カルチャー
ジム・ジャームッシュの映画リストを君へ。
2023年7月17日
今日観る映画が決まらないという君へ。
photo: Sara Driver(SQÜRL), Kuriko Sato(Jim Jarmusch)
text: Kuriko Sato
2023年8月 916号初出
サイレント映画は、
すべての時代を通して、
洗練の頂点に立つと思う

ダダイストあるいはシュルレアリストとして知られるマン・レイの、最初の無声短編映画『Return to Reason』(1923)の100周年を記念して、本作を含む彼の4作品を4Kに修復し、1本の作品に繋げてサウンドトラックをつけたのが、70分に及ぶ『Return to Reason』である。そのサントラを担当したのがジム・ジャームッシュと相棒カーター・ローガンによるバンド、SQÜRL。彼らは春にこのサントラを演奏するヨーロッパ・ツアーを行い、本作の映像を流した。カンヌ国際映画祭でキャッチしたジャームッシュに、プロジェクトについて語ってもらった。
マン・レイとの出会いは、僕がティーンエイジャーのとき。ダダイズムとシュルレアリズムを発見したときで、それは僕にとって、多くのものの知覚を変えるような重要なことだった。彼は写真や映像だけではなく、絵画、彫刻、コラージュなどさまざまなことをやっていたけれど、すべてが好きだったし、その生き方にも惹かれた。彼は名を成すためにやっていたのではなく、純粋に表現が好きで、アイデアを具体化することに興味があったのだと思う。つねにマージナルな存在だった。
マン・レイは「映画監督」ではない。物語を語ることに興味はなく、いろいろなものを集めカメラを使ってクリエイトすることに興味があった。そこにとてもインスパイアされる。
僕らは即興的に、ただマン・レイの映像に呼応するような音楽を作った。ちょっとサイケデリックで、夢幻的で、恍惚とするような。聴いた人にもそう感じてもらえたら嬉しいよ。
今回サントラを作るために何度も彼の作品を観たけれど、毎回何かしら細部に関して発見がある。これはプロデューサーが教えてくれたことだけど、マン・レイはある場面でキキ・ド・モンパルナスが裸で横たわっている横位置の写真を縦にして使用し、そこにまた別の映像をかぶせ、サブリミナル効果のように用いている。映画ではあまり目立たないかもしれないけれど、その事実を知ることでマン・レイの創作のプロセスがわかる。
サイレント映画は僕にとって、つねにインスピレーションを与えてくれるものだ。すべての時代を通して、洗練の頂点に立つと思う。トーキーが登場したおかげでサイレント映画は忘れられてしまったけれど、F・W・ムルナウやフリッツ・ラングといった監督たちは’20 年代にすでに映画のアートフォームを極めていた。
マン・レイ以外で僕のオールタイム・フェイバリットを挙げるなら、ムルナウとバスター・キートン。彼らはマン・レイとは異なり、物語を語ることに興味があった。キートンは僕にとって巨大な存在だ。ムルナウは、とてもエレガントで革新的。カメラの使い方も驚くほど洗練されている。でも彼ら以外にも、ソビエトのジガ・ヴェルトフやセルゲイ・エイゼンシュテインなど、影響を受けた監督のリストはエンドレスだ。

Return to Reason
監督:マン・レイ/1923年/70分
少々ややこしいが、もともとのマン・レイの無声映画はわずか3分。本作はそれに、彼の他の短編3本、『Emak-Bakia』(1927)、『L’étoile de Mer』(1928)、『Les Mystères du Château du Dé』(1929)を加え、SQÜRLが音楽を付けたものだ。マン・レイのシュールな映像による夢幻性が、彼らの音楽によってさらに強調されている。

キートンの大列車追跡
監督:バスター・キートン/1926年/106分
キートンの代表作の一本。南軍と北軍が対立する1860年代、恋人を乗せた機関車を北軍に奪われた機関士が、奪回するために孤軍奮闘する。キートンが得意とするアクロバティックで壮大なアクションと、ロマンティックなスラップスティック・コメディの融合。

都会の女
監督:F・W・ムルナウ/1930年/77分
ムルナウがハリウッドに渡って撮った晩年の作。都会のレストランで働くヒロインが、田舎の素朴な青年と結婚して彼の故郷に戻る。だが青年の父の断固とした拒絶に遭う。カメラワークと自然描写がみごとで、テレンス・マリックに影響を与えたというのも頷ける。
インフォメーション

ジム・ジャームッシュ
1953年生まれ。『パーマネント・バケーション』で長編映画デビュー後、『ストレンジャー・ザン・パラダイス』『パターソン』など独特のスタイルのある作品を発表し続けている。写真はジャームッシュのスマホに映ったキキのネガ。
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