LIFESTYLE

Go with the 風呂〜 Vol.14/飯坂温泉

写真・文/大智由実子

2022.03.06(Sun)

photo & text: Yumiko Ohchi
background artwork: Fujimura Family
edit: Yu Kokubu

「熱湯コマーシャルじゃん…」これが、私が福島の飯坂温泉に初めて入った時のごく平凡な感想だった。(※熱湯コマーシャルを知らないヤングなシティボーイ諸君はググるかお父さんお母さんに聞いてみてね)

それは昨年の7月末、UFOふれあい館の取材のため福島に行った際に「せっかく福島に行くんだからもう一泊ゆっくりしていこう」と、福島駅から電車で30分ほどの飯坂温泉というところにある旅館「入舟」の予約を入れた。

UFOふれあい館での事の顛末についてはこちらを読んでもらうとして、取材を終えた翌日に福島駅からローカル線に乗って飯坂温泉へと向かった。飯坂温泉は、かつてあの松尾芭蕉も立ち寄ったとかゆう噂がささやかれている歴史ある古湯で、さらにはその湯温がかなり熱いことでも知られている。

福島駅と飯坂温泉をつなぐ飯坂電車、通称「いい電」は車内にのれんがかかっている。

入舟は、家族経営で心温まるおもてなしと、横浜中華街やホテルで修行を積んできたシェフである息子さんの絶品料理、そしてもちろん熱い温泉が評判の旅館だ。

チェックイン早々にさっそく汗を流そうとお風呂へ向かったが、先客がいたのですでに水でうめてあって、熱いっちゃ熱いけど、そんなに「罰ゲームかよ!」ってのたうち回るほどではなかった。とはいえ、お風呂から上がっても全身から吹き出る汗が全然止まらず、着ていた浴衣が速攻で絞れるほどにビチョンコになった。

入舟の女湯。幾度となく修繕を重ねた結果出来上がった床のタイルが美しく、アートの域に達している。

夕飯の際に食事を運んできてくれた女将さんに「いや〜、お水でうめてあったんですけどやっぱ熱いですね」と言ったら「そうでしょ?飯坂の温泉は腹が立つほど熱いんですよ」とおっしゃった。美味しい食事を頂き、デザートに福島の桃を持ってきて下さった息子さんとおしゃべりしていた時にも「憎たらしいほど熱い」とおっしゃっていたのが印象に残った。

「腹が立つほど熱い」「憎たらしいほど熱い」、、、穏やかな印象のお二人の口から出たその敵意むき出しの言葉に、この一家と飯坂のあつ湯の間にいったい何があったのだろうか?と心配したが、その理由はたぶん、シンプルに夏だったから。だってふつーにしてても暑苦しい夏にめっちゃ熱いお湯なんて、そら腹立つわ、憎たらしくもなるわ。と、独り合点して真冬の寒い時期にまた来よう、と思った。夏にはまるで宿敵のように憎まれ口たたいていたお二人も、きっと冬の寒い時期になれば手のひらを返してあつ湯に感謝しているのではなかろうか。

それから半年以上経ち、見事に寒い冬となった。福島の辺りは雪も結構積もっているようだ。今こそ飯坂温泉のあつ湯が本領発揮しているはず!と、再び入舟の予約を入れた。2月上旬、福島から飯坂温泉へと向かう際には粉雪がチラついており、駅前周辺には雪かきのあとが残っていた。いいぞいいぞ。私のこの冷え切った手足に、熱々の温泉カモン!

チェックイン早々、いそいそとお風呂へ。さてと、冬の飯坂温泉のお手並拝見させてもらいましょうかね。今度は先客無し、生まれたてのピュアな温泉をいただきます。身体を洗って何度もかけ湯をして慣らしてから、ダチョウ倶楽部の上島竜兵のごとく「押すなよ!絶対に押すなよ!」と小さくつぶやきながらそぉーっと入る。

…いけた。ゆっくりゆ〜っくりと、身体の周りにできる薄い体温の羽衣を破らないように細心の注意を払いながら、なんとか肩まで入れた。そこからジィっと地蔵のように動かず固まっていると、全身をピリピリと火花のようなものが走り回っているのがわかる。

あれ?なに…?これ…けっこう気持ちイイぞ??

