カルチャー
ハーモニー・コリン監督にインタビュー。
『ビーチ・バム まじめに不真面目』公開記念企画Vol.1
2021年4月9日
よっ、待ってました! と感嘆せざるをえないのは、来る4月30日、ハーモニー・コリンの監督最新作、『ビーチ・バム まじめに不真面目』がいよいよ公開されるから。太陽が燦々と降り注ぐフロリダ州マイアミ&キーウェストを舞台に、酒とハッパをこよなく愛する詩人ムーンドッグ(マシュー・マコノヒーのベストアクト!)のハチャメチャな流浪っぷりを描くこの最高にゴキゲンな1作について、ハーモニー監督にZOOMインタビューを決行したぞ。

——2019年に作られたそうですが、コロナで世界中にダウナーな空気が漂う今こそ、観るべき作品だと思いました。このゴキゲンさは、あなたがマイアミに住んでいるからこそ生まれたものなんですかね?
ハーモニー・コリン(以下、ハーモニー) それはあると思う。ただ、コロナ禍よりも前から、世の中にはネガティブなエネルギーがはびこっていたと思うんだよ。それに逆らうようなキャラクターを描きたいって思いのほうが強かったかもね。あらゆる出来事に、喜びとか、ポエムとか、ワイルドさとか……そういうものを見出だせるようなキャラクターをさ。
——それがムーンドッグってわけですね。ってことは、この作品のアイデアはムーンドッグというキャラクターから出発しているんですか?
ハーモニー まぁ、そうだね。この脚本を書き始める前後、キーズ(キーウェストのこと)っていうフロリダの南部によく遊びにいってたんだけど、ハウスボートに住んでいるおっさんたちの奇妙なコミュニティがそこにはあったんだ。まぁ、年がら年中バーに入り浸って飲んだくれたり、釣りをしたりしてるだけなんだけど、エネルギーがマジでヤバいし、めちゃくちゃ興味深いと思ってさ。もうすべて経験しちゃったから、社会生活からチェックアウトして、あとは海とか太陽とか眺めてダラダラすればいいんじゃね? みたいな。そういうハウスボートのカルチャーを描いたら面白いんじゃないかって思ったのが、この映画の出発点。そこには当然、ムーンドッグみたいなヤツもいてさ。ムーンドッグの外見は、いかにもキーズにいそうな感じにしているんだよ。
——キーウェストって言ったら、ヘミングウェイの終の棲家というくらいの知識しかないので、そんなことになっているとは知りませんでした。本作を作る上で、ヘミングウェイの影響はあったんですか?
ハーモニー あるかもね。そういや、ヘミングウェイの家で撮影したシーンもいくつかあったんだよ。映画に入れたかどうかは忘れちゃったけど。っていうか、ヘミングウェイ以外にも、キーズにはいろんな作家が住んでいたんだ。テネシー・ウィリアムスもそうだし、トーマス・マクギュエインもそうだし。キューバに近いってのもあるかもしれないけど、文学者っていうか、アウトローなよそ者が住む伝統が、キーズにはあったんだろうね。ドラッグも酒もいっぱいあるし。そういうことにインスパイアはされていると思う。
——よりダイレクトな文学的な影響としては、劇中でムーンドッグが自作として読む”THE BEAUTIFUL POEM”という詩が、実はリチャード・ブローティガンの同名詩の引用ですよね? 好きなんですか?
ハーモニー そう、あれは引用なんだよ。ちょっとだけ変えているけど。彼は晩年、カリフォルニアのボリナスで暮らしていたんだけど、そこは俺の生まれ故郷でもあるんだ。俺のママが若い頃は、彼の部屋を掃除したりしていたらしい。いずれにしても、ブローティガンは大好きだよ。ユーモアのセンスも最高だしね。

(右)映画公開に合わせてリリースされたムーンドッグの詩集。書いているのはハーモニー。
——ムーンドッグを演じたマシュー・マコノヒー以外にも、本作にはぶっ飛んだキャラクターが数多く登場しますね。個人的に好きだったのが、ムーンドッグがドラッグのリハビリ施設で出会うフリッカーです(演じているのは、ザック・エフロン)。神父の息子にして放火魔というハチャメチャな設定でしたが、彼はどのようにして造形したんですか?
ハーモニー 俺が十代の頃、テネシーのモールなんかをうろついていると、フリッカーみたいなおかしな神父の息子たちがよくたむろしていたんだよ。スニーカーショップの前とかで、マリファナを吸ったり、クリスチャン・ロックとかメタルを聴きたりなんかしてさ。その中には、実際に放火魔もいたんだ。俺の頭の中には、いつか実現したいアイデアのカタログみたいなものがあるんだけど、その中にあの連中みたいなキャラクターも入っていて、それを今回出したってわけだ。
——実在の人物がモチーフとは衝撃です……。フリッカーは漢字で「闘魂」と書かれたハチマキをしていましたけど、実際にあなたの目撃した人が、ああいうのをつけていたんですか?
ハーモニー いや、あれはスタイリストのハイディ・ビヴェンスと一緒にキャラクターのイメージを作っていく中で、「フリッカーには空手ショーツを履かせたいよね」「ハチマキもいいかもね」みたいな話をしながら決めていったんだと思う。どっちのアイデアかは、もう忘れちゃったけど。

