カルチャー

目指せGEEK WATCH図鑑!!! Vol.12

写真・文/久山宗成 a.k.a. Donald

2023年2月28日

photo & text: Muneaki Kuyama a.k.a. Donald
edit: Yukako Kazuno

「隠れGEEKさんいらっしゃい!」
突然ですが、あなたの身近に潜む隠れGEEK WATCH偏愛家を発見して取材する企画シリーズ始めます。記念すべき最初の隠れGEEKさんはなんと社長さん。GEEK WATCH偏愛家って、僕らみたいな代表取締まられ役の人には多い気がするけど、まさか本当に代表取締役の偏愛家がいるのか?

いたとしたら、スーツにどうGEEK WATCHを合わせるのか? その疑問を探るべく東久留米の秘密じゃない基地に、クリスティーズ・ジャパン代表取締役社長の山口桂さんをお招きしました。

Donald(以下D): ようこそおいで下さいました。山口さんは仕事される時にGEEK WATCHはされるんですか?

山口さん(以下Y):しますね。仕事柄、会う方々はお金持ちの方が多いわけです。されている腕時計でビルが立つような(笑)。だから、そういうお客様もしていない腕時計が好きですね。自分も元々は日本美術のスペシャリストでアートを生業にしていますので、腕時計も自分ならではの発掘がしたい。美は発見ですから。

D:やっぱり発掘するのが楽しいわけですね。そう言われると、今日持ってきて頂いた腕時計も好みの筋が通っていますね。山口さんが最初に手に入れた腕時計はどんな腕時計でしたか?

Y:〈OMEGA〉ですね。機械式で自動巻きのシンプルな腕時計です。僕が中学に入った時に父親が、「中学生なんだから腕時計のひとつでもしろ」という感じでくれた物ですね。人生で一番最初にした腕時計です。

D:中学生の時に1番最初にした時計が〈OMEGA〉なんですか。最高ですね(笑)。

山口さんが中学生の時に父親からプレゼントされた〈OMEGA〉。2回くらいオーバーホールして今でも愛用している。

D:こちらの腕時計もかなり珍しいですね。ムーブメントが電磁テンプ(機械式ムーブメントを電池で動かす)というシステムも凄いですが、〈HAMILTON〉と〈Tiffany & Co.〉のダブルネームというのはさらに珍しい。電磁テンプ式腕時計が生産されたのはごく短い期間ですからね。こちらの腕時計はどうされたんですか?

Y:僕はNYに17年住んでいました。当時、NYの裏千家というお茶の組織が、マーク・ロスコという抽象表現主義の有名な絵描きのアトリエだった場所を改装して数寄屋造りのお茶室を建てて活動してたんです。僕は日本美術の仕事をしてる事もあって裏千家の会員になっていたので、そこに出入りさせて頂いていたんです。ディレクターで茶人の山田先生という方がすごく可愛がってくれた。山田先生がまた痛快な人で、和服姿で『STUDIO54』でアンディー・ウォーホルと一緒に踊っちゃうような人だった。「お茶というのは自由じゃなきゃいけない」という考えがある人だったんですね。ある年、山田先生が亡くなり、かなり親しくさせて頂いたご縁もありお葬式の司会をやらせて頂いたんです。これはその時に形見分けで貰った腕時計なんです。

〈HAMILTON〉×〈Tiffany & Co.〉(電磁テンプ)
電磁テンプが壊れているが、たまに動きだしてびっくりすることも。
まるで生きているような気がするので直さずこの感じを楽しんでいると言う。

D:こちらの〈JAEGER LE COULTRE〉(ジャガー・ルクルト)の腕時計も素敵ですね。スライドして反転する腕時計が特に有名ですが、これはマニアックなミステリーダイヤルですね。

Y:実はこれも貰い物なんです(笑)。僕が新入社員の時に。当時、景気が良かった韓国のお客さんがオークションで李朝の高い壺を買ってくれたんです。普通は送るんですが、「早く家に置きたいから持って来てくれ」と言われた。しょうがないからビジネスクラスで壺用の席を予約し、壺を窓際に座らせて運ぶことに。シートベルトして席に座らせた一億数千万円の壺をずっと手で支えたまま、一睡もせずにNYからソウルまで持って行ったんですよ。そうしたらお客様が「よくやった」とこの腕時計をくれたんです。

