TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#3】私という出版者のつくり方

執筆: 石躍凌摩

2026年10月25日

植物図鑑『微花』は、雑草雑草とけなしつけられて見向きもされないありふれた草花たちを、ひとつひとつ名ざしていき、写真に撮って本にまとめたもので、『パパ・ユーア クレイジー』においてピートが沢山のことを観察するなかで、世界の中の小さな物たちがその見かけより遥かに多くのものを持っていることを発見していったように、作者である私も西田もまた、植物を見つめることで、実に多くのことを発見していきました。

左:微花 右:パパ・ユーア クレイジー

その、微花の目次を見ていただきたいのですが、『パパ・ユーア クレイジー』と同じデザインになっています。『パパ』は内容もさることながら、デザインも非常に素晴らしく、これしかないと思って拝借させてもらったのですが、拝借させてもらうからには、『微花』の裏テーマは『パパ』の復刊だ、と方々で、半分冗談、半分本気で言い続けてきました。半分本気といっても、自ら復刊するというよりは──それは私たちのような素人にできることではないと思っていたので──微花が世間に届いていくなかで、制作の二人がパパパパ言っていることが回りまわって、いつか出版業界で復刊の機運が高まりはしないか、と思っていたに過ぎず、十年足掻いてみましたが、復刊に名乗りをあげる者はついに現れませんでした。

その十年の間に、『微花』の制作を通して植物に目ざめていった西田──制作当初は金木犀さえ知らなかった西田──が、創刊から二年もしないうちに庭師をやってみたいと言うようになり、間もなく脱サラして造園会社に就職。その背中を見つつも、庭の何がいいのだろう、と首をかしげていた私も、気付くと後を追うように西田と同じ造園会社に就職。そこで一年修行した後、庭師として独立しました。

独立して間もないある日のこと。『微花』の制作を通じて知り合った創元社で編集者をされているNさんから、「もしよかったら、庭について文章を書いてみませんか」とお声がけいただき、訊くとWebの連載で、書き終えて企画が通れば出版されるという試みでした。ちょうど私の友人がNさんとタッグを組んで本を出していたこともあり、ついに自分も商業出版デビューか、と俄然やる気で、即快諾しました。

ところが、件の庭の連載の半分を書き終えた頃、Nさんがめでたくお子さんを授かることになり、道半ばで申し訳ないのですが、今後どうされたいですか、とNさんに訊かれて、庭の本を出版したい気持ちは連載が進むにつれ確たるものになっていたものの、Nさんとのご縁で始まったことだからと思い、著作権はどうなっていますか、と問い返すと、石躍さんの自由です、と。ならばもう、書き終えた暁には自分で出そう、自分で出版社をやろう、とそう思いました。

それから出版社関連の本をいくつか読んでいったのですが、その中に、夏葉社の島田さんが書かれた『あしたから出版社』がありました。二十代初めに単行本で読んだことがあり、そのときも面白く読んだ記憶があったので、文庫本を本屋で見つけたとき、もう一度読んでみようと思ったのです。そうして、夏葉社の第一冊目を刊行するいきさつに差し掛かったとき──

ぼくは、近所のローソンでバイトをする気持ちで、「レンブラントの帽子』の復刊に取り組むことを決めた。
まず、翻訳者の小島信夫、浜本武雄、両先生のご遺族と、井上謙治先生の住所を調べて、手書きの拙い字で、「大好きな作品で、復刊をしたいのです」と手紙を送った。
返事は二週間ほどで届いた──『レンブラントの帽子』は、三五年前に、三人の先生が一緒になって翻訳した友情の証しのような作品であるから、復刊されるのはとてもうれしい、旧版元の集英社がいいというのであれば復刊して問題ない。
ぼくの手元に届いた三つの返事を要約すると、おおよそ、そういった内容のことが書いてあった。
次に、インターネットで検索して、海外の作家との交渉を取り次ぐエージェンシーに、マラマッドの作品を復刊したいのですが、とメールを送った。
これも返事は早かった。 転送されてきたマラマッドのご遺族からのメールには、「とてもよさそうですね。進めてください」と、簡潔にそう記してあった。
あとは、集英社だけだった。
勢いづいたぼくは、すぐに手紙を出し、電話をかけ、担当者から了解をとった。

『あしたから出版社』p96〜p97

初読のときにはなぜか素通りしていたこの文章に、私は釘付けになりました。まさか『パパ・ユーア クレイジー』同様、作者も訳者もすでに故人となっている海外文学の復刊を、私と同様に当時は何の実績もなかった島田さんが夏葉社の第一冊目として手がけていたとは──読んでしまったからにはもう、自分がやるしかありません。庭の本より先に、私の最も好きな本である『パパ・ユーア クレイジー』を復刊しよう。出版版元の名前は、「微花」でいこう。

そう決めて、『あしたから出版社』に書かれてあった手順をひとつひとつ踏んで行きました。

プロフィール

石躍凌摩

いしやく・りょうま|1993年、大阪府生まれ。福岡県在住。庭師。2015年、西田有輝と共に植物図鑑『微花』を創刊。以後、2019年までに同名の図鑑を四季七冊刊行。2026年8月、長らく絶版となっていた小説『パパ・ユーア クレイジー』を復刊するため、植物図鑑『微花』あらため、版元「微花」として再始動。

Instagram
個人 https://www.instagram.com/ryomaishiyaku/
微花 https://www.instagram.com/kasuka_mag/