カルチャー
二十歳のとき、何をしていたか?/関 暁夫
2022年1月10日
photo: Takeshi Abe
text: Neo Iida
2022年2月 898号初出
ひねくれていた自分を、友人や先輩が引っ張り上げてくれた。
思いがけず掴んだ、都市伝説という武器。
杉並区の不良少年が、島の寮生活で海の男に。
この冬もまた『やりすぎ都市伝説』が放送された。パネラー陣が嘘か本当か定かではない都市伝説を語る、テレビ東京の人気番組である。放送開始時、フリーメイソンの話や千円札の謎で「都市伝説」というジャンルを再燃させた第一人者が、レギュラーの〝Mr.都市伝説〟こと関暁夫さんだ。しかし関さんは「都市伝説だと思って話したことは一度もないんです」と言う。その真意とは? 話は10代に遡る。
「中学生の頃は不良になるかストリートに行くか、駆け引きが試された時代でした。東京スタイルというか、冷めているのに主張はしたい、ひねくれてましたね」
関さんは東京の杉並区で育った。中学時代を過ごした’90年代初頭は、非行の形がヤンキーからチーマーへと移り変わる過渡期。ご多分に漏れずヤンチャだった関さんは、進学を機に伊豆大島にある全寮制の海洋高校に入ることになった。
「手を付けられない子の最後の砦で、東京中のワルが島流しみたいに集まっていて(笑)。同じ不良だし、と気楽に先輩に接したら、『男はそうじゃないだろ!』とビシッと怒られてしまった。上級生はすっかり海の男になってたんです。結局、学校で海の教えを叩き込まれるんですよ。船上ではひとりのミスが事故に繋がるから、連帯責任や自己責任とは何かを徹底的に考えさせられる。ひねくれてた俺も、3年間で180度人間性が変わりました。最初の転機ですね」
卒業後の進路はマグロ漁船か海上自衛隊の二択。電車通学にも憧れたし、いずれ実家の寿司屋を継ぐ気持ちもあった関さんは、地元に戻って調理師専門学校に入学した。そこで相方の千葉公平(旧芸名・金成公信)さんと出会う。
「お笑いが好きだったし、意気投合して『吉本行くか!』って。でも海外のおもちゃのバイヤーにも興味があったから、卒業して1年間、単身渡米したんです。ツテもないし英語も喋れないけど、とりあえずシアトルを攻めて、見よう見真似でコミュニケーションをとって。LAでスター・ウォーズの関係者と繋がってグッズを大量にもらったりしてました」
すごい行動力! でも、帰国すると自宅に引きこもってしまったという。
「根っこにはまだ卑屈な自分がいて、表に出られなかったんです。成人式にも行かないって思ってたけど、中学の同級生の森ちゃん(スケーターの森田貴宏さん)が『暁ちゃんさ、引っ込んでないで外出ろよ』って無理やり式に連れ出してくれて。昔の友達と久しぶりに会って、何かが変わった。人前に出ることを面白く感じたんでしょうね。成人式に出なかったら、芸人になってなかったと思います」
AT THE AGE OF 20
二十歳で2度目の転機を迎えた関さん。集めたおもちゃで商売を始めるか! と腰を上げた瞬間、相方が上京。「吉本に行く話は?」「お、覚えてるよ」と、21歳で吉本興業の門を叩いた。こうしてバイヤーを諦めた関さんは、晴れてNSC東京の2期生になる。1期生に品川庄司、後輩にあたる3期生にトータルテンボス、4期生にインパルスや森三中と、実力派が揃った東京吉本の黎明期だ。卒業後はハローバイバイを結成し、銀座7丁目劇場に出演。極楽とんぼ、ココリコ、ロンドンブーツ1号2号といったそうそうたる先輩に続き、テレビ出演の機会も得た。ただ、レギュラー番組はあれど、心の内では「鳴かず飛ばずだった」という。
「当時はみんな、30歳手前になると芸人を続けるか辞めるか悩んでたんです。今は30代、40代の芸人はたくさんいるけど、2000年代初めは芸人ブーム前で全くいなかった。つまり成功例がない。履歴書に〝29歳〟と書くのと〝30歳〟って書くのとでは全然違うし、就職するなら早いほうがいい。徐々に追い詰められました」
舞台監督さんが拾い上げた、あの決め台詞。
