カルチャー

ニュースペーパーもびっくりの動物を発見した!

2022年10月9日

photo: Keisuke Fukamizu
text: Toromatsu

新聞紙アート

 スクープであることは間違いないけれど、びっくりなのはネタの凄さだけじゃない。サーフ古書が揃う文科系サーファーの憩いの場、鎌倉のブックカフェ『星月夜書房』に伺うと、店主から「面白い作家がいるから会いに行ってきなよ」と導かれた。なんでもその人は新聞紙だけを使って大層リアルな動物を作っているのだという。

 ヨレたTシャツにロングヘアを束ねた、サーファー然とした風貌の玉井富士(たまいとみじ)さんは、芸術大学を出て、コンテンポラリーアートで世界を周ってきた紛れもないアーティストだった。アトリエには自身が描いた抽象画なども飾られていたが、何より、そこらじゅうにいる新聞紙のこよりで作られたほぼ実寸大の動物たちを見ると、疑う余地もなく凄い人であることを感じさせられる。

ペーパークラフトや、コンテンポラリーアートのひとつとして国内外で評価を集めている。

 何か強い思想を持って動物を作っているのかを尋ねると、「好きな時に手を動かして、気分が乗らないときはやらない。動物愛とか環境愛といったマインドはさほどなく、あまり意識せずに自由にやっていて、自然の偉大な波動を表現できたらと思っている」と教えてくれた。ポール・セザンヌの絵画に見られる塗り残しを未完成と捉えるか、完成と捉えるか、なんていうと難しい話になるが(所説もいろいろあるので)、玉井さんは表現が自由であることの証明のひとつとしてこれらを製作しているというのだ。

新聞紙アート
新聞紙アート
亀
亀
どれも色付けしているように見えるが、新聞紙のカラーページを利用して作られている。

 ちなみに玉井さんは11年前から一ツ山チエさんとデュオでこの活動をスタートさせ、今までに様々な種類の動物を作っている(極まれに依頼を受けて七福神など動物ではないものを作ることも)。製作方法はお互いの気が向いたときにどちらかが少しずつ手を加えていくらしく、新聞紙のこよりをボンドで貼り付けていく作業をひたすらに繰り返すのだ。材料は世界中どこにいても手に入るものだから、国内外での個展活動は作品を輸送するのに加えて、大型のものなら現地に長期滞在しその場所で製作するらしい。

「新しい材料や技術、特別な発想がなくても、毎日の積み重ねで何かを作り出すことができることの証明でもあります。この前も近くに住むキッズスケーターと一緒にスケートボードをしていたら、“いつまで経ってもオーリーが上手くならないね”って言うから、“ずっとやっていたらいずれあの塀くらい超えられるかもよー”って話をした」と玉井さん。常人がいくらコツコツ頑張って作っても、さすがにこんなにリアルな動物は作れないかと……。

プロフィール

タマイトミジ

フリーアーティスト。東京都生まれ。2011年にHITOTSUYAMA .STUDIOを結成後、一ツ山チエと共にアーティスト名HITOTSUYAMA .STUDUOとして国内外で活動。

Official Website
https://hitotsuyamastudio.com/