ライフスタイル
ひとり台湾あるき-day3-/文・上白石萌歌
ひとりがたり Vol.13
2025年1月15日
早安(ザオアン)! 台湾で目覚める2度目の朝。やはり旅先で眠って起きるを繰り返すと、その地のなにもかもが自分の身体にじっくり馴染んでくる気がして、そのことがすごく嬉しい。
わたしは今日も旅をする。知らないなにかに出会い続けるのだ。iPhone爆音でなぜか加山雄三氏の音楽を流し、昂る気持ちを大きく胸に広げてみる。
今日は台湾発祥の地とも言われる古都、台南へ向かう日。台湾は日本の九州よりすこし小さいくらいの大きさの島であるため、台北から台南へも新幹線で気軽に行けてしまうそうなのだ。新幹線はお昼過ぎに乗車予定だったので、それまで台湾の朝ごはん文化を味わってみることにする。
訪れたのは宿の近くのこぢんまりした朝ごはん専門店。外食文化が根付いている台湾では、朝ご飯をも外で済ませることが多いのだそう。3食の中でいちばん朝ごはんが好きなわたしにとって、朝ごはん専門店なるもの、胸がときめかないはずがない。
“鹹豆漿”という豆乳スープと”蛋餅”という卵のクレープのようなものを注文。どちらも台湾朝ごはんのスタンダードらしい。
スープは豆乳のやさしさに、お酢とラー油のピリリとしたアクセントが映えて美味! 卵のクレープは生地がすこしもっちりしていて食べ応えがあり、案外パワー系。お店には扉がなく、半分屋外でバイクや行き交う人たちの音を聞きながら食事をするというのもなんだか贅沢である。こんなに気さくで美味しいお店、近所にあったら通い詰めてしまうに決まってる。台湾に生きる人たちのバイタリティのひみつが、こんなふうなすてきな朝ごはんにあったのだということを知る。
腹ごしらえも済んだところで、いよいよ台湾新幹線に乗り込む。旅の中での移動ってどうしてだかすごくわくわくしてしまう。
新幹線の車内は驚くほどクリーンで、日本の新幹線とほとんど変わらない。見慣れぬ車窓からの景色にぼんやりと目を泳がせること2時間、あっという間に台南に到着。
着いて早々、都会的な台北との空気の違いに驚く。なにもかもが剥き出しな屋台の厨房や、せわしなく行き交うバイクの音、アパートの物干し竿に無防備に干されたショッキングピンクのTシャツ。目にうつる光景のどれもが鮮烈ながら懐かしく、ふしぎな引力を持っているように感じた。ローカルな佇まいの中にもたしかに香る気品があり、すこし歩くだけでなんて魅力的な場所なんだろう、とため息が出てくる。町の角のブーゲンビリアが煌々と咲いていてまぶしい。
台南で宿泊する予定の宿は、古い建物をリノベしたという小さな民宿。一般的なホテルとはまったく異なるスタンスで、台南の下町での暮らしを追体験できるところに惹かれた。
さっそくチェックイン。ロビーに足を踏み入れると素敵なお母さんが出迎えてくれ、暑かったでしょう、とつめたいアイスキャンディーを出してくれた。友達の家に来たような、すこし照れ臭い、なつかしい気持ち! なんだかんだ終始気の張っている旅の中でこんなふうに人の温かさに触れると、込み上げてくるものがある。
わたしの部屋は最上階の角部屋。この宿にはエレベーターがないため、重たいトランクを汗だくになりながら階段で運ぶ。まさしくキキがオソノさんのグーチョキパン屋の2階に住まわせてもらうような風情で。
噴き出る汗をぬぐって部屋のドアを開けると、アットホームな雰囲気に思わずふう、と息が漏れる。ベランダからはあたりの家や路地が見渡せて、本当にこのまま半年ほどここで暮らしてしまいそうだ。洗面台で、昨日朝市場で買ったマンゴーに手をべとべとにさせながらかぶり付くと、そのみずみずしく光るような野生的なうまさに、生きている、生きている、と目をうるませてしまう。
バスに乗って町を散策。古い書店をいくつか回ったり、日暮れに夜市にふらりと寄ってみたり。旅先で鳴る秒針はあまりにも軽くて、あっという間に時間が過ぎ去ってしまう。いつどこにいたって流れる時間の長さは等しいはずなのに、スポットライトの当たった旅先での時間は特に輝かしく思えるのはなぜなのだろう。
旅を抜けた先に待っている日々も、こんなふうにじりりと大切に目に焼き付けていられたらいいのに。非日常の中で考えるふだんの日常。自分の人生に流れる時間というものについて、じっくりと巡らせることができるのも旅の醍醐味かもしれない。
もどった宿でかわいい猫足のバスタブにぶくぶくと潜りながら、台湾最後の夜は更けていった。明日は最終日。すべてを焼き付けてトランクに詰め込んで帰ろう。
ひとり台湾あるき、またぎにまたいで次回の最終回へ続く〜。
ひとこと
2025年、スタートしましたね!
わたしの今年の抱負は、部屋の片付けをこまめにやる、片手で洗顔できるようになる、ギターうまくなる、です。よろしくお願いします。
上白石的テーマソング:加山雄三「君といつまでも」
プロフィール

上白石萌歌
かみしらいし・もか|2000年生まれ。鹿児島県出身。2011年、第7回「東宝シンデレラ」オーディショングランプリを受賞。12歳でドラマ『分身』(12/WOWOW)にて俳優デビュー。ミュージカル『赤毛のアン』(16)では最年少で主人公を演じた。映画『羊と鋼の森』(18/東宝)で第42回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。主な出演作にドラマ『義母と娘のブルース』(18/TBS)、『教場Ⅱ』(21/フジテレビ)、『警視庁アウトサイダー』(23/テレビ朝日)、『ペンディングトレイン-8時23分、明日 君と』(23/TBS)、『パリピ孔明』(23/フジテレビ)、『滅相も無い』(24/MBS)など。25年1月10日公開の映画『366日』に出演。adieu名義で歌手活動も行う。
Instagram
https://www.instagram.com/moka____k/
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