フード
ミャンマー料理店『ゴールデン バガン』/異国の店主と土地の味。Vol.36
インタビュー・土井光
2024年12月13日
各地のローカルな風を届けてくれる東京近郊の外国料理店の店主を、
料理家の土井光さんと巡るコラム。
土井光(以下、土井) ミャンマー料理を食べるのは、生まれて初めてです! なのでまずは、ミャンマーに根付いている食文化のことから聞かせてください。
モモ ミャンマーは多民族国家なので、民族によって食文化がまるで違います。そして、バングラデシュ、インド、中国、ラオス、タイの5カ国と接しているので、周辺国からの影響を受けて独自に進化したものが多いです。例えばカレー。インドのようなスパイシーさはなく、ニンニクと玉ねぎと生姜とパプリカ粉でルーを作るのがミャンマー流です。
土井 風味の優しそうなカレーですね。モモさんと、旦那さんのサイさんは、どのような食文化を持つ民族なのですか?
モモ ワタシたちは、北東部に位置するシャン州出身のシャン民族。寒い地域なので、ひよこ豆をアレンジした料理や発酵食品が多く、このお店でも、シャン民族特有の料理を振る舞っています。

トロトロ、プルプルなひよこ豆の豆腐と米麺を絡めていただく、シャン・トフーヌエ・カオスエー(シャン豆腐そば)¥1,430

茹でたひよこ豆とニンニクをご飯と炒めた、ペーピョッ・タミンジョー(ひよこ豆チャーハン )。ミャンマーのひよこ豆は小さく、えんどう豆のようなサイズ感。¥1,430
和食料理屋で働いていたサイさんが、「日本人は見た目で料理を味わう」と知り、盛り付けも美しく工夫しているという。 左写真・上/ひよこ豆で作ったシャン豆腐を揚げた、中はトロトロ、外はカリカリのトフージョー。¥990 左写真・中左/苦味と酸味がある発酵茶葉に、豆、胡麻、干しエビ、ピーナッツ、揚げニンニク、唐辛子などを加えて、塩とピーナッツオイルで混ぜ和えたラ ペットッ(お茶の葉サラダ)¥1,210 左写真・下/バナナの葉で包んで、豚肉とライスを発酵させ蒸したヌ・ソム・ムー(豚挽肉ソーセージ)¥1,100 右写真/ダイズと生姜、唐辛子、ニンニクを混ぜて乾燥・発酵させた納豆せんべい。やや辛味があり、味噌のような風味も感じられる。¥880
土井 ひよこ豆料理は、豆の自然な甘味が感じられて、なんだか心が落ち着きます。発酵料理はどれも絶好の肴! ヌ・ソム・ムー(豚挽肉ソーセージ)は、フナとご飯を自然発酵させる鮒寿しなどのように、日本の伝統発酵文化を彷彿とさせる味わいもありますね。さて、ひととおりミャンマー料理を堪能させていただいたところで、日本にいらっしゃった経緯をお伺いしてもいいですか?
モモ はじめて日本と接点を持つきっかけになったのは、ミャンマーが自国をPRするために1996年に打ち出した「VISIT MYANMAR YEAR 1996」という観光政策です。観光客や外国の企業関係者を多く歓迎した取り組みだったのですが、ワタシは父の仕事の手伝いで日本人の社長家族を案内し、大学でほんの少し勉強した日本語で頑張ってアテンドをしたのです。そうしたら、「旅行ガイドに向いていますね」と言ってもらえて。それを機に、大学院に通い直して日本語を学び、卒業後に日本語ガイドとして旅行会社に就職しました。
土井 日本人からの一言で、運命が動き出したのですね。実際に来日されたのは、その後ですか?
モモ 1999年に日本へ渡りました。当時はカラーテレビがミャンマーに普及され始め、放送されていたドラマ『おしん』に感動して日本への憧れも強くなっていたので、すごく嬉しかったですね。でもそれ以上に、自由で平等な民主主義のもと、自分らしく生きる喜びを知ったのです。当時のミャンマーは軍事政権下で、政府の”いいこと”しか言ってはいけなかった。「公務員になります」「国に貢献します」「国を愛しています」。軍事政権以前も社会主義だったため、北朝鮮との連携が強く、世界の綺麗な観光地を紹介する本などは、今思えば北朝鮮の写真しかなかった。広い世界が見えないようにコントロールされていたなかで、ワタシの目は、日本で初めて”開かれた”のです。
土井 政治が持つ力の恐ろしさを実感する話ですね……。その心持ちで、来日後はどのように過ごしたのですか?
モモ 当初は、ミャンマーに戻って旅行会社を立ち上げたいと思っていましたが、来日から半年後にサイさんと出合い、結婚してそのまま日本に暮らすことにしました。通訳と翻訳の仕事をしたり、IT会社で働いたり、子育てをしながら41歳で明治大学に通って政治経済学を学んだりと、インディペンデントに新しいチャレンジをし続けました。
土井 大学にも! モモさんと話しているだけで、溢れ出るバイタリティが伝わってきます。『ゴールデン バガン』はいつから始めましたか?
モモ 大学卒業後の2015年です。来月でちょうど10周年! サイさんが昔働いていた和食屋の店長が長年仲良くしてくれていたのですが、その人が独立後に営んでいた天ぷら屋を畳む時、「居抜きでミャンマー料理を始めない?」と提案してもらったのです。ワタシはお店を経営しながらも、引き続き通訳の仕事をしたり、念願だった旅行会社を父と妹とミャンマーで立ち上げたり、ミャンマー人の登録支援機関のサポートもしたりと、ミャンマーと日本の窓口を担ってきました。
サイさんが厨房で腕を振るい、モモさんが接客を担当。店内には、ミャンマー語で描かれた時計や小さなお仏壇などが飾られている。シャン高原で育った茶葉は、1袋300円で販売している。
土井 2021年にクーデターが発生して以来、ミャンマーは内戦状態ですよね。なかなか国の状況も見えないなかで、このようなお店があることがミャンマーに関心を持つきっかけになると思います。
モモ ミャンマーに住む親戚たちは、家が爆弾で破壊され、避難民になっています。ミャンマーが変化しない限り国に帰れませんので、ワタシは日本に帰化することにしたのです。「モモ」はシャン族の言葉で蓮の花という意味で、ワタシは北の山からやってきたので、日本名は「北山華蓮」に決めました。『ゴールデンバガン』を含めたワタシたち夫婦の活動が、ミャンマーと日本をつなぐ架け橋だと思っているので、これからも精一杯この地で生きていきますよ。

