カルチャー
終わりなきウエストコーストロード【後編】
稀有な新譜CDショップ「The MELODY.」。
2022年7月11日
‘70年代に東西で愛されたレコード店「メロディハウス」は、オーシャンブリーズサウンドに長けたスタイルをそのままに「ザ・メロディ」として1982年に生まれかわった。今年で40年。新譜CDのセレクトショップ&ライブカフェという他にないスタイルは今も健在だ。
大阪店の店長を勤め上げた森本徹さんは当時「メロディハウス」が無くなるとき、自分は音楽を扱う店を続けたいと思い「ザ・メロディ」と名前を変え継続を決意。生まれ変わった店もまた、時代を一歩も二歩もリードし、革新的な店として前身の店に負けず劣らず人気を博した。
「店の内装を関西発のバンド、レイジーヒップのタコヤキ(長田和承さん)に手伝ってもらって、ギャラリースペースを併設した空間にした。スペース貸しをしてアートやアパレルの展示会を行ない、店内でコーヒーも出して、厳選したレコードだけを扱う。結構今っぽいよな」
写真を見ればわかる通り、こざっぱりとした商品ラインナップと、スタイリッシュな空間は今あったとしてもまったく古さを感じない。それどころか新しささえ感じられる。時代とともに扱うものがCDにこそ変わってはいるが「幅広く置くのではなく、自分が今いいと思うものだけを置く。目の届くくらいがちょうどいい」と森本さんは言う。店主の目がしっかりとわかる音源だけがあるうえに、この頃から各音源それぞれに自筆のポップも付けていたというから、なんだか今時のコアなセレクトショップのようで共感が持てるじゃないか。
「みんなが勝手に作り上げていったみたいなところはあるんやけどね。“『メロディハウス』といえばウエストコーストや、AOR、ハワイアン、フュージョンを扱う海系”みたいな。メディアにもそういう風な選曲を頼まれることが多かったから。ポパイ以外に、ラジオ局で選曲したり、大阪のブープというサーファー向けのタウン誌によく取り上げられたりもしていたし、広告なんかに出るときも決まって西海岸的なデザインやった」
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雑誌ブープの表紙に写るバンドがレイジーヒップ -
大阪発のアーティストを全国に発信する際に作られた広告
「自分は別にサーフィンをしたりするわけでもないからね。でも’82年に初めて行ったハワイのホノルルで、ラジオ局KIKIでDJのカマサミコングなんかと番組作ったりしていたニック加藤さんと出会い、ハワイの面白い音源を全部送ってもらえるようになったから結局『ザ・メロディ』でもみんなが思うイメージを変えることはなかったんよね」
独立した1982年からしばらくレコードを扱う時代が続いたが、80年代後半にソフトの主流がLPからCDに代わるとともに店もシフトチェンジ。ただそれでも、自分の歩みとともに知っていった音楽を紹介するという姿勢を崩すことは決してしなかったのだ。
「AORの復刻版とかがCDでしかリリースされなくなったからCDにシフトせざるを得なかった。コレクターとかなら中古レコードを手放しながらLPも扱ったりしたのかもやけど、自分はまったくコレクションとかもない。普通に今を生きてきただけやったからね(笑)。お客さんから“レコードやればいいやん”って言われるんやけど、中古販売にあまり興味がなかったし、何気にちゃんとCDに魅力を感じてるんよ」
「お客さんが“この前買ったCD、帰りに車で聴いたらめちゃ良かったわ”って言ってくれる。『ザ・メロディ』にある音楽って、やっぱりシーンに合わせて聴いてもらえると嬉しいから。もちろんレコードも好きやけど、どうしても家にこもって聴くやん、ちょっとオタク的というか……。ポータブルな良さもあったりすると思うんよね、音源だけやと味ないし。ただ名盤の復刻シリーズって売値1000円とかで、売れても250円しか儲らへんからキツイ。あれはもうちょっと高く売ってほしいな(笑)。オムニバスとか含めてCDにはCDなりの良い文化があるんやわ」
スマホをザッピングして音楽をテキトーに聴きがちな現代。レコード人気も著しいが、CDが再評価される日もそう遠くないのではと考えている。まず価格の高騰もレコードのようではない。それにその日の天気やキブンに合わせて一枚のCDを持ち出し、ライナーノーツや対訳なんかを読みながら外で音楽を聴く行為は、何より丁寧に音楽と向き合っているように思える。レコードともスマホとも異なる嗜みがあるからだ。この「ザ・メロディ」のCDラックを見て、昔から変わらないと捉えるのか、新しい音楽体験と捉えるのかで感度の高さを試されているようにさえ思えた。
「顧客が“欲しいCDがあればネットで買う。そうじゃなくて森本さんに教えてもらったものを買って帰りたい”って言ってくれるんよね。たくさん扱ってないし、自分の目が完璧とは言えないから欲しいものがいつもあるとは限らんよ、イチローでも打率4割なんやから(笑)。街のCD屋とは売り方が全く違う。ウチはハワイアンのフレーバーコーヒーとか、カクテルを飲んで、話の中で出てきたCDを一枚買って帰るような感じ。あとはライブをよくしてるから、そのミュージシャンのCDが売れたりね。おかげで未だに新しい出会いや面白いことが起きるんよ」と森本さんはエネルギッシュに話してくれた。
日本の音楽業界、無くなった名店は数あれど、現在も歩み続け“新譜のCD”を扱う「ザ・メロディ」は今改めて再考されるべき素晴らしい音楽店だ。最後に長年やっていてよかったことは何か?と聞くと「まだわからんわ、まだ続けるもん」と一言。ミナミの繁華街でひっそりと味わえる西海岸の風は今も止むことなく吹き続けている。
インフォメーション
The MELODY.
1973年から東京と大阪で人気を博したレコード店『メロディハウス』を前身に持つ、『ザ・メロディ』。店内では目利きの新譜CDは無論、ハワイアンコーヒー、ハワイアンビール、トロピカルジュース、ソフトカクテルなどを提供。ライブも頻繁に開催。◎大阪市中央区東心斎橋1-14-19 三河ビル ☎︎06・6252・6477 14:30~22:00(日・祝日~21:00)不定休
Official Website
http://home.att.ne.jp/blue/mel/
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