カルチャー
目指せGEEK WATCH図鑑!!! Vol.13
写真・文/久山宗成 a.k.a. Donald
2023年4月1日
photo & text: Muneaki Kuyama a.k.a. Donald
edit: Yukako Kazuno
「隠れGEEKさんいらっしゃい!」
先月から始まりました身近に潜む隠れGEEK WATCH偏愛家を探して取材する企画シリーズ。第二回目にしてクライマックスか⁉︎
今回の隠れGEEKさんは、な、な、なんという~ことでしょう。私ドナルドが大大大リスペクトの、シュールの殿様、”なんおじさん”こと、竹中直人さんで~ございます。
私が営む改造ショップ『R.I.P. STORE』のお客様ですので、今まで取材オファーを遠慮しておりました。だが時は来た! 最近、映画を監督されたばかり。このタイミングしかないと思いオファーさせて頂きました。ちょっと緊張します🎵
Donald(以下D):竹中さんは”時に縛られたくないから腕時計をしない“タイプかと思ってたんですよ。「時間なんか分からなくていいや」という感じかなと。
竹中さん(以下T):昔、そういう歌を歌ったことがあるよ。五社英雄監督の『薄化粧』(1985年)という映画をやった時に夏木マリさんとイメージソングを歌ったんだ。緒形拳さん主演の映画さ。でもマリさんは「そんなことあったっけ?」ってそれを覚えてないんだ(笑)。その歌の詩に、”あなたは風ほど気ままでいたいといつも腕時計を外したまま…”というフレーズがあったんだよね。時を気にせず生きていたいって。でも、俺も時は気にしては生きてないような気がする…って言ったら嘘になるな。だってまさか自分が高齢者になるなんて! でも腕時計ってロマンチックだよね。腕に重量がかかるのが良いなって思う。腕時計を見る仕草もいい。携帯で見るのではなく。手を伸ばして服の袖をめくる「今3時半か…」とかね。その仕草が好きなんだよ。あと、揺らした時の機械のシュルシュルシュル🎵って音。あっ…いっしょうけんめい動いてるってね。
D:自動巻きの音ですね。
T:そう、まだ生きてるっていう。それが自分にとっての腕時計のロマンだな。僕は左利きだけど利き腕の左にしちゃうよ。右だと落ち着かないんだ。普通、利き腕にしないんでしょ? でも、僕は腕時計は左手にしないと落ち着かない。シュルシュルシュル🎵(そう言って左手を降る竹中さん)。
D:今日、お持ちいただいた竹中さん私物の腕時計はテイストがかなり近いですね。
T:そうだね。そう思うと似てるよね。映画を監督した記念に買ってたんだ。『無能の人』(1991年)を初監督した時に初めて腕時計という物に惹かれたよ。監督をした記念のものは何がいいだろう…って、たったひとりの自分への記念に。
『無能の人』を初監督した時に初めて腕時計という物に惹かれたよ。監督をした記念のものは何がいいだろう…って、たったひとりの自分への記念に。『無能の人』の監督記念に〈Cartier〉を買ったんだ。またいつか映画を監督出来ますようにって願いを込めて。ブルーサファイアの色が綺麗で可愛かったんだよね。僕がまだ34歳の時だよ。2本目の監督『119』(1994年)を撮った時の腕時計が見つからなくて…。多分どこかにしまい込んでるんだ。これは『東京日和』(1997年)を監督した時の腕時計。三本目の監督記念はゴールドも良いかもしれないと思って。
T:これは『サヨナラCOLOR』(2005年)を監督した時。
D:やっぱりブルーサファイア入ってますね。結構重たいですね。
T:重たいのが好きだな。ズシッとくる感じが。でも最近、だんだん目が悪くなってきちゃったから、こうやって見るけど(腕時計に顔を近づける竹中さん)。
D:それもあって最近良くされてるお気に入りの時計がこちらなんですね。
T:色がとても綺麗だったから。これは、映画じゃなくて60歳の記念に買ったんだ。まさか自分が60を超えるなんてね。生きてれば歳はとるんだけど。
D:死んだら腕時計要らなさそうですしね。
T:死んじゃったら何も要らないよね。でも生きてる誰かに差し上げられたら良いな。
D:この〈Cartier〉の腕時計も監督記念に買われたんですか?
T:の、はずなんだけれど覚えてないんだ。いつ買ったのか覚えてない…。色んな事、どんどん忘れていっちゃうんだよね。
D:竹中さんの中で、時というか老いていくものに対して恐れはあるんですか?
