TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
【#4】“magnif” Season one 2009-2025
執筆:中武康法
2025年12月1日
いまだに“旧ツイッター”とやらにも手が伸びないものぐさな自分が、なぜかすんなり始めたInstagram。きっかけは多分、アメリカ版『Harper’s BAZAAR』のレアな年代が大量入荷して、“これ、ただ売るだけでは惜しいなぁ”と悩ましかったのが始まりだったと思う。手元から無くなる前に、ウチにこんなものもありましたよ! という記録をお客さんと共有できればいいなと思ったのだ。そんな古書店特有の悩みが、いくらかでも解消されるのならありがたいものだ。
『Harper’s BAZAAR』は世界最古のモード雑誌と云われており、その後創刊された『VOGUE』としのぎを削りながら、今日までのファッションの大きな流れを作ってきた。古書店的に語りぐさなのが1930年代からアートディレクターに就任したアレクセイ・ブロドヴィッチの手がけた号である。見開きいっぱい大胆に使った誌面、そこに落とし込んだ写真・文字と余白の構成が今見ても抜群にカッコいい。彼の率いた「バザー」から、リチャード・アヴェドンやアンディー・ウォーホルのような才能が世に出たことでも知られている。
今回、久しぶりに当店のインスタを最初の投稿から振り返って見てみたのだが、絵に描いたようなお宝ばかりで驚く。その「バザー」を筆頭に、ヘンリー・ウルフ期の『Esquire』、伝説のメンズ誌『GENTRY』、『APPAREL ARTS』、今や世界中が血眼になって探しているニューウェイヴマガジンの『WET』や『FACADE』など、凄すぎるラインナップで、正直「この古本屋に行ってみたい!」と思ってしまうほどだ(笑)
そんな感じで始めたインスタだったが、やがてフォロワーが増えていき、お客様との貴重な交流の場となった。ここで懺悔と共に白状するが、自分はお客様のお顔とお名前を憶えることが中々困難で、それはもう礼儀とか努力とかそういう範疇でない自分の脳ミソの限界あるいは性質の問題になっているように思う。それは情けないし申し訳ない限りなのだが、インスタのおかげで画像やテキストを介してやり取りさせていただくことで、幾らかの悩みと無礼が解消された(と思う)のだった。
インスタで広がった世界は、新しい仕事をもたらした。イベント等の画像をアップすれば、また別のイベントからお声がかかった。ホームセンターの合板で作った自作の面陳棚にインパクトのある表紙たちを並べれば、他の売り場にはない雰囲気を持たせることができた。頼まれずとも自分でテーマを考え、「フィフティーズ」とか「フレンチ」とか「原宿ファッション」とか、その時々の商品在庫やクライアントの方向性を念頭に売り場をつくった。テーマにこだわりすぎるがために、その足りないピースを買って揃える必要が生じ、売値と変わらない価格で他所の古書店から雑誌や本を買い集めたりもした。よって金銭的にほぼ利益がないイベントも度々あったが、実店舗での仕事とは異なるやり甲斐を感じていた。
繋がっていただいた方々への感謝もこめて、ここで全てのイベントについて書き連ねたいくらいだが、かいつまんで言うとなると、やはり銀座ソニーパークでの「THE CONVENI」の仕事は反響が凄かった。それはプロデューサーの知名度に拠るもので間違いないけれども、あれは「古雑誌」という性質のものをどうやってセールスの場にのせるのかという課題への最適解だったのかもしれない。“月がわりで新刊のように昔の雑誌をならべる”というアイデアは、実はそれ以前からあたためていたものだった。当店のジャンル外の雑誌や、世に知らしめたいけどそのきっかけが欲しい雑誌なども、ただ単に「月号」で縛るという設定のおかげで、ひとつの棚に放りこめるのだ。「コンビニエンスストア」というテーマはまさにドンピシャで、その提案はすんなりと通り、実行されたのだった。毎月雑誌をセレクトし、銀座でセッティングするのは時間を要したけれど、お客さんの反応、更には雑誌の“中の人”たちの反応まで感じられて、とてもやり甲斐のある仕事だった。
さて。思い出話は尽きないけれど、今回四話ぶんいただいたコラムの最終回なので、是非これからのことを報告させてください。
既にHP等で告知させていただいている通り、神田すずらん通りの路面店での営業は、間もなく終了いたします。今回のコラム第一話で書いた通り、そもそもが建て替える前提だった物件なのです。それが最終的には16年使う事ができ、寧ろラッキーだったと思っています。
移転先は、現店舗の並びにある東京堂ビルの2階です。当店の立ち退きの話を耳にされた東京堂書店の方から、ありがたいことにお声がけいただきました。場所は、これまでカフェゾーンだったスペース。決して広くはないけれども、東京堂書店さんの売り場とは区切られていて、同じビルだけれど独自色を出しつつ新刊本との相乗効果を出せるかもしれません。また、これまでの路面店はシャッターを開けたら閉めるドアもなく、店内の温度も湿度も清潔感もコントロールが難しかったけれど、次は完全に屋内になるので快適にしていただけるかと思います。商品構成については、変わることなく“ファッション雑誌の古本屋”です。ただ、海外からのお客様の激増によってスカスカになりがちだった棚を、“変化のある棚”として変換できる工夫をしていければと思っています。
2009年のオープン以来、本当に多くの方々に支えていただきました。この感謝の気持ちをきちんとお伝えできるよう、これからも精進していきます。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
プロフィール
中武康法
なかだけ・やすのり | 1976年、宮崎県生まれ。2009年、古書店『magnif』を古本のメッカ・神田神保町にてスタート。古今東西のファッション雑誌を集めた品揃えは、服好き雑誌好きその他の多くの趣味人の注目を集めている。2025年末、建物の老朽化のため移転を予定している。
Instagram
https://www.instagram.com/magnif_zinebocho
Official Website
https://www.magnif.jp
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