ライフスタイル

Go with the 風呂〜 Vol.13/松葉湯

写真・文/大智由実子

2022年1月20日

photo & text: Yumiko Ohchi
background artwork & movie edit: Fujimura Family
edit: Yu Kokubu

前回のホテル大野屋の記事を放った直後のクリスマスイブの日、私はひとり新幹線で京都に向かっていた。目的は、とある銭湯に入りに行くため。

なんでそんな新幹線に乗ってまでして京都の銭湯に行ったのかっていうと、何やらその銭湯はお風呂に入りながらたくさんの小鳥たちが見れるという噂を聞きつけたから。私は小鳥(特にスズメ)が大好きなんだけど、そこにさらに大好きなお風呂が加わって、小鳥とお風呂の夢のコラボなんて「行くな」っつー方が無理だよ?拷問でしょ、そんなの。そら東京から新幹線乗って駆けつける方が自然でしょ。

いそいそと新しく迎える年の準備を始めている師走の京都。ピリリとした空気感を感じながらホテルから歩いて向かったのは上京区にある松葉湯という銭湯。

マップを見てたどり着いたところは、一見幼稚園のような建物で、表には「松葉湯」ではなく「まつば・遊・湯」と80年代風のファンシーな字体で書かれていた。後ろに見える煙突がなければそこが銭湯だとは思わず、うっかり通り過ぎてしまうところだった。

通称「インコ銭湯」と呼ばれている松葉湯には、たくさんのインコがいる。インコの種類はセキセイインコ、コザクラインコ、オカメインコ、ボウシインコで、合わせて40羽以上いる。しかもインコだけでなくおっきな陸亀(現在冬眠中)もいる。

ぶっちゃけ、番台のところに小鳥とかネコちゃんワンちゃんなんかがいたりして、動物と触れあえる銭湯があるのは知ってる。でもさ、この松葉湯が他と違って素晴らしいところは、動物たちの姿を浴室から、しかも湯船につかりながら見られるってところなんだよね。それはつまり、動物を見る私たちも動物と同じく裸だ、っていうこと。お互いが何も纏わず、生まれたままの姿で対等にいられるのってなかなか無い機会じゃん??裸一貫で勝負してるインコたちの生き様を見させてもらうんなら、こっちも裸でいるのがフェアっていうか、それが礼儀ってもんでしょ。(「あっちは羽毛纏ってんじゃん」とかいうツッコミは不要)

まずは玄関から入ってすぐ目の前のケージにいるボウシインコのオーちゃんにご挨拶。おしゃべりなオーちゃんの年齢はなんと46歳で、偶然にもPOPEYEとタメということが判明。

そしてオーちゃんと共に優しくお出迎えしてくれたのが、オーナーの松井宗六さん。松葉湯は明治から120年以上続く銭湯で、宗六さんが三代目だそう。

人を喜ばせるアイデアが豊富な松井さん。何気にアマチュア無線一級の資格も持っている。

昔懐かしいおかま型ドライヤーやマッサージチェアなんかがある脱衣所から浴室に足を踏み入れると、天窓から降り注ぐ日差しと正面にはアルプスのマッターホルンの山々が描かれたタイル絵、いろんな種類の浴槽、そして手前には噴水があってなんだかヨーロピアンで開放的な雰囲気。ちなみにこの噴水は松井さんのアイデアで、植木鉢を3つ重ねて作ったという、低コストの発明品。「植木鉢だから元々真ん中に穴があいてて中に水道管を通すのも簡単でしょ」って…天才?

そして、一番奥の浴槽からガラス越しに見えるのが美しい色とりどりのインコたちのパラダイス。天井近くの部分で男湯と女湯がつながっていて、インコたちは自由に行き来が出来る(人間はできないけど)。思い思いに飛んだりつついたり毛繕いしたりウトウト寝たりするインコたちのパラダイスが湯船につかりながら気持ちいい状態で見れるわけだ。小鳥好きの私としては、テレビなんか見ながら入るよりよっぽど楽しくてマジで飽きないからのぼせちゃうくらいだよ。

女湯の湯船からの景色。奥にはサザンカの花咲く露天も見える。

ちなみに松葉湯のお水は全て天然の地下水を使い、薪で沸かしている。地下水と薪のコンビの相性が非常に良いということは、私の肌がよく知っている。肌いわく「お湯がまろやかで優しいんですよね」とのこと。おまけにここはサウナもあるんだけど、水風呂ももちろんピュアな地下水を使用しているのでめちゃくちゃ爽快で気持ちいい。しかもご丁寧なことに水風呂からもインコたちが見えるんだよね(男湯はサウナ室からも見える)…いや、どんだけわかってんのよ、松井さん…。水風呂に入りながら思考が停止し目が据わった状態でボーッと見つめるインコは、もはやインコに見えない。「あれは、精神が自由に解放された状態の私だ…」

お風呂と動物があわさると、つまり「気持ちいい」x「かわいい」= 癒し効果ハンパないってことはペンションはぎわらで実証済みだけど、今回松葉湯でその事実にさらなる確信を持てましたね。

松井さんいわく、インコの数は今は40羽前後くらいだけど、全盛期には140〜150羽くらいいたんだとか!そもそもなんで「インコ銭湯」と呼ばれるほどにインコを飼って、しかもそのインコたちの姿をお風呂に入りながら見られるようになったのか、お話を聞くと、今インコたちがいるスペースは元々は観葉植物を置いていたんだそう。30年以上前のある日、たまたま家で飼っていたインコ3羽をその観葉植物スペースに放したら、そこが暖かいからかインコたちが気に入ってなかなか帰ってこなかったのでそのままにしといた。そして営業時間になってインコを見つけたお客さんが「鳥がいる!」と騒いで人気になった。そして「お客さんが喜んでくれるなら」ということでそのままにしといた。そのうち「家で飼えなくなった」など様々な事情でもらったり引き取ったりしてインコの数が増えていったんだって。

そこに、ペットショップで松井さんと目が合い運命的な出会いを果たした陸亀のカメ太郎(51歳)も加わり、お風呂に入りながら動物たちを見られるパラダイスとして人気になったんだとか。

ちなみにカメ太郎は今は男湯側で冬眠中だけど、活動期はインコたちの下で男湯・女湯をのらりくらりと行き来しているそう。

いや〜、松葉湯のお風呂もサウナも気持ちよくて人間にとってもパラダイスだし、インコや亀たちにとってもあったかくてパラダイスで、ここはまさしく現代のエデンの園。

※浴室の撮影は営業時間前に許可を得て撮影しております。

インフォメーション

松葉湯

◎京都府京都市上京区下立売通御前東入ル西東町356 TEL : 075-841-4696 営業時間:15:00~24:00 定休日:日曜 可愛いインコたちの姿を投稿している松葉湯Twitterも要チェック!https://mobile.twitter.com/matsubayu_sento

プロフィール

大智由実子

2012年よりMARGINAL PRESS名義で洋書のディストリビューションを行ってきたが2017年に活動休止し、世界中の様々なサウナを旅する。サウナライターとして花椿webにて『世界サウナ紀行』を執筆する他、サウナ施設の広報も務めるなど、サウナまみれの日々を送る。のちにサウナのみならず銭湯や温泉などお風呂カルチャー全般に視点が広がり、個性強めなお風呂を探究して現在に至る。そしてついに4年の沈黙を破りMARGINAL PRESSとしての活動を再開。一発目は本連載にてアートディレクションを手掛けるFujimura Familyの写真集『PROOF OF LIVING』を出版する。

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