガーメント地区だ。あのエリアがまだ服を作ってた頃の話さ。俺はスーツにしちゃ大きかったし、逆子だった。要するに、パンツから先に出てきたって意味。何人かのテーラーが立ち会い、お針子の一人は気絶したらしい。
よく聞かれっから、映画の中のダンスについても話しておくよ。「ガールフレンド・イズ・ベター」の3分くらいのところの話さ。俺らはいろんな動きをリハーサルしたが、どれもハマってねぇ気がした。そんなある昼休み、見ちまったのさ、屋台のプレッツェルを買おうとした観光客の男が、蜂から逃げ惑っているのを。恐怖に慄くその観光客が始めた動きは、マジで妙。そんで、俺も同じように動き始めたんだ、そいつをおちょくるためにね。それが面白かったから、俺らはそのダンスをまんまステージで披露したってわけ。
結局、蜂に刺された男が、アナフィラキシーショックでオダブツになっちまったのは悲しい話だ。俺らはそいつの女を探し出して、ショーのタダ券を渡したんだが、その夜、彼女は別の人と出会ったらしいよ。
みんな言うよ。「1曲しか着られてねぇだろ!」って。だが、そんだけで世界を変えちまったんだ。まあ、世界は変わらなかったかもだが、みんなでかいスーツを着るようになったんだ。まあ、みんなじゃないかもだが、レーガン内閣の閣僚はでかいスーツを着るようになったし、レーガンもゴルバチョフとジュネーブで初会談をしたときでかいスーツを着てった。ゴルバチョフは笑い、レーガンは踊り、ゴルバチョフがスーツを貸せと言うとレーガンは断り、ゴルバチョフが「核攻撃してやる」とキレるとレーガンは「お前はロシアの犬だ」と応じ、でもって二人は笑い続けた。
波乗りしているみたいだったよ。名声を手にして、落ちぶれたんだから。以来、帰還兵が酒に溺れるみたいにドライクリーニング液を飲み干す日々だったし、目覚めるといつもしわくちゃだった。1990年、マドンナから電話があった。スーツが電話に出るのは楽じゃなかったが、どうにか受話器を取ると、彼女は大ヒット中の新曲「ヴォーグ」のMVを制作しているという。デヴィッド・フィンチャーが監督で、出演者がみんなスーツを着るこのモノクロのMVに、彼女は俺を参加させたがった。すげぇと思った俺は聞いたんだ。「そのスーツはでかい?」。「違う」と彼女は答えた。「ただの……わかるでしょ、普通のスーツよ」。キレた俺は言ったよ。「〝普通の〟スーツってどういう意味だ? あんた何が普通か知ってんのか?」。俺の気持ちもわかってくれ。当時、仕事の連絡は途絶えてたし、仏教に出合う前の話だったんだ。マドンナは含み笑いを浮かべた。彼女の居心地が悪いことくらい俺にもわかるよ。「ねぇ、そんなふうにならないで。普通サイズのスーツの話じゃん」。俺は言った。「なんともねぇ。ただ、あんたが映画を観たかは定かじゃないが……でかいスーツは人を殺すんだぜ」。少しの間があった後、「あなたはそんなに大きなスーツじゃないわ」と言い残し、彼女は電話を切った。
昔を振り返ることはあるかって? そりゃね。俺だってただの人間だから。まぁ、布ではあるが、ポイントはそこじゃねぇ。重要なのは、ある瞬間をリアルに生きたかどうか。「(バーンが)踊るシーンは、スーツが彼を動かしているようだ」。これ、誰が書いたと思う? 『ザ・ニューヨーカー』のポーリン・ケイルだよ! 俺が言いたいのは、みんな誰かに必要とされたいって話。この〝みんな〟には、スーツ、Tシャツ、下着も含まれるんだよ。
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