LIFESTYLE

【前編】Go with the 風呂〜 Vol.8/韓国伝統サウナ スッカマ

写真・文/大智由実子

2021.09.15(Wed)

photo & text: Yumiko Ohchi
background artwork: Fujimura Family
edit: Yu Kokubu

デジャヴのように繰り返される緊急事態宣言。いつまで続くのか、この人の流動と自由が制限される日々。私のお風呂取材もこの状況下で「東京からお風呂に入りに来ました!」って大きな声で言えない日々が続いている。そんな状況にキーキー言っててもどうにもならないので、ここは大人しく移動を自粛して、記憶を辿りつつ過去の体験記を記そうと思う。

時は西暦2019年、元号が平成から令和になりし頃。これは、世の中がノーマスクで人と人とが出会い、語らい、酒を酌み交わすことが当たり前に許されていた時代のお話。当時は海外への渡航もパスポートさえあれば自由に行き来することができ、近隣国へは安いものでは1万円台で往復の航空券が買えたものだった。

翌年の春頃から世界中が新型ウィルスに翻弄され、海外渡航が制限されるということを第六感で予知していたのか、なぜか私は2019年の8月、11月、2020年の1月と半年以内に3回も韓国に行っていた。目的は極シンプルにサウナと韓国料理のみ。

韓国のサウナと言えば、みなさん思い浮かべるのはチムジルバンでしょうか。お風呂あり、サウナ・岩盤浴あり、さらには24時間営業で宿泊もできちゃう、日本の健康ランドのようなアレ。他にも汗蒸幕(ハンジュンマク)というかなり高温の韓国伝統サウナもあります。私はチムジルバンも銭湯サウナも汗蒸幕も行き、それはそれで面白かったんだけど、実のところ目指す本命は韓国の伝統サウナ「スッカマ」なのであった。

「スッカマ」と聞いて「あーはいはい」ってなる人はそうとう通ですな。当時サウナにハマって海外のいろんなサウナに行きまくっていた私でさえ、初めて聞いた時は「なんですか?それ」って感じだった。スッカマについて聞いたのは、以前私がサウナで有名な「スカイスパ」の広報として働いていた時、サウナ好きの常連さんから聞いた話だ。

ざっくり言うと、木材を燃やして炭を作る窯の中から出来上がった炭を取り出した後、その窯の中に入って余熱で汗をかくという韓国伝統の古式サウナらしい。漢字で書くと「炭窯」で「スッカマ」と読む。

その常連さんに韓国に行くことが決まったと伝えたら「スッカマ行くならここがいいですよ」とショップカードをくれた。全てハングルで書かれていてなにひとつ読めないが、どうやらそれは「カマゴルランド」と読むらしい。私はそのカードを握りしめてソウルへと飛び立った。

焼肉大国、韓国。焼肉には炭が要る。その炭を作るためには炭材となる木材が大量に必要だし、その木材を大きな窯で3日程燃やし続けなければならない。なので、スッカマの本場はたいてい山奥にある。目指すカマゴルランドもソウルの中心部からバスで1時間以上かかる山の中にあるのだが、ソウル市の中心部でもスッカマ体験ができる場所があると聞き、本命のカマゴルランドに行く前にまずは予行練習をしておこうと「スプソク漢方ランド」というところへ向かった。

ソウル市内にあるスプソク漢方ランド

そこは年季の入った健康ランド的な佇まいで、山奥とまではいかないにしろ、中心部近くの緑に囲まれた小高い丘の上にあった。

浴室で身体を清めて館内着に着替えたら早速スッカマエリアへ。事前に聞いていた情報によると、スッカマの床は熱いので靴下着用は必須とのことなので靴下を履き、さらにスッカマエリアは半屋外にあるので、入り口に用意されているゴムのサンダルを履いていく。ちなみに高温のスッカマの中はかなりの灼熱で、靴下のみでは足が火傷してしまう危険性がある上、ゴムのサンダルも熱で溶けてしまうので、高温スッカマ専用の木製のサンダルを履かないといけないらしい。てか、ゴムが溶けるほどの熱さって…どんだけ〜!!

入ってすぐのところに出来上がった炭が積まれているコーナーがあって、人々はその周りに腰掛け、暖を取ってくつろいでいた。その光景はどこか日本の囲炉裏を彷彿とさせるような懐かしさもあった。

このカーテンの奥にそれぞれのスッカマへの入り口がある。

その先には3つのスッカマがあり、それぞれ出来上がった炭を取り出してから経過した時間によって高温、中温、低温と書かれた札が貼られているようだが、いかんせん書いてある文字がハングルで読めない。出入りの際に熱が逃げないように2重のカーテンで仕切られたスッカマの入口からサンダルを脱いで中に入るので、入口付近にあるサンダルの数で中にどのくらいの人がいるのかがわかる。ゴムサンダルをも溶かす高温は選ばれし勇敢な戦士のみが入れる熱さだから、おそらくサンダルの数が一番少ないだろうと踏んで、まずはたくさんのサンダルが散乱しているスッカマへ。

