ファッション

まだまだ知られていない日本のスモールブランドの話。/HELS

2026年3月21日

僕の着倒れ東京案内。


photo: Shin Hamada
text: Neo Iida
2026年4月 948号初出

専門学校で縫製などはひと通り習ったが、現在の服作りの軸はグラフィックデザイン。デスクで作業をすることが多く、外部のデザイン仕事も請け負っていて周辺は資料だらけ。

フィギュアと人間が同じ服を着る。
もっとファッションを簡単にしていきたい。

「フィギュアと人間が同じ服を着る」という一風変わったコンセプトの〈HELS〉。デザイナーの出口壮夫さんの経歴もまた一風変わっていた。

「女の子のかわいい服を作る自信はないけど、〈コム・デ・ギャルソン〉みたいな造形的な服作りならできるかなと思って〈ギャルソン〉のパタンナーになりたかったんです。でも専門でも大学院でも落ちたのでデザイン会社に就職して。その後、縁あって〈ギャルソン〉のグラフィックの部署に転職しました」

〈ギャルソン〉では店舗や服などのグラフィックを担当した。川久保玲さんのデザインをどう世界に伝えていくかが仕事の要であり、関わったものが世界に羽ばたくのは刺激的だった。しかし7年たった頃、冒頭のコンセプトが頭に浮かび、出口さんは退職を決意する。

「オタク的なサブカルチャーは通らずに来たし、特別フィギュアが好きなわけでもないんですよ。自分でも考えがまとまっていない部分があるんですけど、目の前に服があると、着心地や素材、カッコいいのか悪いのか、考えることが多くて自分事になりますよね。でもフィギュアのグッズだけだと思えば、ライトに服が着られると思って。だからグッズっぽいブランドにしたいと思ってるんです」

グラフィックデザインと服作り、それぞれの現場が混在する事務所。マネキンは既製でちょうどいいものがあったので購入した。

服を見せるためのフィギュアなので、あえてCGのようなブルーの無機質な肌感に。

 なるほど、フィギュアを仲介することで、出口さんが考える服の在り方が提案しやすくなっているんだ。

「ファッションを簡単なものにしたいという気持ちがあって、街で見るおじさんの服とかカッコいいと思うんです。仕事で関わる人はおしゃれだし、彼らはとても素敵ですけど、僕は『ファッションは二の次』みたいな人のファッションが好きなんです。誰でもないような格好が」

〈ギャルソン〉時代、熱望すれば夢見たパタンナーになれたかもしれない。でも「心がグラフィックデザイナーになっちゃってたから」と出口さんは言う。

「周りを見ていると、自分はそんなに服の解像度が高くないなと思うんですよ。 それはやっぱり自分がグラフィックデザインの人間で、服を記号的に考えてるからだと思うんです。アンディ・ウォーホルのように同じものがたくさんあるという理屈が好きだし、マクドナルドのユニフォームも誰か一人のためのデザインじゃなくてみんなが着られる設計じゃないですか。そんなふうに服をもっと簡単にしていきたい。つまり自分の世界を俯瞰する、そういうところに興味があるんだと思うんですよね」

シャツの胸元のロゴはアトリエにあるシルクスクリーンでプリントしたもの。¥28,600(ヘルス www.wholegray.com) 

フライトジャケットはアポロ1号のフライトウェアがモチーフ。上半身と下半身を分離してデザインした。¥41,800 

企業ロゴのようにも見える、ヴェイパーウェイヴ的なグラフィックが印象的なトラックジャケット。「運動するように働くトラックジャケット」がテーマで、よく見ると「自分が好きなことのために働くことほど楽しいことはない」という意味合いの言葉がデザインされている。¥19,800 

Tシャツには子供向けの古い百科事典のようなビジュアルをプリント。これは「科学を知ろう」がテーマになっていてテキストもすべて自作。¥8,580

インフォメーション

HELS

オリジナルの6分の1スケールフィギュアと人間が同じデザインの服を共有するという、特異なコンセプトを持つブランド。2022年にスタートし、2026年春夏シーズンに本格デビュー。

Instagram
https://www.instagram.com/helswg/

プロフィール

出口壮夫

でぐち・もりお|1988年、千葉県生まれ。文化服装学院、文化ファッション大学院大学卒業後、デザイン事務所勤務を経てコム・デ・ギャルソンに入社。7年在籍後フリーに。