カルチャー
キム・ボラが選ぶ映画ベスト10。
戦争も日常も、正直に捉えた映画。
2021年11月14日
photo: Youngwoong Yim
coordination: Shinhae Song (TANO International)
text: Reiko Fujita
映画は〝素直であること〟がとても大事だと思っているんですが、すべての作品がそうとは限りません。本当に素直な気持ちで作られた映画なのか、嘘をついたものなのか、観客たちは体で感じ取るみたい。『ヤンヤン 夏の想い出』と『ロゼッタ』は、私の監督作『はちどり』の演出をする上でとても影響を受けた作品ですね。この2作は登場人物を見つめる目線がとても素直で、それは監督の体から出てきたものだと思います。また、映画を映画らしくするのは日常のディテールだとも思っていて、『はちどり』では日差しや揺れる木の葉、風に揺れるカーテンなど、存分に表現することができたと思います。
私が大学に通っている頃に公開された『子猫をお願い』は、映画学科の女子大生に一大センセーションを巻き起こした思い出深い作品。韓国の女性監督でこの映画に影響を受けていない人はいないんじゃないかな。チョン・ジェウン監督が描いた5人の女性の描写がすごくリアルで、自分の物語のように感じられました。韓国女性監督のニューウェーブの信号弾(はしりの意)、ユン・ガウン監督の『わたしたち』も忘れられない作品。こんな演出をする監督がいたなんて! 小学生の女の子をここまで真摯に精密に描いた作品はなかったから嬉しくて、幼い頃のことをたくさん思い出しました。同年代で活躍するマティ・ディオプ監督の『アトランティックス』は女性の成長譚で、舞台となるセネガルの都市の砂埃を浴びたような臨場感ある描写と呪術的な内容、演出がぴったり合っていると思います。
日常を描いた作品だけでなく、戦争映画にも興味があります。自由を奪われたとき、人はどんな心境になるのかを描いた『アルジェの戦い』は、男女が一緒に戦闘する姿を描き、戦争映画では脇役として扱われがちな女性を公平に扱っている点に好感を持てました。実際に戦争に参加した市民たちがエキストラとして出演していて、ドキュメンタリーのような映像から出る強烈なエネルギーに鳥肌が立つほどの感動を覚えましたね。
キム・ボラが選ぶ映画10選。
NO.1
ヤンヤン 夏の想い出
(監督:エドワード・ヤン/2000年/173分)
無垢な少年ヤンヤンとその家族を通して、台湾の現代史を描く。「人間は複雑で、人生には様々な出来事や感情が起こり得るということを温かく包み込むように描いた映画です」。
NO.2
ロゼッタ
(監督:リュック&ジャン=ピエール・ダルデンヌ兄弟/1999年/93分)
トレーラーでアルコール依存症の母親と暮らす少女ロゼッタ。工場を突然クビになった彼女は、持病の腹痛と闘いながら、ドン底の生活から抜け出すために奮闘。「心から正直な気持ちで作られた作品だと感じました」
NO.3
子猫をお願い
(監督:チョン・ジェウン/2001年/112分)
女子高時代の仲良し5人組がそれぞれの道に進み、すれ違いや痛みを感じながら成長していく。「女性監督が描いたリアルな女性像に衝撃を受けました。女性監督にある種の“道”を示してくれた感謝すべき映画です」
NO.4
ワイキキ・ブラザーズ
(監督:イム・スルレ/2001年/109分)
出張バンドとして地方を転々とする男性4人の弱さや悲しみを女性目線で描く。「夢を持つ人々、夢によって辛い経験をしたことのある人なら、きっと共感できるはず。私にとっては韓国版『ラ・ラ・ランド』みたいな作品」
NO.5
母なる証明
(監督:ポン・ジュノ/2009年/129分)
女子高生殺人事件で逮捕された息子の無実を信じ、真犯人を追う母の物語。「国民的お母さんのイメージが強かったキム・ヘジャさんのゾッとするような表情を見て、俳優を起用する監督の重要性を強く感じました」
NO.6
わたしたち
(監督:ユン・ガウン/2015年/94分)
10歳の少女ソンと転校生ジアの友情物語。「韓国では是枝裕和監督の作品と比較されることも。ユン・ガウン監督は感謝したい女性監督のひとりで、この映画の成功をきっかけに韓国でも女性監督の作品が増えました」
NO.7
アルジェの戦い
(監督:ジッロ・ポンテコルヴォ/1966年/122分)
フランスの支配下にあったアルジェリアの独立戦争を描く。「ポスターでは退屈な扇動映画のようにも見えますが、実はとてもいい映画。エンニオ・モリコーネの音楽も素晴らしく、迫真の演出は必見です」
NO.8
トロピカル・マラディ
(監督:アピチャッポン・ウィーラセタクン/2004年/118分)
愛し合う男性のロマンスと、森の中で消えた兵士が織りなす神秘的な物語。「とても実験的な作品です。退屈だとか長すぎると批判する人もいますが、演出がとても新しくて独特なので、すごく楽しめました」
NO.9
アトランティックス
(監督:マティ・ディオプ/2019年/106分)
カンヌ国際映画祭で審査員特別グランプリを受賞した神秘的なラブストーリー。フランス人女優の長編監督デビュー作。「どこに向かうかわからないストーリー展開ですが、エンディングシーンが本当によかった」
NO.10
あの家は黒い
(監督:フォルーグ・ファッロフザード/1962年/22分)
ハンセン病患者が暮らす村の日常をモノクロで映し出す。「イランの女性詩人による映像詩のような短編映画。最初は体に痛みを感じるほど観るのが辛かったのですが、終盤は村人たちがとても美しく見えました」
私が好きなのは、日常に亀裂を入れて自分を見つめ直させることで、観た人の人生に影響を及ぼすような映画。私が映画を撮る理由も、誰かの人生にほんのわずかでも痕跡を残したいから。映画を観ればその監督の世界観がわかってくるものですが、なかには監督の毒々しい感情が伝わってきて、体に悪いインスタント食品を食べたような気分になったり、大量生産された食べ物みたいにほとんど世界観を感じなかったりする作品もありますよね。でも、正直な気持ちで作られた、本当にいい映画は人の人生を変える。心からそう信じているからこそ、大学の講義で生計を立てながら私費を注ぎ込んで、収益が未知数な独立映画『はちどり』に30代のすべてをかけられたんだと思います。
プロフィール
キム・ボラ
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