(C)2019 BEACH BUM FILM HOLDINGS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
——ちなみに、あなたの前作『スプリング・ブレイカーズ』にはヴァネッサ・ハジェンスが出演しています。彼女はザックと『ハイスクール・ミュージカル』で共演していましたけど、もしかしてあなたはあの作品のファンなんですか?
ハーモニー いや、一度も観たことがない(笑)。完全な偶然だよ。
——僕は『ハイスクール・ミュージカル』ジェネレーションなので、もしかしたらと思ったんですけど、やっぱり違いましたか。ザックの他には、ムーンドッグの親友であるランジェリーをラッパーのスヌープ・ドッグが、楽しそうに演じていたのが印象的でした。彼の住む豪邸には、“NASA Command Center for Mary Jane(マリファナ司令本部)”なる、極上の大麻を吸うためだけのヤバい部屋が登場します。あの部屋も実在するどこかがモチーフだったり?
ハーモニー いや、あれは単なる思いつきだよ。面白いかなと思ってさ。

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——はい、爆笑しすぎて、僕は家のトイレの電球を紫色に変えました(笑)。スヌープ・ドッグに関して言うと、ミュージシャンのジミー・バフェットと船上で歌うシーンも感動的でした。現場で見ていていかがでしたか?
ハーモニー すげぇクールだったよ。あのシーンで2人がデュエットした歌はマジの即興なんだ。考えてみれば、2人はコインの裏というか、音楽的にも哲学的にも相性がいいと思う。どっちもアイコニックなストーナー(大麻愛好家)だしね。

——ジミー・バフェットをはじめ、本作にはヨットロックと呼ばれる音楽がサントラとして多用されています。このジャンルは2005年からネットテレビ局「チャンネル101」が配信スタートした短編コメディ番組「Yacht Rock」によって再評価の兆しがありますが、今回の選曲にそうしたムーブメントの影響はあったんですか?
ハーモニー いや、それはない。っていうか、そんなムーブメントがあったことも知らなかったよ。俺が子供の頃はさ、ラジオでヨットロックがいつもかかっていたんだ。いい感じに成熟していて、喜びにあふれていて、バケージョンに行ったような気分になれて、暗くなくて、ポップで、ファンタジックで、バイブスがナイスで……。まぁ、だから、かけたってわけだ。

www.channel101.com/episode/957
——さきほど、スヌープとジミー・バフェットはアイコニックなストーナーだと言っていましたが、ハリウッドにはそのスヌープをして「ジョイントを巻くのが世界一うまい」と言わしめたセス・ローゲンというストーナー俳優もいます。あなたの映画にぴったりだと思うんですが……。
ハーモニー ああ、セスね。ヤツの作品はいつも俺を笑わせてくれるから大好きだよ。特にこれってプロジェクトはないけど、ふさわしい役があったらぜひ出てほしいね。
——編集についても聞かせてください。本作には、ひとつの同じ会話シーンなのに、場所がバンバン変わるという、なかなかエクストリームな編集が随所に見られます。あれはどういう効果を狙ったんですか?
ハーモニー 俺はこの映画を観る人に、ラリっているときや、酔っ払っているときみたいな、リリカルな経験を味わってほしいと思っていたんだ。だから、同じシーンをいくつかの違うロケーションで撮って、それを音楽のように編集して、液体のようなナタティブを目指したんだ。色んな場所で同じことが起こっているのって、なんか酔っ払ったときの感覚に近いだろ?
——なるほど。もうひとつあなたらしい編集だなと思ったのは、ムーンドッグがホームレスの仲間を連れ立って、豪邸を破壊するシーンです。壮大な音楽がかかる中、スローモーションで描かれていました。一般的な映画で壮大な音楽とスローモーションが使われるのは、だいたい観客をエモい気分にさせるときだと思うんですが、あなたの作品ではまったく違う狙いがあるように思えました。
ハーモニー ああ、そうだな。ああいう音楽がかかる中で、バガボンドみたいな連中が家を壊しているのって、笑えるだろ? あとあのシーンは、オペラみたいなドラマティックなスコープにしたいっていう狙いはあったかな。

——同じようなスローモーションと音楽の使い方は、『スプリング・ブレイカーズ』にもありましたね。ブリトニー・スピアーズの「Everytime」が流れる中、主人公たちがハスリングするシーンです。なんで「Everytime」だったんですか?
ハーモニー ずっとあの曲が好きだったんだよ。美しいし、悲しいし、暴力的だし、ポップだし、キャッチーなフレーズもあるし……。あれも俺の頭の中のカタログに、いつか使いたい曲としてリストアップされていたんだよ。
——あの映画で聴いて以来、「Everytime」は僕のカラオケの十八番になっています。それはともかく、あなたの作品っていつも最後は感傷的な感じで終わっていたと思うんです。『スプリング・ブレイカーズ』みたいなアッパーな作品ですら、最後は切なかった。だけど、本作はずっとアッパーなまま。何か心境の変化とかがあったんですか?
ハーモニー それはひとえに愛すべきキャラクターであるムーンドッグの影響だよ。俺はキャラクターの生き様に沿って物語を作るのが好きなんだ。映画の中の現実を、俺ではなくキャラクター自身に作らせるっていうのかな。今の世の中、社会や企業が発信する「こう考えろ!」というメッセージに従って生きている人が多いだろ? だけど、ムーンドッグはそういうことには左右されず、自由によろしくやっている。社会生活からチェックアウトして、奇妙なものだったり、喜びだったり、ポエムだったりを、星だったり、ヤシの木だったり、海だったりに見出してさ。そういうキャラクターの生き様に沿って作ったら、こんな映画になったんだよ。

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ビーチ・バム まじめに不真面目
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