カルチャー
二十歳のとき、何をしていたか?/河村康輔
2021年11月9日
photo: Takeshi Abe
text: Keisuke Kagiwada
2021年12月 896号初出
さまざまな人との出会いに導かれて歩み始めた
コラージュアーティストの道。
コラージュへの目覚めはPower MacのG3。
キレッキレ! 河村康輔さんのコラージュ作品ほど、この言葉がふさわしい表現もない。実際、シュレッダーによって解体された図像を、自らの手でまるでバグが起きたテレビ画面のように再構築したその作品を見たら、誰もが驚嘆とともにその言葉をつぶやかざるを得ないはずだ。そんな河村さんがコラージュ道を歩み始めたのは20代の頃。大きなきっかけとなったのは、二十歳になる年に地元広島から上京したことだそう。
「高校のときから夜行バスでハードコアのライブとかを見に上京してはいたんですよ。地元は田舎だったから夜9時には最終バスが出るんですけど、あるとき、帰りにバスの窓から新宿西口のヨドバシカメラのネオンサインが見えて、思ったんです。『ああ絶対東京に来よう』って」
しかし、両親は学校に行かない限り上京資金は出してくれないという。そこで河村さんが思いついたのが、デザイン学校に行くというアイデアだった。
「高校時代は裏原全盛期で雑誌を開けばスケシンさんや〈バウンティ・ハンター〉のヒカルさんが出ていて、ほとんど遊んでいるようにしか見えないのに雑誌に載れてすげぇなぁと(笑)。で、プロフィールを見ると〝デザイナー〟って書いてあるわけですよ。だから、進路指導でも当時はデザイナーが何かも知らないくせに『デザイナーになりたい』って言って、代々木にあるデザイン学校に行くことになったんです。結局、学校には2回しか行きませんでしたけど(笑)」
そんなある日のこと。河村さんは人生を変える出合いを果たすことになる。
「友達の家に行ったら、蛍光色のPower MacのG3が置いてあったんですよ。初めて見るフォトショップとイラストレーターの機能をひと通り見せてもらいながら、めっちゃ感動したのを覚えています。丸とか四角を描いてもらっただけなんですけど(笑)。それで『もしかしてこのフォトショップってやつは、写真の合成とかできるの?』って聞いたら、『できるよ』って、ラフだけど2枚の写真を合成してくれて。パンクとかハードコアが好きで、コラージュにはずっと興味があったんで、『あ、俺がやりたいのはこれだ』と。それですぐに学費としてじいちゃんにもらったお金を握りしめて秋葉原にMacを買いに行ったんです。その日から、バイトの時間以外はひたすら写真を切り倒してコラージュを作っていましたね」
AT THE AGE OF 20
今でこそアナログな手法の印象が強い河村さんだけど、当初はデジタル派だったのか! しかし、作ったはいいが発表の機会もなければ、仕事につなげる方法もわからない。そこであるイベントに作品を紙に出力して持っていくことにした河村さん。目的はDJとして出演する宇川直宏さんとEYヨさんに見せることだったが……。
「結局、2人は忙しそうで渡せなくて。帰ろうかなってとき、出口に雑誌で見たことがある人がベロベロに酔って立っていたんです。それが当時〈ヴァンダライズ〉をやっていた一之瀬弘法さん。〈ヴァンダライズ〉もトガってて大好きだったから、勇気を出して『こういうの作っているんで見てくれませんか?』って声をかけたんです。そしたら『面白いね』って言ってくれたんだけど、ステッカーだと思ったらしくて、ずっと爪でカリカリしているんですよ(笑)。で、『ステッカー作りなよ。できたら事務所に遊び来て』って言ってくれて、舞い上がってすぐにステッカーにして原宿にあった事務所に持っていきました。それからは暇さえあれば事務所に入り浸ってましたね」
念願のデザイナーデビュー。でも、お金はなくて……。
