フード

インドネシア料理店『チンタ ジャワ カフェ』/異国の店主と土地の味。Vol.37

インタビュー・土井光

2025年1月17日

異国の店主と土地の味


interview: Hikaru Doi
photo: Kazuharu Igarashi
text: Shoko Yoshida

各地のローカルな風を届けてくれる東京近郊の外国料理店の店主を、
料理家の土井光さんと巡るコラム。

『チンタ ジャワ カフェ』店主のスリ・アストゥティさん。

土井光(以下、土井) インドネシアは多くの島々で構成される国ですよね。スリさんは、どちらのご出身ですか?

スリ・アストゥティ(以下、スリ) ジャワ島にある、首都のジャカルタです。インドネシアといえばバリ島が有名ですが、バリ島以外にも魅力があることを伝えたいという気持ちがあって、故郷の「ジャワ」を店名に入れました。「チンタ」はインドネシア語で愛しているという意味ですよ。

土井 ジャワティーとかジャワカレーの名前の由来になっている島ですね。お店では、ジャワ島のお料理が食べられるのですか?

スリ ジャワカレーというのは造語で、実際にはないですけどね(笑)。お店では、バリ島やスマトラ島なども含むインドネシア全般の料理が食べられます。都会のジャカルタでは、東京のように各地域のご飯屋さんが揃っていたので、ワタシは子供の頃から様々な味を食べていたんです。それを思い出しながら、自分でレシピを作って再現しました。

土井 メニューを見てみると、魚も肉も、お米も麺も、幅広くありますね!

揚げたナマズとライスのセット。見た目のインパクトは強いが、身の旨味とサクサクの皮がご飯との相性抜群だ。別添えの甘辛いサンバルソースをつけて、辛さ調整をしながらいただく。¥1,300

春雨が入った、優しい味わいのターメリックスープ。インドネシア人の大好物だとか。¥810

インドネシアの焼きそば、ミーゴレン。甘くてとろりとしたケチャップマニスと、スパイスやハーブで味付けした、風味豊かなファーストフードだ。¥1,020

大豆を発酵させて作る、インドネシア生まれの伝統的な発酵食品テンペ。臭みや粘り気はないが、「インドネシアの納豆」と呼ばれている。現地では、上記のように揚げてそのまま食べたり、砕いてスープの具にしたりする。土井さん曰く「最初は納豆、途中から豆腐、最後は酸味を感じ、複雑でクセになる味」。¥730

インドネシアの串焼き料理、サテ。盛り合わせにすると、エビ、若鶏、牛肉、羊肉、若鶏の皮が楽しめて、甘いピーナッツソースの味付けがインドネシアならでは。¥3,000

スリ インドネシア人はお米を食べなければ食事をしたと言えないほど、朝昼晩とお米をよく食べるんです。麺やサテなどは、おやつかおかずのような感じ。魚はテラピアやナマズなどの川魚が多いね。イスラム教徒が大半なので、お肉は豚肉以外。このお店でも、すべてハラル食材を使っています。

土井 どれも、出会ったことのない新鮮な美味しさがありますね。特にナマズは、日本人にとっては馴染みがないため、食べるのに少し勇気がいりますが、臭みもないし肉厚で食べ応えがあります! すべて自分でレシピ開発をしたと言っていましたが、スリさんはコックさんなのですか?

スリ 違うんです。むしろ料理は好きじゃない(笑)。それに、料理や経営の勉強はしたこともないんです。

土井 え、じゃあどうしてお店を開くことになったのですか?

スリ 日本に、ワタシが求めているインドネシア料理店がなかったからです。2006年に仕事の関係で来日し、その後に出合った日本人の男性と結婚をして本格的に日本に住むことになったのですが、日本各地を巡ってもインドネシア本場の味が見つからなかった。じゃあ、自分で作るしかないと、食材や調味料を集めて、ネットで作り方を調べて試行錯誤しながら一からレシピを作ったんです。それをインドネシア人の友人に振る舞ったりしていたら、「おいしいからレストラン開けるよ!」と言ってもらえて。それで、新婚当時に住んでいた神奈川県・平塚で2012年にお店をオープンしました。