スッカマの中は洞穴のようで薄暗く、直径3メートルくらいの円形スペースで床にすのこが敷いてある。私が入った時には5、6人ほどの人がいて、皆すのこの上に座っていた。心の中で「おじゃましま〜す」と呟いて空いているところに座った。どうでもいい話だけど、私は前世がネアンデルタール人だったのか、洞窟とか洞穴とかの中にいると「ここが私のアナザースカイ」と言わんばかりに異様なほど落ち着くので、スッカマにもすんなり馴染んだ。そんなにめちゃくちゃ熱いわけでもないけど、黄土で出来た壁面からの遠赤外線が私を優しく抱きしめて、じんわりと温めてくれた。遠赤外線の優しさに一目惚れしてポ〜ッとしていたら結構汗でビチョンコに。スッカマを出てすぐのところに外気浴スペースがあるので、そこでクールダウン。外気浴スペースは自然に囲まれていて森の中のよう。はっきり言って、結構気持ちいいぞ。

こんなの、ふつーにヘヴンじゃん。

次に入ったスッカマは低温だったらしく、めちゃくちゃぬるくて全然汗をかけなかったどころか、若干寒いくらい。中に入っていた人も汗をかく気ゼロで床に寝転がってスマホいじってたし。

そうなると、残るひとつは高温スッカマだ。ゴクリ。入口に脱いであるサンダルは一組のみ。つまり、中には勇敢な戦士が一人いるってこと。私も意を決して高温用の木製サンダルを履いて中へ突入。入った瞬間あまりの熱さに「ぬぉッ!」って海老反りになる。これはヤバいやつだ。薄暗さに目が慣れてきて見えた光景がめちゃくちゃ怖かった。先に入っていた戦士がど真ん中で頭からバスタオルをかぶり、腰に手を当てて仁王立ちしていたのだ。私は「くわばらくわばら」とタオルで顔を灼熱から守りながら、少しでも温度の低い床に座った。それでも1分といられず命の危険を感じ、外へ飛び出した。あの仁王立ちしていた戦士は大丈夫なのか?てか、そもそも人間だったのかな??んーよくわかんない。

最初に入った中温スッカマと外気浴を繰り返し、かなりいい気分に。周りを見渡すと、みんなカップルや家族連れで来ていて、休憩スペースでゴロゴロしながらなんか飲み食いもしているし、スッカマで作られた炭を使ったBBQコーナーでは焼き芋とかしていて、かなり自由なパラダイス。

ふーん、スッカマいいじゃん。てか、別にカマゴルランド行かなくてもいいんじゃね?って悪魔のささやきが一瞬聞こえたけど、それを無視して私はカマゴルランドを目指すことに。

翌日、ソウル駅からバスでカマゴルランドへと向かう。バスは15分おきくらいに出ているとのことだったけど、乗り方が結構ハードでよくわからずぼんやりしていたら2本も逃してしまった。その時点で30分以上も時間をロスった。やっとこさ乗れたバスも渋滞で混んでいて市内を出るのに時間がかかった。最初はまぁまぁ混んでいた車内も、中心部を抜けて山道へと入っていくにつれどんどん人が降りていき、1時間以上が経過して最後はおばあちゃんと私の二人だけになった。ガチの田舎道になっていき、ついにおばあちゃんも降り、心細くなりながらも私は自分が降りる予定のバス停の名前が電光表示板に表示されるのを血眼になって監視していた。しかしなぜかバスは最終ターミナルに着いてしまい、運転手さんが「ここで終わりだよ」的なことを言ってきた。私は握り締めていたカマゴルランドのカードを見せて「カマゴル、スッカマ」と言った。普段はこんな山奥に外国人観光客が来ることは無いのだろう、ちょっと怪訝な顔をされたけど、カードを見て「あぁ、カマゴルランドね」的な表情になって「ここから歩いていけるよ」的な事を韓国語で言いながら歩くジェスチャーをしてくれた。「カムサハムニダ!(ありがとう)」とお礼を言い、来た道を歩いて戻った。

しかしカマゴルランドはバスが通った道沿いにあるのではなく、その道から角を曲がりしばらく歩いた先にある。問題は、どの角を曲がるのか、だ。フリーWi-Fiも飛んでいないのでGoogleマップも使えない。人に道を聞こうにも、車は走っているが歩いている人はいない。一応曲がり角には看板が立っているらしいが、もちろんハングルで書かれている。道沿いにはいろんな広告看板が立っていてどれがカマゴルランドの看板なのかを見分けるのは至難の技だ。私はショップカードに並んでいるハングル文字を象形文字のように形でなんとなく覚え、その形と似たものが書かれた看板を探した。少し陽が傾き始めている中、人っ子ひとり歩いていない田舎道をトボトボ歩いて、ついにそれらしき看板を見つけ、ショップカードの文字と照合してビンゴになった時は安堵と歓喜でぐっちゃぐちゃになった。その角を曲がってさらにしばらく歩くんだけど「あとちょっとでカマゴルランドに着く!」というウキウキで足取りは軽かった。

頬を紅潮させ、少し息を切らしながら早足で行った先に、ついにショップカードと同じイラストとハングル文字が書かれた石の看板が見えた。

急いで駆け寄ったが、入り口には謎の表示がでかでかと掲げられていて、そこから先には行けないようになっている。

……死んだ。

「え???」不穏な空気が漂う。人の気配が無いぞ。広い駐車場には車が1台しか駐まっていない。心臓の鼓動が早くなっているのを感じた。

中編へ続く

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