カルチャー
センスのいい映画は、センスのいい人に聞く。
2023年7月20日
映画を「シネマ」として捉え、深掘りしたのが大学時代、と説明するスコット・スタンバーグ。まずヌーベルバーグに開眼し、チェコ、それから日本の映画にも興味は向いた。「好きなのは’70年代のエグみが滲み出ている映画。ちょっと危険で、’60年代に漂う楽天主義から逸脱したリアルさがあってね」
洋服の世界観を作るリファレンスが映画だった、というスコットがアイビースタイルをはじめとした「着合わせ」の真骨頂をテーマに、この4本を選んでくれた。
①早春
監督:イエジー・スコリモフスキ/1970年/92分
着合わせの妙技に釘付け
ジョン・モルダー=ブラウン演じる主人公マイクの仕事着は、公衆浴場の名前がグラフィックで入った水色のTシャツにカーキの短パンと白衣、という姿。これを見て「グラフィックT、どこかにあったっけ……」と思わず探したというスコットは、そのスタイリングされていないルックをベタ褒めする。「僕がアイビースタイルが好きな理由の一つに、洋服の取り合わせ方があって。ケーブルニットのようにそれぞれのアイテムももちろん好きだけど、アイビーを定義するものはその着合わせ方だと思うんだ。ユニフォームの白衣に青いTシャツ。狙ったルックじゃないのになんて完璧!」と語るスコットは、マイクが着ているツイードスーツの似合わなさにも、美を見いだす。「正直体に合ってなくて、着られちゃってる。でもそれは背伸びをして大人になろうとしている彼の描写要素なわけで。映画の目線となるカメラの位置、プールのシーンの色合いも素晴らしい。もっと認知されるべき映画だね!」
インフォメーション
早春
キャット・スティーブンスやカンをBGMに、ロンドンの公衆浴場で物語は展開していく。初めてのバイト先で働く魅惑的な年上女性スーザンに夢中になるマイク。バスハウスとプールを併設した美しいロケーションで、背伸びした主人公の思春期ならではの葛藤はとんでもない結末へと迷走していく。
②おかしなおかしな大追跡
監督:ピーター・ボグダノヴィッチ/1972年/94分
着崩したアイビールックがいいんだ。
「ライアン・オニールの役が、〈ブルックス ブラザーズ〉的なアイビールックですごくいい! まあハリウッド大作だから、ちょっと’60年代の古くさい感じもするけどね。バーブラ・ストライサンドは映画を通して素晴らしいルックを貫いているし、この時代のライアンはとてもハンサム。ちょっとナーディな役だから、ボタンが少し外れていたり、パジャマの上からシャツを着て二重の襟になっていたり、でもそれがいい意味での着崩しになっていて」。アイビーでも〈ブルックス ブラザーズ〉は大衆的な系統、とスコットが指摘しているのが興味深い。「夏のアイコン、とも言える最初のシアサッカースーツ姿はまるで〈ブルックス ブラザーズ〉の広告みたい! それから髪型も、縁の太いメガネもすごくいいね! 予告編に出てくるボグダノヴィッチ監督のメガネもよかったな……。おバカな映画なんだけど、甘酸っぱさもあって、まだ観たことない人は一度は観てみて!」
インフォメーション
おかしなおかしな大追跡
サンフランシスコを舞台に4つの同じツイード柄のバッグを巡って繰り広げられる、ワーナー・ブラザース・スタジオのスクリューボール・コメディ。バーブラ・ストライサンド演じる奔放なジュディと、ライアン・オニール演じる生真面目な音楽理論研究家のハワードの目眩くテンポのチグハグなやり取りから目が離せない。
③ザ・ビートルズ:Get Back
監督:ピーター・ジャクソン/2021年/468分
しっかり服を着ていた時代?
