ユーチューバー、デヴィッド・リンチにインタビュー。
映画界の奇才が語る、ネットの素晴らしさとは?
2021.03.28(Sun)
coordination: Aya Muto
text: Keisuke Kagiwada
2020年9月 881号初出

あのデヴィッド・リンチがユーチューバーになった!? しかも、毎日のように天気予報をアップしている!? 気になって「DAVID LYNCH THEATER」なるチャンネルを覗いてみると、天気予報以外にも彼の日常を映した動画がいろいろアップされているではないか。ダメ元でインタビューのオファーをするっきゃない! と直接メールを送って待つこと1か月。「電話で20分だけ」との返答が! 以下はその会話の一部始終である。
―ハロー、ミスター・デヴィッド! 単刀直入にお聞きしますが、どうして「D
AVID LYNCH THEATER」で天気予報を始めたんですか?
デヴィッド・リンチ(以下D) 天気というやつはみんなの興味を引く話題だと思うんだ。なぜかはわからないがね。かく言う僕も面白いと思っている。だから、LAの天気予報を始めたんだ。僕が知っているのは、LAの天気だから。それがどうやら好評でね。僕がアップすると、見た人たちが自分たちのエリアの天気情報をコメント欄に投稿してくれるんだ。今やそうやってインターネットを通して、世界中と対話するのが日課となっている。楽しいよ。
―気象観測データを自分で分析してるんですか?
D 窓の外を見て、目に映ったままを伝えてるだけさ(笑)。
―目視だったんですか(笑)。天気予報動画で、あなたの後ろに見えるデスクには、電話が開閉式のボックスに入っていますよね。あれ、気になります。
D あれは僕のペインティング・スタジオにあるデスクでね。半分は屋内、もう半分は屋外なんだ。だから、ボックスに入れて、電話を外気から守っているんだ。ちなみに、僕の自作だよ。


2000年代初頭から今はなきオフィシャルサイトでもアップしていたほど天気予報好きのリンチ。固定画面に向かって彼が淡々と天気を伝えるのみのスタイルはクセになる。使用しているマイクはLAのラジオ局「KCRW」から寄贈されたもの。
―「DAVID LYNCH THEATER」では天気予報以外のコンテンツも充実しています。インターネットは、あなたの創作活動に変化をもたらしましたか?
D ああ、インターネットは素晴らしい。魔法みたいなものだな。もともと短編映像のホームグラウンドくらいにしか考えてなかったんだ。だけど、今やなんでもありのプラットフォームになっている。僕は小さなものを作ることや実験が大好きだから、そういうものの行き先にもなってくる。それに他の人が何に取り組んでいるのか知れるのも興味深いよ。
―実際、あなたの創作活動のようすをレポートした「WHAT IS DAVID WORKING ON TODAY?」シリーズでは、「あなたが何を作っているか教えてください!」と締められていましたね。
D 人々がどんなことに取り組んでいるのか、純粋に興味があるし、同じ人間同士互いにインスピレーションを与え合えればと思ってね。世の中の他の人たちが毎日何かを作っていると知れたら、僕は幸せだし、僕自身も何かに取り組まなくてはという気持ちになるんだ。


こちらのシリーズは、現在リンチが取り組んでいる創作物を毎回ひとつ取り上げて紹介するというもの。写真は、絵を描くときに使うと次のステップが心に浮かぶようになる魔法の棒の使い方をレクチャーしている。謎。

リンチがみんなの質問に答えるシリーズ。「最近、インスパイアされた歌は?」「シガレッツ・アフター・セックスの曲」といった問答をはじめなんでも答えてくれる。ただし「作品の意味は?」系の制作の根本にかかわるような質問はNG。そこが聞きたいんだけど……。
―あなたのような人が日常をシェアしてくれることは、ファンにとってはとても嬉しいことです。
D 僕はある一面では寛容なのかもしれない。まぁ、聞かれても答えないし、シェアしないことはあるが。僕は物語が大好きなんだ。裏方の話や何かを作るときに起きた出来事も、僕にとっては物語だし、興味がある。だから、もしかしたらそれが他の人にとっても興味を持ってもらえることかもしれない。そんな考えで、こういう映像をあげているんだ。
―ネットに載せるか否かの境界線はなんでしょう?
D これを面白いと思ってくれる人がいるかなと思ったら、シェアすることにしている。僕は誰に頼まれずとも常に動き、考え、記録しているんだ。今の時代は、そうやって作り終えた、やり終えた物事を、好きなときに公表できる場所がある。やっぱりインターネットは素晴らしいよ。そうとしか言いようがない。

DAVID LYNCH THEATER
今回紹介した他にもダークな短編映画などが観られる。ちなみに、今回の取材でリンチが日本の木造技術に興味を持っていることが判明。いわく「気が狂いそうなほど素晴らしい!」。(C)