TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#1】空は夕暮れのような、明け方のような

執筆:燃え殻

2026年4月9日

忙しい、と言っているわりにはショート動画を二時間ダダ流しで観てしまったりする。そのショート動画の種類も、『TWICE』がクネクネ踊っている動画とか、ワニの捕食シーンなど、我ながらひどい。

この間は、散々『TWICE』のクネクネ動画を観たあとに、知らないアメリカ兵が、家族のもとにサプライズで帰ってくるという内容のショート動画を観て、オイオイ泣いてしまった。『ワン・バトル・アフター・アナザー』を、尺が長いという理由だけで観ていないのに、クネクネ動画は毎日二時間近く観てしまう。このままでは日々、ただただ時間を溶かすだけで、寿命が尽きてしまうと悟り、昨日より、寝る三時間前から、スマホ禁止にしてみた。つづくかどうかまだわからないが、結構本気でスマホ依存症から脱却したいと思っている。

現在、完全夜型生活なので、寝る時間はだいたい午前五時くらい。そうなると、午前二時くらいから、スマホは禁止ということになる。この三時間を、積読していた本を読む時間、もしくは観ようと思いつつ放置していた映画やドラマを観る時間にあてたい。そしてその感想を、この連載で書いていきたいと思った。ただ、感想を伝えるのが、なにより下手なので(下手すぎて、あらゆる書評を断ってます)、ざっくりした感想になると思うが許してほしい。

現在、午前四時。つまり、スマホ禁止タイムだった。今日は、いままで人には、「もちろん観たことあるよ。いいよね」などと話を合わせていたが、実は観たことがなかった、伊丹十三監督の映画『マルサの女』を観た。伊丹監督の作品は、まったく配信されていない。よって、大昔に買って、そのままにしていたDVD BOXから引っ張り出してきて、観ることにした。

まず観始めてすぐに思ったのは、昔映画館かテレビで観たことがあったかもしれない、ということだ。見覚えのある場面がいくつかあった。まず最初の最初。看護師が、死にかけている老人に、自分の乳房を差し出し吸わせている。これは衝撃的で、間違いなく観たのを思い出した。途中、脱税をしている社長役の山崎努が、秘書の乳房を揉み始める場面がある。その場面も始まった途端、思い出した。さっきからエロシーンばかり思い出しているが、本当なので仕方がない。

いまの日本映画の悪口を言い出すと、知り合いもいるのでゴニョゴニョなってしまうが、1987年にこれだけのエンタメ映画を作れていたのか、ということに正直驚いてしまう。俳優陣も、山崎努、室田日出男、大地康雄、大滝秀治と、濃い口が揃っている。女優陣の、宮本信子、マッハ文朱も最高のバディだ。

ラストシーン、脱税を繰り返し、まだすべてを自白していない社長役の山崎努が、マルサ役の宮本信子に「あんた、俺のとこに来ないか?」とポツリと言うシーンがある。宮本信子はそれを断る。彼らのいる場所から下を覗くと、公園で幼い子供たちが遊んでいるのが見える。空は夕暮れのような、明け方のような、複雑な色をしている。その場面がとても美しい。

この映画は、男女の友情、絆を描いた作品だと思った。多くの人にとって、聴き覚えのあるであろう音楽が、エンディングに軽快に流れ出す。やはりスマホは禁止にしてよかった。クネクネ動画をガン見したり、アメリカ兵のサプライズで、安く泣いている場合ではなかった。とても心が満たされた状態で、眠りにつくことが出来る。

観終わって、DVDをケースに戻すと、なにより、DVDのジャケットがとんでもなくお洒落でカッコいいことに気づいた。細部に神は宿る。伊丹十三監督の作品は、画面端々まで、デザイン端々まで、神が宿っている。

神は細部に宿る。端々まで神が宿ったジャケット

行きつけの映画館『シネマ ジャック&ベティ』

プロフィール

燃え殻

もえがら|1973年、神奈川県横浜市生まれ。2017年、『ボクたちはみんな大人になれなかった』で小説家デビュー。同作はNetflixで映画化、またエッセイ集『すべて忘れてしまうから』はDisney+とテレビ東京でドラマ化され、ほかにも映像化、舞台化が相次ぐ。著書に、小説『これはただの夏』『湯布院奇行』、エッセイ集『それでも日々はつづくから』『ブルー ハワイ』『愛と忘却の日々』『これはいつかのあなたとわたし』『夢に迷ってタクシーを呼んだ』『明けないで夜』『この味もまたいつか恋しくなる』など多数。

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