東京博物館散策 Vol.13

都内で藍染めしたい? だったら江戸の藍染が知られる『藍染博物館』はどう?

2026年4月7日

photo: Koh Akazawa
text: Miu Nakamura
edit: Toromatsu

 とりあえず『藍染博物館』で知った“江戸の藍染”の話を聞いてほしい。藍染の浴衣が庶民の定番として親しまれるようになったのは、江戸時代中期から。その頃は幕府が贅沢品を禁止する「奢侈禁止令」を幾度となく発布し、衣服の色や柄に制限がかかっていたのだそう。江戸の庶民たちは、「おかまいなし」で通っていた茶、鼠、藍の定番3色を掛け合わせて、微妙な色の違いを模索。こうした装いが、当時普及していた木綿の生地との相性もあり爆発的人気に。独自の「江戸らしい」美意識を作り出したというのだ。

 持ち込んだTシャツを染めることができると聞き伺ったら、目から鱗の話を知ることができた。そんなここ『藍染博物館』は京成曳舟駅から徒歩5分ほどの場所にある私設ミュージアムで、市松人形や江戸切子、有職畳など、さまざまな伝統工芸が今なお多く残る東京・墨田にある。余談だが「すみだ小さな博物館」にその墨田の産業や文化が見られる施設が24軒も登録されているから一つずつ訪れてみてもいいかも。

「江戸の人は煌びやかではないけど、目立たないところや細かな色柄の違いを大切にした。そういうのが江戸東京におけるものづくりの一つのポリシー、『粋』として発展していった」と館長の藤澤幸宏さん。3代目として、浴衣や半纏を藍染していたこの工房を受け継ぎ、藍の魅力をより広めるため、25年ほど前に同敷地内に博物館をオープン。藤澤さんの工房では、型を用いて反物に色を付けていく「後染め」の手法を使用。館内では、自身が染めた細やかな柄の浴衣や、見事な発色の半纏などを展示している。

半被や浴衣などの藍染めも手掛けるという藤澤さん。祭りで列になり踊っている人たちの一着一着が丁寧に手で染められているのかと思うと、改めて手仕事の偉大さを感じる。

大正から受け継がれているという糊つけの型。目を凝らすと見えるような繊細な糸が挟みこまれたミルフィーユ構造になっている。このB4ほどのサイズの型を使用して、10メートルにも及ぶ反物を染めていくというのだから驚きだ。

 もともと江戸の浴衣産業は分業制が基本で、藤澤さんの家系も先代までは染める前の反物に糊をつける作業を担当していたという。しかし、時代とともに職人の数が減っていき、染めの過程を一つの工房で完結できる必要性を感じた藤澤さんは、20歳のころに先代から引き継いだこの工場に藍染の甕を入れることになったようだ。

柄をつけたいところを輪ゴムで縛っていく。以前手拭いで一度体験したことがあったが、今回はTシャツ。立体的だし、着たときに柄がどの位置にあれば素敵に見えるか想像しながらやるのは、意外に難しかった。

風船状に縛るだけでなく、袖口のところにひだのような結び目をつけて遊んでみる。どんなふうに染まっていくのか想像しながらデザインしていくのも楽しいポイント。

最終形態はこんな感じ。バックに大きいポイントを持ってきて、ジーンズと一緒にさらりと着こなせる一着になる(はず…!)。藤沢さんに「甕に入れるときは、Tシャツの中に空気が入らないよう垂直に」とアドバイスをもらいながら、いざ、染めの工程へ。

 実際に染めを体験してみると、Tシャツの藍色が単に濃くなっていくのではなく、酸化と染色を繰り返して、さまざまな色へと変化しながら少しずつ藍へと変化していく様子に驚いた。細かな色の違いを大切にしていた江戸の人たちも、藍が持つ色の違いをよく理解していたのだろう。

甕に何度も浸して徐々に色を濃くしていく。イメージしていた藍の濃さまでにするには、少なくとも5〜6回は作業を繰り返す。実際に体験してみると、その手間がよくわかり、愛着も増していく。

甕から出したあとは、結んだところや重なっているところを手で丁寧に広げ、酸化させていく。酸化ができていないところは、緑っぽくなっており、よくわかる。この作業をおろそかにすると、ムラだらけの1着になってしまうので、怠れない。

藍の甕は工房に入れて以来継ぎ足し。25年以上にわたり積み重なる色の深みは、ずっと見惚れてしまうほど。工房には濃さの違う3種の甕があり、素材や用途によって使い分けて染めていくそう。

染料液は、藍の葉に水分を加えて発酵させた「蒅(すくも)」を使って作っていくという。「相手は自然のもの。体当たりでちょうど良いバランスを学んできました」と藤沢さん。植物性の染料の難しさがうかがえる。

甕に入れる時間は1回あたり3分。「結局はこれが一番便利」と藤沢さんが愛用している砂時計は、藍の色がたっぷりと染み込み、味わい深い。

 藍甕に一瞬つけただけの淡い藍色を「甕覗き」、黒く見えるほど濃い藍色を「濃藍」、藍の中でもほとんど黒に近いものを「勝色」といった具合に、豊富な識別があった。こういった細やかな違いを楽しむところに、江戸の人たちの粋な心というものが感じられる。限られたものの中で、いかに工夫して遊ぶか。着古したTシャツを持ち込んで新しい遊びを手に入れた自分が、江戸時代の粋を手に入れたようで少し誇らしくなった。

こちらが完成品。他の染料では再現できない力強い発色に感動。あえて化繊の糸のステッチが入ったTシャツを使用したが、いい感じにアクセントになって大満足の出来だ。

インフォメーション

都内で藍染めしたい? だったら江戸の藍染が知られる『藍染博物館』はどう?

藍染博物館

東京でほぼ唯一の藍染めの体験ができる博物館。展示コーナーでは、先代、先先代から受け継いだ貴重な染め型や表と裏の柄がぴたりと揃った職人技が光る反物などを藤澤さん直々に紹介していただける。隣の工房の棟では、創業以来何年も発酵を重ねた唯一無二の甕をお借りして染めの体験も可能。体験料はハンカチが1500円、Tシャツ(持参)は2000円。生地に化繊が入っていると色が入らないので、木綿100%のものを持っていくのが◎。人数が多くても対応可能だそうなので、みんなで誘いあわせて行ってみよう。

◯東京都墨田区京島1-29-1 ☎︎03・3611・6760 13:00〜17:00(月〜金)12:00〜17:00(土・日)※要予約