カルチャー
雑誌狂の部屋へ。
展覧会「そこに誰かが確かにいた:廿世紀日本雑誌ライブラリー」が開催中!
2025年12月16日
photo: Koh Akazawa
text: Koji Teramoto
edit: Keiko Sude
20世紀の巨大な雑誌文化への、個人的なオマージュ。
壁一面に広がる、色とりどりの魅惑のヴィジュアル。東京・中目黒の「VISVIM GENERAL STORE / VISVIM GALLERY」にて開催中の展覧会「そこに誰かが確かにいた:廿世紀日本雑誌ライブラリー」は、世界中の工芸と文化にまつわるトピックを取り上げる雑誌『Subsequence』(Cubism inc.)第8号の刊行を記念して開催中の展覧会。同誌の編集長でありPOPEYE Webシニア・エディターでもある井出幸亮さんが長年集めてきた膨大な雑誌の私物コレクションの中から、100冊以上をセレクトして展示、手に取って閲覧もできるポップアップ・ライブラリーだ。他ではなかなか見ることのできない貴重な雑誌の数々を提供した井出さんに、展示への思いや見どころについて尋ねた。
POPEYE Web
今回はどんな雑誌を展示しているのですか。
井出さん
20世紀、つまり1901年から2000年までに刊行された雑誌です。雑誌1タイトルにつき1冊、合計150タイトルほどの雑誌が並んでいます。すべて私物の雑誌コレクションの中からセレクトして展示しています。
POPEYE Web
なぜ「20世紀の雑誌」に絞ったのでしょう?
井出さん
僕は21世紀に入ったころから雑誌編集の仕事を始めたので、ちょうど四半世紀が経ちます。つまりここに並んでいる雑誌の中に、自分が制作に携わったものはありません。2000年ごろというのはインターネットの一般社会への登場〜普及期にあたり、この四半世紀はスマホ、SNSの爆発的な浸透に至るまでの過程と言えます。そうした中で、以前は雑誌が担っていた、情報を「速く、簡単に、体系的に」届けるという役割はネットに取って代わられ、雑誌の存在感は低下していきました。そうした流れの中で、20世紀を通じて途轍もなく膨大な数量が刊行され、大きく花開いた雑誌の文化そのものもまた忘れられています。僕はこうした時代に対するノスタルジーとリスペクトを感じており、長年にわたって古雑誌を収集してきました。その一部を展示・公開することで、かつてあった豊かな文化と技術を知り、触れてもらえる機会になったら、と思いました。
POPEYE Web
これらの雑誌はどのように入手していったのですか。
井出さん
高校生あたりから古い雑誌に興味を持ち始め、主に各地の古本屋で入手しました。オンライン古書店やオークションサイトなどでも購入します。雑誌は例えばレコードにおける「Discogs」のような体系的データベースはないので、「どんな雑誌が存在したのか」を知ることがまず難しいんです。なので、少しずつチェックして足で稼ぐしかありません。全部で何冊所有しているのか自分でもわかりませんが、今回展示してある量の5倍くらいはあるかもしれません。
POPEYE Web
今回の展示の見どころを教えてください!
