TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#3】つくり物の林をぬけて

執筆:三品輝起

2026年3月27日

 数年まえ、東京の西方へ居を移した。家から歩いてすぐのK市北部には、たくさんの人工の林がある。正確には生産緑地地区の一種で、都市部の緑化を維持したい自治体からの認定を受け、税を優遇してもらうかわりに、土地のもち主がいろんな樹木の苗を育てている農地である。たいがいの林は、種類ごとのわけられた木々が横へ幾筋もならび、縦に1本の道が走る。敷地の広さによるが、ひとつの横列に5本から10本くらいの木が植わっている。それぞれ苗を植えた日はおなじなので、おなじ背丈で成長していて少し奇妙だ。そして立派な成長をとげるまえに出荷されるため、だいたいの木が幼い。そんなみずみずしい樹木が、マスゲームのように整列する人工林の風景に目を惹きつけられるのはなぜか。たぶん私にとって、自然の鬱蒼とした樹木の連なりは情報量が多すぎるのだろう。なかなか目の焦点があわせにくい3D絵本みたく、その複雑性のなかにわけいって、ぜんたいを愛でるまでの時間がめんどうなのだ。

 人間は自然にうまく手をくわえて情報量を減じることで、じぶんなりの意味や心地よさをとりだしてきたわけだが、その塩梅はひとそれぞれである。たとえばゴッホは果樹園を、モネは睡蓮の咲く庭園を憑かれたように描いているけれど、私はくだもの畑よりも庭よりも、さらに情報が間引かれた、このつくり物の林に強く魅了された。そういえば父のあやしい画廊には、たしかゴルフ場をひたすらえがいたフランス人の版画もあった。風が吹くと、隙間をあけてならぶすべての木がさらさらと軽くゆれる。淡い木陰しかつくれない幼い林をつっきる、まっすぐな道。じぶんが画家なら狂ったように、ここら一帯の林園を描いたかもしれない、と思いながら歩いた。ときおりグーグルマップにピンを打ち、どんな木が植わっているのかをメモりながら、林から林へと移動する。

プロフィール

三品輝起

みしな・てるおき|1979年、京都府生まれ。愛媛県にて育つ。2005年より西荻窪で雑貨店『FALL』を経営。著書に『すべての雑貨』(ちくま文庫)、『雑貨の終わり』(新潮社)、『波打ちぎわの物を探しに』(晶文社)などがある。

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