カルチャー

現代の映画は私にとってペースが早すぎるのです。

『ファースト・カウ』のケリー・ライカート監督にインタビュー。

2023年12月22日

text: Keisuke Kagiwada

ファースト・カウの場面写真
© 2019 A24 DISTRIBUTION. LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

『ファースト・カウ』は、これまで数多く作られてきたウエスタン映画とは何かが違う。確かに、舞台は西部開拓時代のオレゴンだ。しかし語られるのは、気弱な料理人クッキーと中国人移民のキング・ルーが出会い、友情を育む物語。ガンマンたちのドンパチではない。監督を務めたのは、ケリー・ライカート。近年、現代アメリカ映画の最重要作家として日本でもようやく注目を集めつつある彼女に話を聞いた。

ファースト・カウの場面写真
© 2019 A24 DISTRIBUTION. LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
ファースト・カウの場面写真
© 2019 A24 DISTRIBUTION. LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

ーー本作は現在のオレゴンの沿岸地帯で、土の中から白骨死体が発見されるシーンから幕を開けます。それをきっかけに、本編となる西部劇パートに入っていくわけですが、なぜ現代パートを冒頭に据えたのでしょうか。

 オレゴンの沿岸地帯の現在と過去を照らし合わせながら描きたかったからです。コロンビア川は、1820年代以前からネイティブアメリカンの人たちが、カヌーに荷物を乗せて貿易をしていたことで知られています。それがどんどん発展した結果が、映画の冒頭シーンに登場するタンカーであり、これらは地続きであることを示したかったんです。

 それから、本作の原作小説『The Half-Life』(作者は『ファースト・カウ』の脚本も手がけたジョナサン・レイモンド)も、白骨死体の発見から始まっています。この興味深いイメージを、採用したかったというのもあります。

ーーその後の西部劇パートで、キング・ルーが呟く「ここ(オレゴンの沿岸地帯)にはまだ歴史が追いついてない」という台詞とも響き合っているわけですね。

 その通りです。

ーー監督は『ミークス・カットオフ』で、これまでの西部劇では”その他大勢”として背景に追いやられていた女性たちを中心に据えていました。今作の主人公は男性ですが、いわゆる”西部のヒーロー”ではありません。本作もまた、西部開拓時代の物語をこれまでとは別の視点から捉え直したいという思いがあったのでしょうか。

『ミークス・カットオフ』の場合、舞台は砂漠だし、馬車も登場するので、アメリカにおけるウエスタン映画の流れを汲んでいる意識はすごくありました。ですが、今作に関しては、それほど意識していません。というのも、今作の舞台である1820年代は、西部開拓が本格化する少し前、まだ共通通貨もなく、物々交換をしている時代だからです。

 むしろ、本作で描きたかったのは、そんな時代におけるヒエラルキーと言えるかもしれません。クッキーは貧しいシェフだし、キング・ルーは中国人移民だし、仲買商の召使いはハワイ移民です。あとは、ノーマ族というネイティブアメリカンも登場します。上には仲買商を始めとする男らしい権力者がいるなか、クッキーたちがいかにして生き残っていくかを描きたかったんです。原作の主人公もそういうキャラクターでしたから。

ーー男らしい権力者とは異なるキャラクターを描こうという意思は、クッキーが初めてキング・ルーの小屋に招かれるシーンで強く感じました。キング・ルーは薪を割りに行くのですが、クッキーは「くつろいでいて」と言われたにもかかわらず、玄関先を掃除し始める。このシーンには、とても感動しました。

 11月に東京国際映画祭で小津安二郎をめぐるシンポジウムに参加したんですが、16作の小津映画を観て驚いたのは、家長である男性が帰宅して服を脱ぎ捨て、床に落ちたそれを妻が拾うシーンを執拗に描いていることでした。手渡すわけでもなく、わざわざ脱ぎ捨てるんですよ! 

 そういうシーンをアメリカ人である私が観ると「なるほど……」と絶句するわけですが(笑)、振る舞いというのは、人間性やその人が所属する社会性を表すものなんだと思います。自分にとって心地いい振る舞いというのは、人それぞれ。家の中を綺麗にすることだって人もいるだろうし、外で動物を殺すことだって人もいるでしょう。クッキーは前者だったということだと思います。

ーー少し前から、映画ジャーナリズムにおいて「スローシネマ」という言葉が注目を集めています。静かに淡々と進むタイプの映画のことですが、ライカート監督もその文脈で語られることがしばしばあり、本作を「スローシネマ」と呼ぶ批評もあります。ご自身としては、この言葉で語られることを、どう受け止めているのですか?

 興味深い言葉ではあると思うんですが、私にとって物語を語る上での自然なペースを選んでいるだけなんです。

 ご指摘されたクッキーが掃除するシーンに関して言えば、彼の人となりを物語るという役割がまずあります。だから、観客に彼のキャラクターをもっと知ってもらうため、寄り添ってもらうため、しかも、「ここを見て!」という感じに切り取るのはない形で自然に導くためには、その姿をじっくり見せる必要がありました。次から次へと素早く進んでいく映画に、それはできません。と同時に、純粋に観ていて面白い、ずっと観ていたいと私が思ったからこそ、あのシーンは自然と長くなっているわけです。

 ある俳優のキャスティングを検討するため、その人の過去の出演作を観ることがありますが、私にはペースが早すぎる。俳優の表情がまったく見えないこともしばしばです。これは次から次へと商品を作り、誰かに売りつけるチャンスを常に狙っている資本主義の反映なのでしょう。現代社会を覆っているその早いペースに、私はまったく魅力を感じないんです。

インフォメーション

ファースト・カウ

ファースト・カウ

物語の舞台は1820年代、西部開拓時代のオレゴン。アメリカン・ドリームを求めて未開の地にやってきた料理人のクッキーと、中国人移民のキング・ルー。共に成功を夢見る2人は自然と意気投合し、やがてある大胆な計画を思いつく。それは、この地に初めてやってきた“富の象徴”である、たった一頭の牛からミルクを盗み、ドーナツで一攫千金を狙うという、甘い甘いビジネスだった――! 12月22日より公開。

© 2019 A24 DISTRIBUTION. LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

プロフィール

ケリー・ライカート

ケリー・ライカート

1964年、アメリカ・フロリダ州出身。1994年『リバー・オブ・グラス』で長編監督デビュー。主な作品は『オールド・ジョイ』『ミークス・カットオフ』など。『ファースト・カウ』の次作『ショーイング・アップ』も現在公開中。