井出さん
まず、こうやって表紙を眺めるだけで、その時々の時代の日本を代表する写真家、イラストレーター、デザイナー、アーティストたちが多く関わっていることがわかると思います。特に表紙は雑誌の「顔」として重要だったので、表紙のためにアートディレクションをして趣向を凝らしたものが多く、それだけですごいショーケースだと思います。例えば、この『ニュー・ライトミュージック』(1976年)では古川タク、この『ミュージック・マガジン』(1986年)では吉田カツが、いずれもフランク・ザッパのイラストを描いていたり。そんなのを見比べてみるのも面白いですよね。
POPEYE Web
表紙はもちろん、中身もすごく凝っていて、企画が斬新でユニークなものが多いですね。
井出さん
僕ももちろんそうでしたが、当時の読者は情報に「飢えて」いたので、雑誌のページの隅から隅まで、舐めるように読んでいました。そうした読者の熱量を前提に、編集者やライター、カメラマン、デザイナーら作り手は細部まで手を抜くことなく、たった1カットの写真、一行の見出しにも面白く読ませようという工夫があったんだろうなと。一方で、毎週あるいは毎月の刊行に追われてもいたので、乱暴で突飛なアイデアとか企画もあって、そういうラフさも面白い。売れている雑誌のレイアウトや表現を思い切り真似た誌面があったり。この『サウンドボーイ』(1980年)というオーディオ雑誌は、当時、大流行した『POPEYE』のテイストそのまんまで、パロディみたい。
POPEYE Web
掲載されている広告も時代を反映していて面白いです。
井出さん
そこも雑誌ならではの面白さですよね。かつては企業にとって雑誌広告も大きなメディア戦略の一つでしたので、予算や手間をたくさんかけて、人心をソソる面白い広告を作ろうという創造的な機運がありました。80年代くらいの雑誌を見ると、広告の量にも驚かされる。当時の『POPEYE』も「満稿(雑誌の広告枠の上限いっぱいまで広告が入ること)」になって、広告が掲載し切れないことがしばしばあったそうです。今では考えられない(笑)
POPEYE Web
時代の勢いを感じます。
井出さん
あと、今では使われないグラビア印刷などの印刷方式や写植文字、ポジフィルムの写真、アナログのレイアウト組版など、時代ごとの雑誌制作の技術が見られるのも興味深いです。制作がデジタル化して簡単便利になり、進歩しているように見えるけれど、本当にそうなのかな?と。今、メディアづくりに携わっている人にも、新たなヒントを得てもらえるんじゃないかな。
POPEYE Web
これらの雑誌を制作していた方には、すでに亡くなっている方もいらっしゃると思いますが、その方々が展示を見たら嬉しいだろうなと感じます。
井出さん
自分は普段から、何十年も昔の雑誌を読んで楽しんだり感動したりしています。なので、雑誌に限らず、今現在あるメディアも、誰かが何十年後かに見て、「これすごいじゃん!」と感じる人が必ずいるという確信がある。だから、もちろんビジネスは大切なことだと思いますが、「今この瞬間、売れる。理解される」ということだけにフォーカスせず、もっと長いスパンで考えられたらといつも思っています。そんな感覚を共有してもらえたら嬉しいですね。
POPEYE Web
井出さんが雑誌を好きな理由はズバリ何ですか?
井出さん
軽いところです。気軽ですよね、雑誌って。過度に知的に見せようとしたり重厚で立派そうな雰囲気を打ち出したものはあまり好きじゃないんです。
POPEYE Web
では、井出さんが編集する『Subsequence』はどんな雑誌だと思いますか。
井出さん
『Subsequence』に関しては、ZINEや同人誌のような感覚に近いですね。小さくてインディなムードが好きなので。学校のクラスみんなの間で流行っているものより、自分の身近な友達の数人の間で「面白い」と盛り上がっていることをより深く掘って遊ぼうと。世の中的に「ニュー」であること、「ベスト」であることはまったく意識していなくて、自分たちがたまたま会って、たまたま良いなと思ったことを、「こんな面白い人がいたよ、こんな素敵な場所があったよ」と友人みたいな読者とシェアするような感覚かな。だって友達って、大勢の候補者の中からオーディションして「ベスト」を選んだわけじゃないですよね(笑)。席がたまたま隣だったとか、アルバイト先が同じだったとか、付き合っていた彼女の友人だったとか、偶然に過ぎない。でもその偶然が、自分にとってはすごく大切だと思うから、そんな感覚が伝えられたらと思っています。
検索で知りたいことがすぐに知れたり、サブスクで聴きたい音楽がすぐに聴けたりする便利な現代。しかし、こと古い雑誌に限ってはそのアーカイブを実物で直接めくって読む機会はそうそう無い。この貴重な機会にぜひイベントに足を運びたい。
インフォメーション
Subsequence Salon vol.5 展覧会「そこに誰かが確かにいた:廿世紀日本雑誌ライブラリー」
会場:VISVIM GENERAL STORE / VISVIM GALLERY(東京都目黒区青葉台1-22-11)
会期:2025年12月13日(土) 〜12月21日(日)
時間:11:00〜20:00
連絡先:☎︎03•6452•4772
Official Website
https://subsequence.tv/jp/topics_stories/event/5401/
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