一旦湯船から出て、椅子に座って小休憩。水風呂は無いけれど、サウナから冷たい水風呂に入った後のように全身がジンジンしている。それを3回ほど繰り返していたら、脳みそから何らかの快楽物質が放出されていることに気づいた。

人間の脳というのは恐ろしいもので、一度刺激と快楽が結びついてしまったが最後、もっともっと!とより強い刺激を求めてさまようゾンビのようになってしまうのだ。翌日、あつ湯ゾンビと化した私はより熱い温泉を求めて飯坂の街をさまよった。

飯坂には地元の方々が利用する9つの共同浴場があり、どこも200〜300円とリーズナブル。観光案内所でもらった湯めぐりマップには、ご丁寧にそれぞれの浴場の熱さが星の数で表されている。あつ湯ゾンビは迷わず48℃以上の星5つMAXの中から天王寺・穴原湯を目指すことに。ここは女将さんもめちゃ熱いと言っていたから間違いない。一番街の外れにある天王寺・穴原湯に着いて、200円を支払い上がったところに本日の浴槽温度が書かれていた。それによると、どうやら女湯は52.6℃らしい。ふーん、熱いじゃん。

…ジュルリ。

着いたのがちょうどお昼前だったからか、浴室にはご高齢のお姉さまが一人のみ。

身体を清めてかけ湯をすると、もうかけ湯だけでも火傷レベルで熱い。シャワーが無いから浴槽から桶でお湯を汲んでかけるしかない。入舟のお風呂(女将さんいわく45〜46℃)に肩まで入っただけでイキってたゾンビもここではまるでカツアゲにあった中学生のように縮みあがってしまった。かけ湯をしながら小さな悲鳴を発していた私に気付いたお姉さまが「そこの蛇口全開にしてお水でうめれば入れるわよ」とアドバイスをくれた。

「ありがとうございます、それでは失礼して…」と目の前の小さな蛇口を全開にして水でうめさせてもらった。「その蛇口の下なら入れるわよ」と言われ、その通りにしてみたら、なんとか肩まで入れた。「わー!ほんとだ!入れました!!」と喜ぶ私を尻目に、源泉の出ている蛇口近く、すなわち52.6℃の湯口のところにざぶんと入るお姉さま。かっけー。

全開の水の蛇口付近のセーフティーゾーンから抜け出せない私はまだまだヒヨッコだ。粋な姉御に感化され、「今度はぜってーに水でうめないで入ってやる!」と息巻いて次に向かった共同浴場は、飯坂で最も歴史のある鯖湖湯(さばこゆ)。ここはマップによると星4つで46〜47℃。ここなら入舟のお風呂と同じくらいだ。水でうめずに入れるかも。

鯖湖湯は明治時代に建てられた日本最古の木造の共同浴場をそのまま再現した造りで、開放感と歴史を感じさせる美しさがある。

かの有名な松尾芭蕉もこの鯖湖湯に入ったんだとか。

こちらも先客にお姉さまがひとり、せっせと身体を洗っていた。天王寺・穴原湯と同様にシャワーもカランも無いので、私は湯船のお湯でかけ湯をした。…が、やっぱ熱いぞ!そぉ〜っと入ろうとするも、膝下くらいでギブアップ。水の蛇口は湯船から遠く、わざわざホースを使わないと水でうめることはできない。一見さんの私が地元の方の許可無しにそんな大それたことをしていいのか…と、お風呂の縁でオドオドと上島竜兵のようになっている私に気付いたお姉さまが「こうやって上と下をかき混ぜたら入れるわよ!」と自らザブンと湯船に入り、豪快に桶で全体をかき混ぜてくれた。またもやかっこいい姉御のヘルプにより、なんとか肩まで入ることができた。

飯坂温泉のあまりの熱さに、いつの間にか途中から「肩まで入る」ということが目指すゴールにすり替わってしまったけど、共同浴場を回ってそこで触れられたのは、地元の粋なお姉さま方の優しさと何気ない会話の楽しさだった。

この旅を経て、なんだかひとつウエノ女になれたような気がした。

インフォメーション

飯坂温泉

◯福島県福島市飯坂町十綱町3番地 ☎️024・542・4241

Official Website
https://iizaka.com/

プロフィール

大智由実子

おおうち・ゆみこ|2012年よりMARGINAL PRESS名義で洋書のディストリビューションを行ってきたが2017年に活動休止し、世界中の様々なサウナを旅する。サウナライターとして花椿webにて『世界サウナ紀行』を執筆する他、サウナ施設の広報も務めるなど、サウナまみれの日々を送る。のちにサウナのみならず銭湯や温泉などお風呂カルチャー全般に視点が広がり、個性強めなお風呂を探究して現在に至る。そしてついに4年の沈黙を破りMARGINAL PRESSとしての活動を再開。一発目は本連載にてアートディレクションを手掛けるFujimura Familyの写真集『PROOF OF LIVING』を出版する。

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