この縁がきっかけとなり、〈ヴァンダライズ〉のTシャツをデザインするという機会を得た河村さん。てっきりデザイナーデビューかと思いきや、ほぼ同時期に別文脈でも仕事が動きだしていたそう。
「当時よく遊んでいた友達が吉祥寺の今はなきバウスシアターって映画館で働いていて。その大学の先輩が映画配給会社に勤めていて、『トラッシュマウンテンビデオ』っていうホラー専門レーベルを立ち上げたんですけど、ソフトで販売する前にバウスで上映会をすることになって。俺もユーロトラッシュとかスプラッターが好きだったから、紹介してもらってチラシを作ることになったんです。その後、ソフト化されるときもジャケをやらせてもらって、それが商業デビュー。22歳のときかな」
しかし、商業デビューを果たしたとはいえ、まだそれ一本で食べてはいけない。深夜のネットカフェでバイトはしていたが、まったくお金がない日々が続いた。そんな河村さんを支えてくれたのが、当時付き合っていた彼女だったという。
「年上だったんだけど、一銭にもならないのに俺がいろいろ作品を作っているのを見て、『だったらバイト辞めなよ! 1年くらいだったら食わせるよ』って言ってくれて。そっから細かいデザインの仕事をいろいろやるようになったんです。ギャラリーデビューも同じ彼女がきっかけなんですよ。24くらいの頃かな、彼女の知り合いに、『今度グループ展をやるから参加しない?』って誘われたんです。それが今は〈Black Weirdos〉のデザイナーをしているマグドロン。『ただ、展示だから紙に出力じゃなくて一点ものにしてね』と言われて、当時はフォトショしか使えなかったから、作品データをシルクスクリーンにして、その版を売りました。そのオープニングでギャラリーの人とかと出会って。定期的に展示をやるようになったのはその頃からかな」
こうなると気になってくるのが、いつデジタルからアナログに移行したのかということだが、河村さんも「割と遅いよ」と言うように、20代後半になるまで待たねばならないらしい。
「きっかけはコラージュアーティストのウィンストン・スミスです。高校時代から憧れていた、俺のコラージュの師匠ですね。サンフランシスコで知り合いづてに彼に会う機会があって、作品を出力して持っていったら『いいじゃん。コラボレーションしたいね』って言ってくれたんですよ。それでもう一度サンフランシスコに行ったときに具体的にやることが決まったんだけど、日本に帰っても全然データが届かなくて、『口だけか……』と諦めた頃に、段ボールで届いたのが雑誌の切り抜きをはじめとする素材の山。そこで『ウィンストンってアナログだったの!?』って知ったんですよ。考えてみれば、’70年代からずっとやっているから当たり前なんですけど。それで初めてカッターとノリでコラージュを始めたら、めっちゃ楽しいし、むしろフォトショより楽だった(笑)。だから、アナログになったのはウィンストンのおかげなんです」
それにしても河村さんの〝出会い運〟の強さには驚かされる。今のキレッキレさは、この出会いから得たものを吸収し、打ち返す柔軟性の賜物なのかもしれない。
プロフィール
河村康輔
かわむら・こうすけ|1979年、広島県生まれ。代表的な仕事に、『大友克洋GENGA展』メインビジュアル、『AKIRA ART OF WALL』、作品集に『2ND』『MIX-UP』。ウィンストン・スミスとのコラボは『22Idols』で見られる。
取材メモ
まだスタートして間もないmixiに「ムチムチアナゴ」なる名前で登録した河村さんが、謎の人物から「名前めっちゃヤバイっすね!」というメッセージとともにマイミク申請を受けたのは25歳の頃。以来、メッセージ機能を通して、ハードコアやパンクの話に花を咲かせていたそうだが、後年その人物が憧れていた宇川直宏さんであることが判明。以後、親交を深めることになるが、今は宇川さんからは略して「ムチアナ」と呼ばれているそう。
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