ファッション
“センスがいい人”の戦略。ジアン・デレオン
文・デーヴィッド・マークス
2022年1月31日

STYLE SAMPLE ’22
text: W. David Marx
translation: Rei Murakami (Alt Japan)
illustration: Dick Carroll
special thanks: Jian DeLeon
2022年2月 898号初出
現在発売中の本誌2月号“STYLE SAMPLE 2022”では、W.デーヴィッド・マークスさんが『STRATEGIES FOR STYLE“センスがいい人”の戦略。』と題したエッセイを寄稿してくれた。ウェブでは特別に3名のスタイルアイコンと彼らの“戦略”をバイリンガル版で公開!

感情
その昔、スタイルを学ぶ方法は、父親、祖父、叔父、兄の知識を吸収し、もしかしたら、たまにファッション雑誌を見るしかなかった。だが、そのおかげで「良い趣味」は小さなコミュニティにおける排他的な特権となった。スタイルを学ぶには、服装のルールを知っている家系に生まれる必要があったのだ。しかしインターネットがこれを根こそぎ変えてしまった。2000年代にスタイル関連のブログが乱立したことで、若い世代はファッションに囲まれて育った。1世代前の人々がスポーツやアニメでそうだったように。

『HIGHSNOBIETY』の元編集者で現在は『Nordstrom』の編集兼ファッションディレクターを務めるジアン・デレオンは、21世紀の真のスタイルアイコンの一人だ。飽くなき好奇心を原動力に、インターネットをむさぼり読み、路上を観察し、メンターから学び、トライ&エラーを繰り返すことで衣服の知識を蓄えた。当初は若きファッションのカリスマたちへ新しいアイデアを与えるライター・エディターだったが、スタイルに対する彼の情熱によって、今では鮮やかで創造的な装いのデレオン自身がアイコンとなった。新しい世代のアプローチの最前線にあり、ファッションは楽しいものであることを私たちに思い出させてくれる。

©CHRISTOPHER FENIMORE
デレオンのスタイルを単に「楽しい」で片付けるのはフェアでない。デレオンは自身を「エモーショナル・ドレッサー」(感情的に装う者)と表現しており、その日の気分で服を選ぶのだ。私たちと同じで、ついてない日もある。それを「楽しい」と簡単にくくれてしまうのは、私たち部外者にとっては、実際に楽しいものだからだ。デレオンは過去から現在までのスタイルや服装について幅広い知識を持ち、画家が頭の中のイメージをキャンバスの上に描くように、色や柄、素材を組み合わせることができる。
ファッションは多くのルールで説明されることが少なくない。靴下は靴ではなくズボンに合わせる、ボタンダウンのシャツはスーツと着ない、ネクタイとラペルの幅は揃えなければならない、などだ。しかしファッションが皆のものになった現在、デレオンは、こうしたルールを無視して構わないことを確認させてくれる。カラフルなパッチワークジャケットを、柄がぶつかるセーターの上に着て、さらに別柄のスカーフをしてもよいのだ。クラシックなジーンズと、ホルスタイン柄のサンダルを履いてもいい。これはフラン・レボウィッツの「一体感」やマーガレット・ハウエル「簡易」の正反対を行くアプローチだが、これも同じく価値あるアプローチだと言えることをデレオンは示している。

©CHRISTOPHER FENIMORE
服について考えるための便利なテンプレートをデレオンは2つ提供している。一つは、人間の感情は極めて複雑であり、それを複雑な服を通じて複雑な方法で表現しても構わない、ということ。二つ目は、個人の表現は、中庸をマスターして初めて、同じように優れたものになるということ。デレオンはカジュアルなブランド、ストリートファッション、アバンギャルドなデザイン、クラシックなスーツなどについてたった今何が起きているかを知っており、それらすべてを混ぜ合わせ、心に残る組み合わせを作ることができる。その最終形は、人から人へと伝播して私たち皆が一緒に楽しめる喜びであり、世界を今よりも明るい場所にしてくれるだろう。
「深く考えずに感じたままに着る」というジアン。
最近のスタイルを自撮りしてコメントを寄せてもらった。

©Jian DeLeon

©Jian DeLeon

©Jian DeLeon

©Jian DeLeon
プロフィール
ジアン・デレオン
『Nordstrom』の編集兼ファッションディレクター。フィリピン生まれ。『HIGHSNOBIETY』元編集長。ストリートウェア、スニーカー、ハイファッションなどメンズファッションの記事を多数執筆。2019年に『Adweek』誌のヤング・インフルエンサーに選ばれた。
筆者プロフィール
デーヴィッド・マークス
文筆家。1978年、アメリカ・オクラホマ州生まれ、フロリダ州育ち。2001年ハーバード大学東洋学部卒、2006年慶應義塾大学大学院商学研究科修士課程修了。日本のファッション、アート、音楽への造詣が深く、2015年に日本の洋服文化史『AMETORA 日本がアメリカンスタイルを救った物語』がアメリカで出版され、2017年に日本語版がDU BOOKSより刊行。ステータスと文化の関係性についての総合文化論をアメリカのVIKING BOOKSから8月刊行予定。
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