〈JAEGER LE COULTRE〉ミステリーダイヤル。
プラスチックの円盤ごと回る。針が繋がっていないのに回って見えるミステリーダイヤル腕時計。機械式。

D:面白いなぁ。人生で飛行機で壺を運ぶことなんかないですもんね。超高級な腕時計ディーラーは輸送ではなく、飛行機でハンドキャリーすると聞いた事があります。こちらの腕時計はGEEK WATCH愛好家にはすっかりお馴染み感もある〈SEIKO〉の「V.F.A」ですね。

Y:美しいですよね。この腕時計の魅力はフロントのガラスのカットに尽きるかな。横から見るとガラスが傾斜している。日付と曜日の表記が漢字なのも気に入っています。

D:文字盤も秀逸ですね。70年代に、文字盤にこんな綺麗なグラデーションをかける技術力って凄いですよね。これは山口さんが、ワタリウム美術館で僕がやっているお店に最初にいらした時に購入して頂いた「V.F.A」ですよね。

〈SEIKO〉「V.F.A」1970年代初頭。
セイコーが誇る高級ライン「グランドセイコー」よりさらに高級なラインが存在した。その名も「V.F.A.」で「Very Fine Adjusted(特別調整品)」の略で当時の発売価格が94,000円! その特徴は、超高精度であること。精度検査も6姿勢で行われた。当時のGS検定では平均日差を-3~+5秒に設定していたが「V.F.A」ではなんと機械式腕時計では前例のない月差-1分~+1分を実現した。

Y:ワタリウム美術館は和多利さんも親しいのでしょっちゅう行くんですよ。あの時、本を探す用事がありうろうろしていたら不思議な小屋をみつけた。それがドナルドさんに初めてあった時ですね。本当に変わった人も居るもんだと思ったね(笑)。

D:山口さん迷わず即決でこれを買われましたもんね。

Y:これだと、スーツにも合わせやすいですからね。グランドセイコーより上の「V.F.A.」というラインがあったのを知らなかったから驚きましたね。一秒毎に光るLEDの遊び心も良いですね。あと、まだ「V.F.A.」をしているお客様にも一度も会った事がないのも嬉しいですね。

D:そして、最後の腕時計は僕にとっても思い出深いオリエントの「グランプリ100」ですね。

〈ORIENT〉「グランプリ100」。裏スケルトンカスタム。
ムーブメントの裏側に人工サファイアとルビーを100個散りばめた唯一無二の腕時計。山口さんのリクエストで裏側をスケルトンにカスタム。ヴィンテージのクリスタルカット風防の外周に、永遠のシンボルである尾を食う蛇ウロボロスを純銀であしらった。

Y:綺麗な石をどうしても見たいから、中を見れるようにリクエストしたんですよね。裏の透明ガラスがヴィンテージのクリスタルカットで、ウロボロスも素敵ですね。この時計をすると、いちいち腕時計を外して裏を見せたくなるんだよね。僕とほとんど同じ年齢なんで気に入っています。

D:今回は山口さんの様にスーツにGEEK WATCHを合わせたい人たちにはかなり参考になるお話を聞かせて頂き有り難うございました。また、無理難題な改造リクエストなどあったら、是非お店にいらして下さいませ(笑)。今日はどうもありがとうございました。

YouTubeのGEEK WATCH CHANNELではこちらでは紹介出来なかった山口さんの美術品発掘エピソードもご紹介しています。ぜひご覧ください。

ゲストプロフィール

山口桂

やまぐち・かつら | 1963年、東京都生まれ。立教大学出身。日本の日本美術専門家、オークションスペシャリスト。1992年にクリスティーズに入社し、日本・東洋美術のスペシャリストとして活動。日本古美術品としていまなお史上最高額である伝運慶の仏像のセール(2008)をはじめ、藤田美術館のコレクションセール(2017)、プライス・コレクションのプライベート・セール(2019)など、東洋美術部門の分野で多くの実績を残している。2018年よりクリスティーズジャパン代表取締役社長兼クリスティーズ・シニア・ヴァイス・プレジデント及び東洋美術部門インターナショナル・ディレクター。著書に『死ぬまでに知っておきたい日本美術』がある。

プロフィール

ドナルド魔苦怒奈流怒

久山宗成 a.k.a. Donald

くやま・むねあき | 改造活動家、企画編集者、GEEK WATCH偏愛家。ワタリウム美術館のミュージアムショップ地下中二階にて、2014年より改造見世物小屋『+R.I.P. STORE』を営む。様々なマテリアルや手法を組み合わせてジュエリー、腕時計、プロダクト、舞台美術などを制作している。趣味的に始めてどハマりしたGEEK WATCHのコレクションは今や700本以上。現在『GEEK WATCH PEDIA』なる本を編集中。 

Instagram
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