TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#1】宴席での失態も、ぜんぶ古着のせい

執筆:春風亭昇羊

2025年6月11日

 宴席で「実を言うと、僕って、アンチファッションなんすよ」と鼻息荒く語ったことがある。聞き手の二人は女性で落語会の主催者だった。自身のファッション観を唐突に語りだした無名の落語家を相手に、二人は「面白い話ですね」と終始大人の対応を見せ、そのことで気を良くした私は、調子に乗って語り続けた。しかしあとで考えたら私の話はちっとも面白いものではなく、さらに「ファッションの観念の中で流行が過ぎていくことで成り立つお洒落の観念の中の観念」などと、自分でも何を言っているのか分からないことが何度かあった。

 ではなぜ、そもそも自身のファッション観を語りたくなってしまったのかというと、それは他でもない古着の魅力に取り憑かれたから。

 およそ三年前、ユーロヴィンテージを扱う店でその魅力に触れてから、今ではユーロ物、アメリカ物、問わず、様々な古着、中でも40年代から90年代までの服に関心を持ち、暇さえあればInstagramを眺め情報を集めるなどして益々深みにハマっていったのだが、そのうち古着をきっかけに、ファッションについてこれまでとは違った考えを持つようになり、それが宴席での失態へと繋がった。

 ここで自身のファッション観を語ると再び過ちを犯すことになるのでそれは避けるが、しかし古着の魅力については語りたい。なので語る。世間では、安価で手に入る、他人と被らない、経年による味わいがある、などが古着の魅力だとされていると思うが、他にも私は様々な点で魅力を感じており、たとえば現行ブランドのデザインの元となる服が古着にあったり、現代では商売の都合上敬遠されがちな形状、丁寧かつ面倒な縫製、上質な素材、でつくられている服があったり、反対に今では許されないであろう粗野なつくりの服の面白さや、流行に左右されない服自体の普遍的な良さを感じられたりする点、などに魅力を感じる。さらに、宝探しの要素もあり、数多ある古着の中から自分の好みのものを探す時間は実に楽しく、目当てのものや欲しかったものを見つけたときの愉悦はたまらない。また、古着屋に置いてある古着は基本的に店側が選んで買い付けたものなので、一点一点、その服の情報や、魅力について、熱量の高い話を聞くことができるのも嬉しい。様々な話を聞きながら悩んだ末に購入した古着は愛着が湧き、購入に至るまでの経緯は良き思い出となる。他にも、古着を安っぽい紙袋に入れて渡す慣習も好きで、その紙袋を提げて歩く人を見かけると、微笑を浮かべながら「おっ、古着、買いましたね」と話しかけたくなる。そんな話を以前、弟弟子に熱く語ったところ、「滅茶苦茶ファッション好きじゃねーかっ。二度とアンチを名乗るなっ」と大声で非難され、あわあわ言葉に窮したのも、古着にまつわる思い出。

プロフィール

春風亭昇羊

しゅんぷうてい・しょうよう|1991年、神奈川県横浜市旭区出身。
2012年春風亭昇太に入門。
2016年二ツ目昇進。
2023年NHK新人落語大賞ファイナリスト。
10日間のヨーロッパ公演について綴った『ひつじ旅~落語家欧州紀行~』を2025年1月に出版。

Instagram
https://www.instagram.com/hitsujirakugo/

Official Website
https://lit.link/shoyorakugo