ファッション

あなたにとってスタンダードって?/アニエス・トゥルブレ

What’s Standard?

2026年1月4日

マイスタンダードの見つけ方。


photo: Manabu Matsunaga
text: POPEYE
coordination: Izumi Oshima
2025年10月 942号初出

スタンダードという言葉はあまりに広義だ。デザイナーにとってこの言葉は、どんな意味を持ち、自身のものづくりとスタイルに影響を与えているのだろう。

『私は、スタンダードにはなりたくない。自由なの。』

 本名をアニエス・トゥルブレといい、最初の夫の苗字ブルゴワの頭文字を取ってブランド〈アニエスベー〉を始めたのは1975年のこと。それから50年もの間、洋服作り、美術展、映画製作まで彼女は自分の興味の赴くままに走り続けている。レアール地区の古いお肉屋さんを改装して最初の店を開いた頃、メゾンブランドはオートクチュールが大半であったし、強いデザインのブランドが台頭している時代だった。そこにおいて、カーディガンやボーダーカットソーといったシンプルで上品な普通のスタイルはどれほどセンセーショナルだったのだろう。〝スタンダード〟、このテーマを設けたとき、まず話を聞いてみたいと名前が挙がったのがアニエスさんだったのだ。

 パリのレピュブリック広場に程近い場所にある本社、その最上階が彼女の部屋。壁にはイングリッド・バーグマン、『バトル・ロワイアル』の栗山千明、故フランシスコ教皇らの写真が貼られ、床にはこれからカスタムするという〈ギブソン〉のギターが転がっている。「日本の政治は、今、複雑ですよね。フランスでもニュースになっています」。参院選の直後のため政治の雑談からインタビューは始まった。

 今日の彼女の装いはというと、20〜30年前のものと話すギャバジン素材の黒のスカートに、白のニットとスカーフ、ルイ15世の靴調のクロッグにレザーのハット。「今日、私が着ているのは〝シロクロ〟です」。日本にとても愛着があるというアニエスさんは日本語で「白黒」と言って今日のスタイルについて説明してくれた。

「朝、そのときの気分で着る服は決めます。本当に好きな服がたくさんあるので、それらを組み合わせるんです。今日はちょっとロックンロールっぽいところがあります。そうすると革が必要なスタイル。レザージャケットも好きですね。同じものをずっと着ているけれど着回しが利きますから。毎日同じコーディネートはしないんです。でも、長い間同じ服ばかりを着ている。だからお店で新しい服を買うことは滅多になくて、必要なものだけを買い替えるだけ。それでいいんです。自分のものづくりは、〝ファッション〟をしているわけではないので、人々の生活を思いながら〝服〟を作っています。人を喜ばせたい」

 でも、それは大衆に迎合するという意味ではない。例えば、去年の夏なら花柄のドレスが多すぎてもう我慢できなかったと話し、街の流行の真逆をいく。今回のインタビュー中に繰り返し言っていた言葉がある。

「自分はスタンダードじゃない、ロックンロールで自由なんです」

〝標準〟は退屈で、そこから逸脱していくことで、自らのスタンダードと言えるスタイルは生まれていくのだ。


スタンダードから連想することばは?

・白Tとジーンズ

・ローストチキンとフライドポテト

・ハンバーガー

・日本の学生の制服

・日本の工事現場の人の鳶服と地下たび


プロフィール

アニエス・トゥルブレ

1941年、フランス・ヴェルサイユ生まれ。美術大学を卒業後は、雑誌『ELLE』の編集者、スタイリストを経て、ブランドをスタート。現在もデザイナーとしてブランドを統括している。オンラインラジオで好きな音楽を流し、2020年、パリにオープンさせた美術館「La Fab.」や青山店2階のギャラリーではアーティストをサポート、自身で監督したことがあるほど映画が大好きなカルチャーレディ。フランスの繊維産業の振興、環境問題に対しても熱心に取り組んでいる。