「ここ数年観た中で群を抜く、かなり面白い映画だった」とスコットを唸らせた作品だが「そもそも誰のために皆あんな格好を常にしていたのか?」と鋭いツッコミを入れることも忘れていない。「スタジオに入るときもみんなに注目されるからピシッとした格好をいつもしてるのか? それともメンバー同士のためにドレスアップしてるのか? そんなことが気になっちゃって。もちろん当時はアスレジャーなんてないから、スウェットやヴィンテージT(そもそも彼らの時代のものが後にヴィンテージTとなるわけで)を着てスタジオに、なんてあり得ない時代。思いの外、これまでスタイルを意識したことがなかったジョージ・ハリスンがイケてるなあ、と思ってね。ルーフトップのコンサートでのパンツ姿は特に良かった。僕らの人生に大いに入り込んでいる曲の創作過程を臨場感たっぷりに体感できるってすごいこと。アンビエント映画としてまた観直したいな」
インフォメーション
ザ・ビートルズ :Get Back
1969年に16㎜フィルムで撮影された「ゲット・バック・セッション」の60時間にも及ぶ映像と音声を、ピーター・ジャクソン監督が3部構成の長編ドキュメンタリー映画として新たに製作。最新技術を使った修復作業や、パンデミック中のストリーミング公開も話題に。
④セント・エルモス・ファイアー
監督:ジョエル・シューマッカー/1985年/111分
キャラクター設定がスタイルに滲み出る。
「この映画はとてもエイティーズだからシネマ、とは言えないんだけど」と前置きするスコット。リアルタイムで観たから懐かしさもある作品だそうだが、それぞれのキャラクターの性格や抱える葛藤が服で見事に表現されていて面白いと言及する。「例えばジャド・ネルソン演じるリベラルから共和党へと寝返ったコンサバ成功主義のアレックは、〈Jプレス〉や〈ポール・スチュアート〉的な格好。アンドリュー・マッカーシー演じるビート詩人的なケヴィンはフェドラ帽をかぶったり、ルースなテーラリングの服ばかり着ている。早くに子供を作って結婚したけど、現実逃避でプレイボーイなサクソフォン奏者ビリーを演じるロブ・ロウはノースリーブ・シャツやヘッドバンドといった姿。監督のジョエル・シューマッカーはNYのデパート『ヘンリ・ベンデル』のウィンドウ・ドレッサーだったという経歴があるからファッションへの観点が鋭いし、セットデザイン的にも見どころたくさんだよ!」
インフォメーション
セント・エルモス・ファイアー
大学時代のベストフレンド7人の、大人になる過程のそれぞれの葛藤を描き、同年公開のジョン・ヒューズ監督『ブレックファスト・クラブ』等と共に「ブラット・パック」と呼ばれる青年期映画。主題歌も当時のビルボード1位を飾ったりして、’80年代の情感たっぷりな作品だ。
関連記事
カルチャー
一般市民が突然大事件に巻き込まれる映画ベスト10
2021年11月5日
ファッション
“センスがいい人”の戦略。白洲次郎
文・デーヴィッド・マークス
2022年1月30日
ファッション
マイク・ミルズとスタイルリファレンス。【前編】
2022年1月19日
カルチャー
人生で大切なことは映画が教えてくれた。/石橋英子
2022年8月3日
カルチャー
Podcast|映画監督・黒沢清と篠崎誠のホラー対談。
ホラー映画の秘かな愉しみ。
2021年9月16日
カルチャー
MY STANDARD COMICS/ヨン・サンホ
2022年10月18日
カルチャー
YouTubeで観る傑作ショートホラー。
映画監督ジュリアン・テリーに質問。
2021年8月20日
カルチャー
キム・ボラが選ぶ映画ベスト10。
戦争も日常も、正直に捉えた映画。
2021年11月14日
フード
コッポラ一家とスパゲッティ。
2021年4月10日
ピックアップ
PROMOTION
ホリデーシーズンを「大人レゴ」で組み立てよう。
レゴジャパン
2024年11月22日
PROMOTION
「Meta Connect 2024」で、Meta Quest 3Sを体験してきた!
2024年11月22日
PROMOTION
人生を生き抜くヒントがある。北村一輝が選ぶ、”映画のおまかせ”。
TVer
2024年11月11日
PROMOTION
〈バーバリー〉のアウターに息づく、クラシカルな気品と軽やかさ。
BURBERRY
2024年11月12日
PROMOTION
介護がもっと身近になるケアギビングコラム。
介護の現場を知りたくて。Vol.3
2024年10月23日
PROMOTION
〈ハミルトン〉と映画のもっと深い話。
HAMILTON
2024年11月15日
PROMOTION
うん。確かにこれは着やすい〈TATRAS〉だ。
TATRAS
2024年11月12日
PROMOTION
君たちは、〈Puma〉をどう着るか?
Puma
2024年10月25日
PROMOTION
〈ナナミカ〉と迎えた、秋のはじまり。
2024年10月25日
PROMOTION
〈ザ・ノース・フェイス〉のサーキュラーウールコレクション。
THE NORTH FACE
2024年10月25日
PROMOTION
〈バレンシアガ〉と〈アンダーアーマー〉、増幅するイマジネーション。
BALENCIAGA
2024年11月12日
PROMOTION
〈ティンバーランド〉の新作ブーツで、エスプレッソな冬のはじまり。
Timberland
2024年11月8日