インドネシアで10年以上の料理経験を持つシェフと、インドネシア人のスタッフが出迎えてくれる。セカンドハウスとして通っているインドネシア人のお客さんが多く、まるで現地に遊びにきた気分に。民芸品のほか、インドネシアのろうけつ染め布地を使ってスリさんのお母さんが作った小物入れなども。

土井 今日取材させてもらっているのは渋谷店ですが、他にも何店舗かあるんですか? 渋谷店は〈渋谷パルコ〉からすぐ近くの好立地で、観光客もアクセスしやすくていい場所ですね。

スリ 今は、平塚、渋谷、横浜、秋葉原、新宿、大宮の6店舗あります。平塚でオープンして7年間は、ワタシ一人で料理も接客も頑張っていましたが、SNSや友達の口コミで遠方からもお客さんが来てくれることが増え、店舗を拡大することにしました。渋谷店は長年の夢だったんです。買い手が多くて物件が見つからず諦めかけていたのですが、コロナ以降、閉店するお店が出てきたことと、国に帰れないインドネシア人のお客さんが増えて偶然にも経営が安定したことで、オープンに踏み切ることができました。

ドリンクメニューも豊富で、インドネシアでは一般的なアボカドジュース(¥795)にも出合える。見た目に少し驚くが、試してみるとバナナのような自然の甘味があり、飲みやすくてさらにびっくり。バリ島で作られるサトウキビ焼酎「アラック」(ショット¥700、カクテル¥800〜)もある。

土井 未経験の状態から、そこまで事業拡大できるなんて、バイタリティと継続力に度肝を抜かれます。しかも異国の地で、スリさんがそんなにも精力的に活動できる秘訣ってなんなのでしょう?

スリ シンプルですよ。年齢を重ねると頭脳も体力も衰えてしまうので、頑張れるうちに頑張ろうということだけ。今は2人の子供を育てているので私生活も忙しいですが、夢の全国展開に向けて、これからも突き進んでいきます!

土井さんからのコメント「学生の頃から親しみのある渋谷のセンター街を歩き、こんなところに異国の料理はあるのだろうか……と思いながら歩いていると、パルコの手前にインドネシア料理と書いてある看板を見つけます。一歩入ると南国を感じる綺麗な飾り付けで、渋谷の雰囲気とのギャップに圧倒されてしまいます。店内にはインドネシアをはじめとする外国の方々が沢山。ヒジャブを身につけてアボカドジュースを飲んでいる女の子、手でお米を食べている青年たち。きっとインドネシア人やその周辺の方々の憩いの場になっているのだろうな、と思うとほっこりとします。お料理はどれも美味しくボリューミー。ですが、刺激的な味付けは少なく日本人の好みにも合いそうな素朴なお料理でした。特にナマズの焼き物は初めての経験でしたが、臭みはなく非常に食べやすい! 女性一人でも一匹食べられそうです。食堂のように使ってもよし、みんなでワイワイもよし、カフェ使いもできる気さくさで身近なインドネシアを発見出来ました! オーナー、スリさんの母国愛がつまったチンタジャワカフェ、関東に6店舗も展開されているのでお近くの店舗に足を運んでみてください!」

インフォメーション

インドネシア料理店『チンタ ジャワ カフェ』/異国の店主と土地の味。Vol.37

チンタ ジャワ カフェ渋谷店

◯東京都渋谷区宇田川町13-16 コクサイビルA館 4F ☎︎03・6455・2499 11:00〜22:00 無休

今回取材した店主の故郷について

インドネシア料理店『チンタ ジャワ カフェ』/異国の店主と土地の味。Vol.37

インドネシア

◯人口の多さは世界第4位で、日本の人口の約2倍。
◯インドネシアは、「東インドの島々」という意味で、赤道をまたいだ約18,000の島々で構成される。
◯国土は日本の約5倍。
◯約300の種族がいる多民族国家。
◯公用語のインドネシア語のほか、島や民族ごとに独自の言語があり、約500以上の言語が存在する。
◯世界第3位の米生産国で、ほとんどの地域で稲作が行われる。
◯インドネシア語でおいしいは「enak(エナッ)」


インドネシア料理店『チンタ ジャワ カフェ』/異国の店主と土地の味。Vol.37

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