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カルチャー
シティボーイの額装術。Vol.4
「都立大学で53年」の老舗額装店が“復活”するまで。
2022年10月10日
photo: Koh Akazawa
text: Toromatsu
edit: Kosuke Ide
cooperation: Yu Kokubu
額装店に出向き、真の額装を学ぶことができたPOPEYE Webチーム。額装を知る僕たちの旅は、その魅力を教えてくれた店〈ニュートン〉の半世紀に及ぶ歩みを追って締めくくることにした。
〈ニュートン〉が誕生したのは、今から半世紀以上も前になる。店はもともと現・店主の鷹箸廉(たかのはし・れん)さんの父が創業したのだが、両親は当時、渋谷にあった〈地球堂〉という額縁店に勤めていて、1969年に独立しこの店を始めたのだという。
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「もともと父の親戚が〈地球堂〉に勤めていて、父もそこで働かせてもらっていたんです。当時、沖縄から上京してきていた母もアルバイトで勤務していたのですが、母はビザの関係で一時帰国し(まだ沖縄はアメリカ統治時代だった)、再び上京した際に〈地球堂〉に『もう一度働かせてほしい』と電話をしたそうで。たまたまその電話を受け取ったのが父で、ちょうど独立を考えていた父が『だったら僕のやる店で一緒に働いてみない?』と誘ったと聞いています」
そうして廉さんの父と母、そして叔父にあたる父の弟を含む3名が都立大学で〈ニュートン〉をスタートする。ちなみに店名の由来は、絵画などに使われる絵具や筆を販売するロンドンの画材会社〈ウィンザーアンドニュートン社〉からきている。
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「〈ウィンザーアンドニュートン社〉のスタッフが白衣を着て絵具を売っているのを知った父がそのカルチャーに感銘を受け、『自分たちも彼らのように品のある額装をしよう』という思いを込めて名付けたそうです」。額縁店とは読んで字のごとく額が商品であることはもちろんだが、当時は画材屋としても機能している店がほとんどで、〈ニュートン〉でもインポートの絵具など高級画材を多く扱っていたという。加えて、その頃の額縁店では店が特定の作家に付いていることが多かったとか。
「当時は作家の名前が付いた額縁みたいなのがあったくらいで、〈ニュートン〉では特に『大沢縁』が一種のブランドのようなものだったと思います。大沢とは洋画家の大沢昌助さんのこと。大沢先生は生前、芸術のいろはを父母に教え、自分の子供のように可愛がってくださっていたそうで……」
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高級画材の販売や著名画家との交流など、店舗の運営は順風満帆だったように思えるが、〈ニュートン〉に限らず、額縁店には現代に至るまでさまざまな向かい風があった。その最たるものはやはり、90年代以後に訪れた「バブル崩壊」だ。バブル期といえば大企業や富裕層による美術品投機が華やかな時代で、多くの額縁店もその恩恵を受けたわけだが、美術品オークションの市場規模は、90年代半ばにはバブル末期の約1/3にまで低迷。額縁・額装離れが加速したのだ。しかも追い打ちをかけるように、学校の美術授業の減少や、コンピューターグラフィックの普及により、画材離れまでも起きてしまう。
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「厳しい時代は長く続きました。僕もサラリーマンを辞めて店の手伝いをしていたのですが、とにかく暇で、10年ほど前に『いよいよお店を閉めようか』と両親と話をしていたんです。家族会議をしていたら、妻が『額装屋を辞めてしまったらダメだ』と言ってくれて。両親に『頑張るから僕たちの思うようにさせてほしい』と伝えたのを機に、現在の体制になっていきました」
2011年に廉さんが代表になり、最初に行ったのが、〈ニュートン〉内にギャラリー〈ノイエ〉を併設したことだった。そもそも作家ありき、作品ありきの額装という仕事は、“待つ”だけの状態に陥りやすい。そこで廉さんは知り合いの作家に声をかけ、店の入り口の一角に設けたギャラリーで展覧会を開催し始めた。すると、額縁店が自ら発信できるようになり、どんどん作家との繋がりもできていく。当然、額装も自分たちでできるから、展示の際の作家の負担を軽減できるし、またそこで出会った作家がその後も〈ニュートン〉で額装を依頼してくれるようになったり。主体的に動き始めたことで、業績も上り調子に。廉さんの気持ちも楽になり、前向きになることができたのだ。
以後も、家具店〈アルフレックス〉での展示をディレクションしたり、画家・ミロコマチコのマネージメントを行なったりなど仕事の幅も広げている。今年1月には、本店からほど近い場所に新店舗〈ニュートンエクステント〉とギャラリー〈ノイエエクステント〉をオープンするほど、10年前とは打って変わって飛躍している。
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「色々なことに取り組んでいますが、改めて振り返ってみると、すべてが額縁・額装店の仕事だったんです。どんな風に発信すればこの作家の魅力がより伝わるのか、どんな風にこの作品を額装すればよく見えるのかは、考え方としては同じですから。額装の手法を含めて、常に展示物に寄り添った展示を考えることができる、これは額装店だからこその強みだと思うんです」
確かに、なぜこれまで額装店が経営しているギャラリーがほとんどなかったのかと思うくらい、〈ニュートン〉の今のスタンスを改めて考えると目から鱗だ。これまで額縁店を続けてきた廉さんの父母は言わずもがな凄い人ではあるが、これからの額縁店の在り方を創り上げた廉さんもまた凄い。
「数年前までは若い作家さんが個展を行なえる場所がまだ少なかったけど、近年はそうした場所も増えて、アートも身近になってきているように思います。そういう中で、額装にも注目してみてもらえたら。始まりは100円ショップの額だっていいんです。既製品でも額装するだけで違うと思うので。でも、ほんの少しの拘り、フレームの材質や幅までを意識して、自分で選んでみると、それだけで感動がまるで変ってくることを知ってほしい。この店がそういう気付きのきっかけになれるといいですね」
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巷の老舗額縁店とは一味も二味も違う、広い視野で額装を捉える〈ニュートン〉を知ることができたのは、額装を学んだこと以上に大きな収穫だったかもしれない。好きなものをひと手間加えて飾りたい人にも、作品をより良く見せたいアーティストにも、もっと多くの人にこのお店を知ってほしいと思った。
インフォメーション
額縁・額装店 newton
Official Website
http://newton-frames.com
Instagram
@newton_frames
@noie.cc
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