TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#1】佐野繁次郎とポール・ナッシュ。

執筆:川勝徳重

2024年10月15日

 新しい漫画を描きました。『痩我慢の説』(藤枝静男原作)です。

 1955〜1957年あたりの静岡を舞台にした漫画で、中年の医者とその姪っ子の価値観のすれ違いや交歓を描きました。

川勝徳重・藤枝静男『痩我慢の説』(リイド社)の本体表紙。デザインは川名潤。

 カヴァーを取った表紙にピンと来る方もいるかもしれません。1950年代に活躍したブック・デザイナー/画家である佐野繁次郎オマージュです。私にとって1950年代のハイ・センスな日本文学の装丁といったら、それは佐野のものなのです。あわよくば自分の本もそうありたい。そう考えて彼の作品集(「佐野繁次郎装幀集成 西村コレクションを中心として」)を携えて、川名潤装丁事務所の扉を叩いたのです。川名さんが描いた佐野オマージュの表紙は、1950sの「あの頃」の雰囲気がよく出ています。

 漫画は、ありとあらゆるものを取り込んで「本」というパッケージに記録することができます。人々のさりげない感情や想い、ありふれているため普段意識されない風景、ちょっとした言葉遊び、音楽、流行、風俗、そういったものを、ふんだんに織り込むことができます。私も1950年代の風景や歌、漫画をたくさん登場させることで、「あの頃」の雰囲気が醸し出されるように頑張りました。みなさまも機会がございましたら拙作『痩我慢の説』を手にとってみてください。

本書のために二種類の絵を描き下ろした。その二枚の絵を川名が合成したものが、カヴァーの絵である。これは未使用の画像。変な色の雲は、そのとき気に入っていたイギリスの画家、ポール・ナッシュ風。のつもり。

プロフィール

川勝徳重

かわかつ・とくしげ|1992年、東京生まれ。漫画家。著書に『電話・睡眠・音楽』『アントロポセンの犬泥棒』『痩我慢の説』(いずれもリイド社)。現在、戦前の児童漫画叢書ナカムラ・マンガ・ライブラリーの長編評論『夢と重力』執筆中。2025年にまんだらけ出版より刊行予定。

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