カルチャー

シム・ウンギョンは『プレイタイム』で魔法のような映画体験をした。

今日はこんな映画を観ようかな。vol.7

2026年2月4日

illustration: Dean Aizawa
text: Keisuke Kagiwada

毎週、1人のゲストがオリジナリティ溢れる視点を通して、好きな映画について語り明かす連載企画「今日はこんな映画を観ようかな。」。(2年ぶりの復活!)今回のゲストは、三宅唱監督の『旅と日々』の演技が記憶に新しい俳優のシム・ウンギョンさん。紹介してくれたのは、フランスの喜劇俳優ジャック・タチが監督&主演を務めた『プレイタイム』だ。


今日の映画
『プレイタイム』(ジャック・タチ監督、1967年)

PlayTime de Jacques Tati (1967) © Les Films de Mon Oncle – Specta Films CEPEC

舞台はモダン建築がひしめくパリ。就職活動中のユロ氏とアメリカ人観光客の女性の出会いとすれ違いをユーモラスに描いたコメディ作品。


 初めて観たのは確か2年前。当時、私は4つの短篇からなる韓国のオムニバス映画『ザ・キラーズ』に出演する準備をしていて、最後のエピソードがサイレント映画やジャック・タチに影響を受けた、「無声映画」という作品だったんです。それで参考になるかなと思って観てみたんですが、とにかく面白くてびっくりしました。

 特に印象に残ったのは、主人公のユロ氏を演じるタチの独特なお芝居。サイレント映画時代の喜劇俳優、チャップリンやバスター・キートンは、台詞や音がない中、動きでキャラクターの状況や感情を説明しなきゃいけません。『プレイタイム』はサイレントではないですが、ユロ氏もほとんど喋らないんです。ただ、チャップリンやキートンともまた違う特有の動きがあって、何と言えばいいのか、柔らかくて流麗でキレキレ。ユロ氏はよく戸惑っちゃう動きをするのですが、そこは自分なりに研究して「無声映画」のお芝居でちょっとだけ参考にしました。

 だけど、この映画ではタチだけが目立っているというわけでもないところが素晴らしい。ロングショットの画面が多いのですが、タチの後ろや周りでは、エキストラも含めて常に他の人々のドラマが起こっていて、キャラクターが映画の一部のように演出されているんです。どうやったらこんなことができるのかと思います。きっと何度もリハーサルをしているんでしょうけど、もう本当に魔法のよう。だから、ストーリーはあるんですが、それをフォローしていくというより、映画自体を体験しているという感覚が強くて、新たな映画の文法を作った作品なんじゃないかと思いました。

 観終わってからリサーチしてみて分かったのですが、タチはこの映画のためにものすごいお金をかけて、”タチ・ヴィル”というひとつの街みたいな壮大なセットを作ってしまったそうです。それもすごいですよね。1967年の公開当時はあまり評価されなかったようですが、一部のファンが素晴らしいと思って、それが広がって、今でも観続けられる作品になった。映画の魅力って、そうやって時代を超えてしまうところにもあると思います。

語ってくれた人

シム・ウンギョンは『プレイタイム』で魔法のような映画体験をした。

シム・ウンギョン

1994年生まれ。『サニー 永遠の仲間たち』で主人公の高校生時代を演じて注目され、映画『怪しい彼女』では第50回百想芸術大賞最優秀主演女優賞など数々の賞を受賞。2019年から日本でも本格的に活動を開始し、『新聞記者』では第43回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞、2025年公開『旅と日々』で2025年 第99回キネマ旬報ベスト・テン主演女優賞を受賞。

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