カルチャー

美術館、政治、身体

Catching Art: 身体でアートを感じるために #15

2026年10月13日

Catching Art


text & photo: Daniel Abbe
edit: Masaru Tatsuki

前回、米津知子の『モナ・リザ』に対する抗議について書きました。1974年に行われたアクションなので、やや「遠い歴史」のように感じられますか?現代日本では「美術」と「政治」と「身体」はまだ交わっていると思いますか?

私が答えるならば、はいです。まだまだそれらは関係しています。それを示すために、2024年の美術館での抗議を紹介したいです。舞台は米津知子と同じく、東京の上野公園にある国立美術館。米津が抗議した『東京国立博物館』から数百メートルしか離れていない、『国立西洋美術館』です。

2024年の3月「ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?」という展覧会が開催されました。この展覧会のテーマとして、1959年に設立された国立西洋美術館のコレクションと現代のアーティストを対話させていました。フランスの印象派絵画などをたくさん持っている美術館と現在に生きる作家の組み合わせ、なかなか面白いですね。

写真:金川晋吾

オープニングの日に(これもまた米津の抗議と呼応しているのですが)参加している作家自身がその場に介入して、スピーチと共に「Ceasefire Now(今すぐ停戦)」や「川崎重工虐殺に加担するな」というバナーを見せた。そして二人の作家(正確に言うと、一人は展覧会に出品していました)が赤い絵の具に塗れた白い服を着て、美術館の中でパフォーマンスを行いました。

さて、これは何に対する抗議でしょうか?簡潔に言いますと、パレスチナに関する抗議だったのです。

でも、どうして『国立西洋美術館』でパレスチナの抗議をするのでしょうか?

この抗議の説明をする前に、少しでも私自身のパレスチナに関する個人的な思いを述べたいです。私はアメリカ人なのですが、ウクライナやベラルーシにルーツがあるユダヤ系アメリカ人でもあります。熱心なユダヤ教徒ではないですが、ユダヤの文化と共に育ったので、第2次世界大戦中のナチスによるユダヤ人大虐殺を含めて、ユダヤ人が長い間受けた差別や圧迫の歴史を学んできました。だから自然とイスラエルは守らなければならないと考えていました。

しかし、時間が経つにつれて、その考え方は変わり始めました。いかにパレスチナ人が暴力を受けたか、生活ができないかを知るにつれて、以前のように考えられなくなりました。皮肉で悔しいことですが、過去に大虐殺を受けた被害者が次は加害者になっているのではないかと考えざるをえなかったです。ユダヤ人の間には、ナチスによる大虐殺(ジェノサイド)に対して「Never again(絶対に、再び起こらない)」という合言葉があります。残念ながら、今のパレスチナで、「再び」ジェノサイドが起こっています。ユダヤ人の代表ではないですが、これは絶対に許せないと心から信じるユダヤ人は私以外にもたくさんいます。

写真:金川晋吾

じゃあ、本題に戻りましょう。そもそも国立西洋美術館とパレスチナはどのように繋がっているのでしょうか?

答えは、国立西洋美術館と2023年から「初のオフィシャル・パートナー」になった川崎重工の関係にあります。その川崎重工はイスラエル製の攻撃用ドローンを防衛省の輸入代理店になる方針を掲げていました。そのドローン自体がパレスチナ人を殺しているので、イスラエルのメーカーにお金を渡すと大虐殺の加担になります。だから、「美術館はそういった会社と絡んでいいのか」「大虐殺を正当化するな」という抗議だったと私は解釈しています。ちなみに、さらに歴史を遡りますと、国立西洋美術館自体は川崎造船所(現・川崎重工)の初代社長・松方幸次郎のコレクションの公開を目的に設立されました。つまり、この問題の構造はもっと深いです。

抗議のメッセージは伝わったでしょうか?

メッセージを理解することはもちろん大事だと思います。それでも、この抗議の内容を超える「何か」があると私は感じています。それは、身体の重要さです。

写真:金川晋吾

二人の作家によるパフォーマンスをもう一度見てみましょう。ここで、身体自体で抗議をしました。この会場にスピーチやバナーといった抗議の言葉もあったのですが、やはり身体による表現になりますと言葉を超えるのではないかという気がします。以前、美術館で作品を観る人は「無意識で身体が反応している」と書きました。でも、このパフォーマンスだと、かなり意識的に身体を動かしていますね。観る側でも、行動する側でも、美術館は単なる「箱」ではなく、身体的な空間だと指摘したいです。ある身体によって、美術館も政治的なスペースになりうると思います。

この3ヶ月間、相当政治の話をしました。アメリカの移民関税執行局、日本における障害者の権利、パレスチナ……。これからも、美術と身体の枠組みから生まれる様々なことについて考えたいと思います。

プロフィール

ダニエル・アビー

1984年生まれ。アメリカ合衆国カリフォルニア州出身。美術史博士(UCLA)。2009年から日本の美術や写真にまつわる執筆・編集・翻訳に携わる。現在、大阪芸術大学 芸術学部 文芸学科の非常勤講師として美術史・写真史を教えている。
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