土井さんからのコメント「多民族国家のミャンマー。だからこそどのような文化か全く想像できていませんでした。しかしお料理の解説を聞くと知らないことばかり。本当に勉強になりました。まずひよこ豆をアレンジした料理には圧倒。私はよくヨーロッパでひよこ豆を食べていましたが、知っているひよこ豆はもう少し大きく、すり潰したり食感が残るような茹で具合でサラダに入れるなどのシンプルな使い方をしていました。しかしミャンマーのひよこ豆はもっと扱いやすい大きさで、日本の大豆のような存在なのか、たくさんの調理方法で使われています。ミャンマー料理がここまで発酵をうまく使い、独自の文化を築いていたとは知りませんでした。お茶の使い方も目から鱗。サイさんのお料理は、現地の心を残しながらも日本人にも理解しやすいように丁寧なお料理をされています。そして「ミャンマーと日本を繋ぐ架け橋だと思っている」という一言が強く心に響きました。内政が難しい国だけれど、その国の文化を知ることが、まず大きな壁を削っていく大事な一歩なのだと改めて感じました。ぜひ遊びにいくような感覚で気楽に訪れてみてください。真面目でパワー溢れるお二人の空間とお料理は、心地よい時間を与えてくれます!」
インフォメーション

ゴールデン バガン
◯東京都新宿区富久町8-20 ☎︎03-6380-5752 11:30〜14:30・17:00〜22:00 日・祝休(予約4名以上の場合は夜のみ営業可) ※オープン10周年の感謝の気持ちを込めて、12月〜来年2月は事前予約で10%オフに。
今回取材した店主の故郷について

ミャンマー連邦共和国
◯面積は日本の約1.8倍。
◯国民の約90%が仏教徒。
◯ビルマ人が約70%を占める一方、135の少数民族を擁する多民族国家。
◯以前は「ビルマ」という国名だったが、1989年に「ミャンマー」に変更。
◯各地に日本語学校があり、ミャンマーでは日本語を学習する人が多い。
◯1948年にイギリス領から独立し、1962年に社会主義国家へ。
◯民主化運動が発展し、1990年にアウンサンスーチー率いる国民民主連盟が政権を握る。
◯しかし、その後も政治混乱は続き、独立後一度も全土統一は果たされていない。
◯ミャンマー語でおいしいは、「စားလို့ကောင်းတယ်(サーロカウンデー)」。

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