TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#4】わたしの未来人

執筆:大竹笙子

2025年6月1日

去年の冬、1ヶ月間ヨーロッパにいた。
アムステルダム北区の元造船所跡地で月に2回開かれるアイ・ハーレンマーケットにもタイミングよく行くことができた。アムステルダム最大と謳われているだけあって、見ても見ても終わりが見えない巨大マーケットだった。

マーケットの場所までは無料のフェリーで10分ほど移動する。外国のマネキンに反応しがち。

売っているものも人もさまざまで、アンティーク家具、古本、雑貨があるかと思えば、大掃除や引越しで出たのであろう最近の雑誌や日用品、誰が描いたか謎の絵、子供服をぺぺっと並べただけで明らかに商売っ気のないあの人たちは、おそらく出品中のおしゃべりと飲み食べの時間が週末の楽しみだったのだろう。
玉石混交の中でどれがお宝か否か各々に委ねられているその自由さと、運試しのようなマーケットの空気感に、タガが外れたようにパワーが一気にみなぎっていくのを感じた。
巨大マーケットならではの雰囲気を全身で浴び、目を凝らせ〜目を凝らせ〜と唱えながら獲物を捕らえるように物色した。
自分が今何に反応するのか、何を見つけられるのか、視覚よりも勘を頼りにウロウロ歩きまわる自分は、野良犬のようだ。

マーケットをウロつくわたし?

自分が良いと思って購入したものが、一体いつから存在し、どんな人が持っていて、どんな人が作ったのだろうと過去に想いを馳せるのも大事な儀式だ。今日までこの状態で残して くれていてありがとうございます大事にしますからね合掌!
マーケットというセラピーを受け、お宝と共に元気よく帰国した。

今は来月末から始まる展示に向けて制作中で、その中には版画ではなく、「彫る」に特化した初めての試みもある。
木の表面にでっぱりをつくるための「彫る」作業は、版をつくる時の「彫る」作業とは全く異なり、まさに「彫(って)刻(んでいる)」感覚で、それが今は新鮮だ。彫り終えたら、 今回一緒に展示をする姉の彩子にパスし、彼女が上から絵を描いていく。
版木でもない彫刻でもない今はまだ定義があやふやな立体物が、着々と増えている。

立てかけた時、凸部分の周りに影ができるくらい深く彫っている。

これらは一体どんな人の元に行くんだろうと、作ったものたちの行方を想像する。
それは、マーケットでお宝に出会えたとき、それらの過去を想像することと少し似ているのかもしれない。どんな作者や保有者だったのかと想像する私は、彼らにとっては知りもしない未来人だ。
自分がこの世からいなくなった未来、自分の作ったものがマーケットで売られ、なんだこれと面白がり手にとってくれる未来人がいてくれたら、そんな光栄なことはない。
そんな想像をするだけで今の私は触発されるし、その未来人をあの世から見つけた私も、スナック冥途支店から(コラム第3回参照)私の未来人〜!と手を振り祝杯をあげるだろう。

今日は日曜日。地球のいたるところで今日もマーケットは開かれている。
久しぶりに野良犬セラピーに行きたいと思いつつ、展示に向けて、未来人に向けて、今は制作に勤しむ。

インフォメーション

「4 EYES 2 BRAINS」 SAIKO OTAKE & SHOKO OTAKE EXHIBITION

会期:2025年6月20日(金)〜30日(月)
場所:東京・渋谷PARCO B1F「GALLERY X BY PARCO」

【GALLERY X BY PARCO website】
https://art.parco.jp/galleryx/

プロフィール

大竹笙子

おおたけ・しょうこ|1993年生まれ。2017年ロンドン芸術大学テキスタイル学科卒業。
日常で目にした情景を版画に落とし込み、版を反復したり様々な素材を用いて唯一性のある版画を制作。
近年では、展示のほかに書籍の装画・挿画、テキスタイル、レコードジャケットなど幅広いジャンルを通して作品を発表している。

Instagram
https://www.instagram.com/shokootake/

Official Website
https://www.shokootake.com/