CULTURE

昨日閉店した店。/タマキスポーツ

2021.07.01(Thu)

photo: Hiroshi Nakamura
text: Toromatsu
edit: Yu Kokubu

 昨日閉店してしまったんだけど、東京・神田に僕らの知らないアウトドアウエアや、今ではなかなかお目にかかれない外遊びのグッズをたくさん取り扱っているお店があった。別にもう行きたくても行けないショップの自慢がしたいわけじゃなく、実は単なる時すでに遅しだっただけ。というのも訪れたその場で“今月閉店”の言葉を聞いてしまったのだ……。

 店の名前は『タマキスポーツ』。雑誌に出てくる服のクレジットを目にして「あっ、またここだ」って思ったことがある人って結構いると思うけど、このショップとの出合いはまさにそんな経緯から。ポパイは1976年の創刊当初から80年代初めまで、年に一度必ず「スキーボーイ特集」を作っているのだが、そこに掲載されているやけにカッコいいアウトドアアイテムのクレジットを見ると、度々『タマキスポーツ』の文字が登場する。古い情報だから仕方ないけど知らないのが妙に悔しくて気になってまだお店があるか調べてみると、今も15時から18時までの一日3時間だけ(!)営業していた。これは何かあるかもしれないと、ポパイウェブ編集部で表敬訪問。

 飲食店がひしめくJR神田駅前にある古びたビルの路面店に着くと、時代とともに周囲の店が変わっていったのであろうことが一目でわかる、期待を裏切らない老舗の佇まい。それもそのはず。店は途中改装こそしているが、昭和20年からこの地に構えられている。ドアを開け4、5段ほどの階段を下りて奥に進むとまるで洞窟のような店内。ウッド製のクラシックなスキー板や、ウエア(現代のアウトドアウエアではなくアメリカンカジュアルなもの)、野営道具などの在庫が大量に混在。身体を細めてようやく歩けるほどの足場のない物量と、倉庫のような埃っぽい匂いがディープ感を更に掻き立てる。

前に進めない。でも、進むのだ。

 ルーツは、国鉄スワローズ2軍(現:東京ヤクルトスワローズ)なんかに提供していたスポーツユニフォームの製造業。後に登山靴の販売、修理を経て、クロスカントリーや、テレマークスキーといった“歩くスキー”の専門店になった。父の代からある店にスキーの色を加えることで長寿店へと成長させたのが息子兄弟。長男・玉木正之さんはクロスカントリーのスキーヤーで、次男・秀行さんはキロメーターランセ(スピードスキー)の選手。ともに全国のスキーヤーから慕われる存在だったが今は残念ながら亡くなられていて、妹さんが一人でお店を切り盛りしていた。

 妹さんに話を聞くと、当時兄弟は「ポパイ編集部と一緒にアメリカに訪れたりしていた」と教えてくれて、なんとお店の在庫にはその頃にバイイングされたという稀有なアイテムたちが今もいくつも残っていた(本格派のスキー客が主になっていったのでウエア類に興味を示す人が減っていったことが今も残っていた大きな理由)。ラックに目をやるだけでも「ケルティ」や「ノースフェイス」のフレーム付きザックに、「キャンプ7」や「シェアデザイン」などの見たことないモデルのアウター。その他、知らないインポートアウトドアブランドのデッドストック品などがザクザク出てくる。ポパイ創刊当時のフリスビーやペナントも飾られていた!

店にあった、今ではなかなかお目にかかれないアイテムをちょこっと紹介!

1. 僕たちが普段使っているスニーカーやブーツに装着できるアイススケート。2. 「ミレー」のクロップドパンツ。太畝コーデュロイかと思ったらドラロンという素材で、水分の拡散をスムースに行うらしい。

3. 「ウールリッチ」の発色のいいマウンテンパーカ。70~80年代のデッドストック品でライナーとフードは取り外して使える。4. パンクッカーに結び方を記した紐、スウェード用汚れ落としブラシに、サイクルグローブ。いちいち洒落てる。

5. アメリカ製のブーメランや、“お洒落に飛ばない”キャップキーパーなども。外遊びのアイテムが他にも充実していた。6. 犬タグ時代の「レッドウイング」やアイリッシュセッター、チロリアンシューズの元祖「ドロミテ」も!

7. スケートメーカー「ヴィジョン」から出ていたマーク・ゴンザレスの’88年オリジナルデッキも発見!8. なんだこれ!?と思ったらタグには「エディ・バウアー」の文字。首掛けダウンで、スポーツ観戦用に手を入れて暖めるだけの代物だった。なんだそれ!?両端は袖リブ。アイテム名は”マフ”と言うらしい。

この”ディグ棒”(ストック×木のコラボ)を使って手の届かない所にあるアイテムを(自分で)取る。

 スキーと聞くと、今ではブカブカのスノーウエアが頭をよぎるけど、これらのヘビーデューティーなアイテムを使ってスキーをしているなんて想像しただけで浪漫が感じられるではないか。昔からある“歩くスキー”を提唱した店は、もうこの『タマキスポーツ』を除いて北海道の一軒しか残っていないらしいから、そんな話を聞くとまたあらためてこの店の老舗たる風格を感じさせられる。僕らがお店に遊びに行った際に、その場にいたお客さんが「スキーを履いて、雪山を登り、星空を眺めながら楽しむキャンプは何にも代えがたい」と教えてくれたのも束の間、「今月で閉店なのよ」と妹さん。ようやく巡り合えたのになんてことだ……。

 落胆すると同時に、目に映る大量の在庫の行く末が気になって尋ねると、「バイヤーに持っていかれるのも嫌だから全部処分する。」と、なんとも江戸っ子の商売人的な衝撃発言! 姐さんそれはあんまりだ!アメリカからフレッシュなアウトドアスタイルをいち早く日本に届けてくれていたスキーショップの名店の在庫は、雪のように無くなっていくのだろうか。デッドストックならぬホットストックなアイテムの数々を今のシティボーイにも届けてほしかったな……。

 僕らがこれから取材していくたくさんのお店も、いつかこんな形で記事になったり、語り継がれていくのだろうか? そう考えると、”閉店した店”にも未来がある。

バイバイ!

インフォメーション

タマキスポーツ

JR神田駅西口前にあったテレマーク・XC・山スキー・登山&アウトドア専門店。昭和20年創業。70年代から世界を旅してきた玉木兄弟が、現地のアウトドア&スキーカルチャーを持ち込みいち早く日本に発信した。2021630日に閉店。

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