カルチャー
夕焼けが美しい寒空の下で余韻に浸りたい3作。
2月はこんな映画を観ようかな。
2025年2月1日
text: Keisuke Kagiwada
『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』
ジェームズ・マンゴールド(監)
マジでとんでもない映画だ。NYに漂着したボブ・ディランがフォークシンガーとして頭角を現し、やがて”プラグイン”するまでを描く半伝記映画なのだが、まず驚くべきは、体感では半分くらいが曲を演奏するシーンで構成されていること。しかも、そのほとんどがフルコーラス……より正確に言えば、執拗なまでに”歌い始め”と“歌い終わり”を聴かせる作りになっていること。これは伝説のニューポート・フォーク・フェスティバルで、ブーイングにあいながら歌い続けたボブへの敬意なのか?にもかかわらず、しっかりドラマチックなのだから、恐れ入る。あと、劇中で「サブタレニアン・ホームシック・ブルース」のMVにオマージュを捧げるような安易なシーンがないのもいい。さすが、マンゴールド。2月28日より公開。
『ANORA アノーラ』
ショーン・ベイカー(監)
ストリップダンサーのアニー(本名アノーラ)は、客としてやってきたロシアのチャラい御曹司といい仲になり、彼が帰国するまでの7日間をガールフレンドとして過ごす契約を結ぶ。最終日にノリで結婚したものの、両親が許すはずもなく、アニーは窮地に陥るが……。時間を軽快に省略しながら描かれる前半とは一転、結婚を無効にすべく両親より仕向けられた刺客たちとアニーが繰り広げられる大立ち回りは、省略なしにたっぷりと時間が費やされる。そのバランス感覚が素晴らしい。“『プリティウーマン』のその後”と言われる本作だが、主人公の愛称から“『アニー』のその後”も想起した。2月28日より公開。
『あの歌を憶えている』
ミシェル・フランコ(監)
過去にトラウマを抱えるシルヴィアと、若年性アルツハイマーで記憶障害のあるソールが出会い、恋に落ちる。あらゆる障壁が立ちはだかるが、2人は着実に愛を育む。忘れたくても忘れられない女と、忘れたくなくても忘れてしまう男には、大切にすべきものが”今”しかない。回想などは使わず、適切な距離感のカメラで、そんな”今”のかけがえなさだけに肉薄せんとする本作には、ラストの呆気なさも含めてため息しか出ない。2月21日より公開。
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