TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#2】teaching ではなく learning

執筆:持田剛

2026年3月26日

既に何度か言及していますが、当店の屋号は詩人E. E. カミングズの本『i: six nonlectures』に由来しています。

本国アメリカではレコード化もされている本ですが、日本では未翻訳のため、あまり知られていません。

私がこの本の存在を知ったのは、ニューヨーク・スクールの評伝を読んでいた時でした。“ニューヨーク・スクール”とは、1940〜60年代のニューヨークにおける芸術家たちのゆるやかな連関を指します。ポロックやロスコといった画家に加え、詩人オハラ、音楽ではケージ、ダンスはカニングハムなど、ジャンルを横断して交差していました。

その評伝には「彼らにとってこの本はバイブルのような存在だった」とあり、興味を持って、若い頃に個人輸入で手に入れました。

『i: six nonlectures』は、E. E. カミングズがハーバード大学のチャールズ・エリオット・ノートン講義(1952–53)をもとに、1953年に Harvard University Pressから刊行された本です。

この本を一言で言うなら、詩論ではなく、“美学的自画像”です。自分はいかにして“自分”になったかを、6つのパート、親・幼年期・詩・恋愛・演劇・自己像を通して語っています。それは、カミングズにとって芸術は社会的役割の延長ではなく、まず自分が自分でいられる空間に根ざしているからです。だから、講義のかたちに従うより、自分がどう形成されたかを語るほうが先に来る。これはかなり根本的な宣言でもあります。

この本がしばしば特別視されるのは、単に文豪詩人の講義録だからではありません。普通、ノートン講義は「知の要約」になりがちですが、カミングズはそこを逆手に取って、“知っている者として話す” こと自体を拒否しました。冒頭で「私はlectureのつもりはない」と。

彼の“teaching ではなく learning である”といった姿勢にはただ共感しかありません。

『i: six nonlectures』は、文学講義録というより、知の形式に対する小さな反乱です。教える場ではなく、出会う場。結論を与えるのではなく、読者の中で何かを始める場。

このニュアンスが、当店の「NONLECTURE」という名前の核にかなり正確に繋がっています。

プロフィール

持田剛

もちだ・たけし|洋書アートブックの仕入れ、選書、国内外の作家の写真展、アートエキシビションの キュレーション、出版イベント、サイン会等のアレンジを広く行う。1998年よりタワーレコード渋谷店7Fにあった『TOWER BOOKS』のマネージメント、2008年より『代官山蔦屋書店』準備室の洋書仕入れ、2014年よりファッションブランド〈マークジェイコブス〉が手掛けるブックストア『BOOKMARC』のディレクションを行う。2026年3月、渋谷スペイン坂に『NONLECTURE books/arts』を開業。

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