28歳で個々の活動をスタート。そこで関さんが企画したのが、昔から好きな超能力や予知などの話を披露するオカルトトークライブだった。芸人が知識や情報を話すことは、当時は珍しかったという。
「でも俺は恐怖も不可思議な現象も、〝楽しむ〟という点では同じエンターテインメントだと思っていたんです。『このロゴをひっくり返すとこうなってるんだよ』みたいに、物事が違う視点から見えた瞬間の驚きとワクワクが好きだったから」
その嗜好は、実家の寿司屋に来ていた常連さんの影響によるものらしい。
「親父はもともと銀座や各地の花街に呼ばれる腕のいい寿司職人で、店には大学の研究者とか芸能関係の方とか、幅広い層のお客さんが来ていたんです。店で宿題をしてると『学校ではこう教えてるけど本当はこういうしくみなんだぞ』って、物事を違う角度から見る方法を教えてくれた。実際に大人になって社会が見え始めると、まるで答え合わせをしているようで。ああ、嘘じゃなかったんだ、って」
手探りで始めたライブは口コミで広まり、客層も女子高生からマニアックな男性へと変遷。同じ頃、劇場の楽屋でオカルト話をしていると「お前、オモロイな」と千原ジュニアさんの目に留まった。その強い推薦を受け、2015年8月6日の『やりすぎコージー』の「芸人都市伝説」企画に出演することに。関さんが「徳川埋蔵金のありか」というトークテーマを掲げるとMCの東野幸治さんと今田耕司さんは「風呂敷を広げ過ぎでは?」と怪訝な顔をした。しかし「埋蔵金の暗号は童謡『かごめかごめ』の歌詞にある」と話したあたりでスタジオの空気が一変。客席からは悲鳴や感嘆の声があがり、視聴者に強烈なインパクトを残した。この回で〝芸人都市伝説キング〟に選ばれた関さんは、企画ごとに連続登板。〝Mr.都市伝説〟の名を授けられた。ここで冒頭の「都市伝説だと思って話したことは一度もない」の背景が明らかになる。
「〝都市伝説〟はあくまで後付けで、俺は自分の中にあった話をしているだけなんです。でもジュニアさんが引っ張ってくれなければこうはならなかったし、本当に周りの人のおかげだと思ってます」
決め台詞「信じるか信じないかはあなた次第です」にも、こんな経緯がある。
「舞台監督さんがライブで流すVTRに大きくテロップが入っていて、『何ですか?』って聞いたら、『関さんよく言ってるじゃないですか』って。全く意識してなかったけど、舞台監督さんが気づかせてくれた。そういえば、よく当時の東京支社長の横澤彪さん(『笑っていいとも!』や『オレたちひょうきん族』を手掛けた元フジテレビのプロデューサー)に、『お前はいつも最後に要らない一言を言う。そこに代わる言葉が作れたらいいのにな』って言われてたんですよ。つまり『必殺技を持て』ということですよね。それが20代の終わりにようやく見つかったんです」
高校も、成人式も、都市伝説も、誰かに引っ張り出されて、思いもよらぬ方向へ人生が転がった。関さんは振り返る。
「想像の範囲で動いていたら、きっと何も生まれなかった。想定外を楽しむことですね。今は僕のインタビューを読んでるけど、ページをめくれば未知なる出合いがある。その一瞬で、すべてが変わることがあるんですから」
プロフィール
関 暁夫
せき・あきお︱1975年、東京都生まれ。1996年にハローバイバイを結成。ピンで披露した都市伝説でブレイク。自由が丘で『セキルバーグカフェ』を営む。昨年10月、愛媛県立今治西高等学校伯方分校で「放課後情熱学園」の特別講師に就任。県外からも生徒募集中。
取材メモ
思い出話中も真実のキワを鋭く突く関さん。「スマホはもともと軍事品で、思想コントロールもできるツール。SNSも便利だけど芸能人のように注目、監視されるストレスもある。自由なぶん、個が責任を負う時代。『信じるか信じないかはあなた次第です』も、赤塚不二夫さんの『これでいいのだ』や武論尊さんの『我が生涯に一片の悔い無し』と同じで、『あなたが思うならそうですよ』という究極の自己責任。海洋高校の教えが生きてるんです」
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