T:つい昨日までメールしてたのに、って友人が亡くなるとビックリしちゃうよ。死は身近に感じる。いつ死んでもおかしくない歳だしさ。生きてることは奇跡なんだよね。そんな事を思うようになった。いや、ずっと思ってたのかな。危険な撮影とかあって、命拾いしたこともあるしね。監督が台風の日に撮影したいって言って、本当の台風の日に海で撮影したんだよ。そのまま高波に呑まれてぐるぐる身体が回転して上がって来れなかった。今思い出しても本当に怖いよ。
D:今回『ゾッキ』(2021年)の次に単独で久しぶりに『零落』(2023年)を監督されましたね。
T:漫画家の浅野いにおさんの作品です。いにおさんの世界を映画にしたかった。浅野いにおという、たった1人の観客に向かって撮った映画なんだ。いにおさんが見たらどう思うだろうってそれだけを考えて撮っていたよ。撮影に入る前、お金が集まるか集まらないか分からない状況にあったんだけれどすでにロケハンはやっていたんだ。だから、自分のイメージにあった場所、こういう場所で撮りたいという思いが早くからあったんだよ。まだ、変わらず残ってる場所。多摩美時代によく通っていた喫茶店とかね。老朽化であと2~3年後には無くなるってお店の人は言っていたけれど。
D:老いていくものに対しての楽しみもあるじゃないですか。変化というか。
T:朽ちていくというのは、ある意味ロマンチックだよね。何かが崩れてゆくという表現になるとちょっと怖いけれど(笑)。腐りゆくものや朽ちてゆくもの、それはそれで味になったりもするし、若いから全てが良いとは限らないしね。でも、映画館に「若い人が入ってるんだよ!」っていうとなんか勢いつく感じがあるじゃん? でも、「高齢者が結構入ってんだよね」っていうとなんだかちょっと沈む感じもあるよね(笑)。何だろうねあの感じ。高齢者っていう表現があまり良くないのかもしれないね。高齢化社会っていう響きが結構キツイよね。でも他に表現ないしね。「じじいが入ってるんだよ!」じゃあまりに酷い表現だしね! って何言ってんだ俺(笑)。
D:竹中さんは昔から映画の撮影が終わると、「お祭りが終わったみたいに切なくなる」と言われてたのを昔何かの記事で読んだことがあります。
T:スタッフ、キャストと皆で集中した時間が、1本の作品に向かって作ってきた時が、プツんと切れちゃうと、とてつもない寂しさに襲われるよ。撮影現場と、仕上げ作業が全てで、後はただの「結果」だけになってしまうからね。
D:それで、また次の映画を撮るモチベーションになるんですね?
T:そうなのかな…。突然取り残された気持ちになっちゃうんだよね。全て失った感じ。出来上がってしまったら何も無いというか。だからいいんだけどね。
D:引退とか考えたことはあります?
T:いや、それはないよ。でももう俺なんか出る幕無いだろうなと思う時はあるよ。もう俺なんか必要とされてないな…みたいなね。でもなんとかまだ生きてるから、何かをまた撮りたい! 演じたい! という思いはまだ残ってるかな。もういいや、という気持ちにはまだなってないかも知れない。でももうダメかもしれないなって気持ちになったりもするよ。そういう揺らぎの中で、ずっと若い時から生きてきた気がする。
ゲストプロフィール
竹中直人
たけなか・なおと | 1956年3月30日、神奈川県生まれ。多摩美術大学時代から自主映画を制作し、卒業後は劇団青年座に入団。 1996年にNHK大河ドラマ『秀吉』で主演し国民的スターとなる。『シコふんじゃった。』『EAST MEETS WEST』、『Shall we ダンス?』では日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞。主演も務めた初監督作『無能の人』がヴェネチア国際映画祭で国際批評家連盟賞、第34回ブルーリボン賞主演男優賞を受賞したほか、監督作・出演作で受賞多数。そのほかの監督作に『119』『東京日和 』『連弾』『サヨナラCOLOR』『山形スクリーム』R-18文学賞vol.1『自縄自縛の私』『ゾッキ』『∞ゾッキ 平田さん』などがある。
プロフィール
久山宗成 a.k.a. Donald
くやま・むねあき | 改造活動家、企画編集者、GEEK WATCH偏愛家。ワタリウム美術館のミュージアムショップ地下中二階にて、2014年より改造見世物小屋『+R.I.P. STORE』を営む。様々なマテリアルや手法を組み合わせてジュエリー、腕時計、プロダクト、舞台美術などを制作している。趣味的に始めてどハマりしたGEEK WATCHのコレクションは今や700本以上。現在『GEEK WATCH PEDIA』なる本を編集中。
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