フード

モロッコ料理店『レストラン・モロッコ』/異国の店主と土地の味。Vol.34

インタビュー・土井光

2024年10月12日

異国の店主と土地の味


interview: Hikaru Doi
photo: Kazuharu Igarashi
text: Shoko Yoshida

各地のローカルな風を届けてくれる東京近郊の外国料理店の店主を、
料理家の土井光さんと巡るコラム。

『レストラン・モロッコ』店主のエル・ハシミ・ジャファーさん。

土井光(以下、土井) ジャファーさんは、日本に暮らし始めてどれくらい経ちましたか?

エル・ハシミ・ジャファー(以下、ジャファー) 1981年からなので、40年以上になります。来日前はパリの大学に通っていたんですが、パリで出合った日本人女性と結婚して、日本に引っ越すことになったんです。日本のすべてが心地よくて、好きだと思いましたね。

土井 日本との相性がよかったんですね。まずは、どんなお仕事をされたんですか?

ジャファー 最初はモロッコの民芸品を輸入して、高島屋などのデパートで販売していました。このお店にも、その頃売っていたのものと同じ民芸品を飾っていますよ。

モロッコから輸入した器や壺、花器などが、インテリアとして棚に並ぶ店内。

羊の革で作られたモロッコ製コインケースは購入もできる。ボタンなどは使わない折り畳みスタイル。

土井 色合いや柄が派手すぎないモロッコの民芸品は、たしかに日本で人気がありそうですね。

ジャファー 当時はバブル真っ只中でしたから、景気がよくて売りがいがありましたよ。その後しばらくして、飲食店をスタートしました。1996年から2002年までは赤坂、2002年から2004年までは青山で。店名は今と同じ『レストラン・モロッコ』。モロッコからシェフを呼んで、青山の時はイタリアンなどの地中海料理もいろいろ出していましたね。

土井 現在の神田のお店の前に、2店舗も経営されていたとは! 神田に移ったのは、その後ですか?

ジャファー 青山のお店を畳んだ後、メクネスというモロッコにある故郷の街に一旦帰りました。かつては国王が住む都だったので、古い建造物などが今でも残っていて、日本でいう京都みたいなトラディショナルな街です。観光地としてもオススメですよ。でも、モロッコ人の一般的な考え方や仕事への向き合い方などが合わず、結局日本に戻ってきました。

土井 故郷はもちろん大切だけれど、生まれ育った土地ではない場所で自分の居場所が見つかることもありますよね。

ジャファー 世界は広いですからね。戻ってきてから数年間はモロッコの民芸品を販売して、パンデミックになる少し前に、また飲食店を再開して現在に至ります。

世界最小のパスタであるクスクスに、人参や空豆などの野菜と、鶏肉、牛肉、羊肉を3種類盛り付けたクスクスロワイヤル。玉ねぎやレーズン、シナモンが入った甘いソースがアクセント。¥4,200

左/トマトとハーブをふんだんに使ったバラエティサラダ。¥600 中/スパイスやハーブと一緒に、牛肉やレンズ豆、野菜、米をやわらかく煮込んだハリラスープは、具沢山で栄養たっぷり。日本の味噌汁のように、家庭ごとのレシピがあるモロッコの”おふくろの味”。¥780 右/モロッコはオリーブの生産量が多いので、メニューにはオリーブのマリネも。¥600

食材に含まれる水分を利用して、スパイスと一緒に煮込んで作るモロッコの国民食タジン。トマトソースで煮込んだミートボールタジン(左¥2,500)は白米との相性抜群で、羊肉とプルーンのタジン(右¥2,800)はワインにもよく合う。

土井 お料理に辛味はなく、どれも優しい味わいですね。日本人に合わせた味付けにしているのかな? と思うくらい、舌に馴染みます。

ジャファー そうでしょう。でも、日本風アレンジは全くしていなくて、モロッコの味そのままの家庭料理です。その分、調理には時間もかかるので、お客さんには時間に余裕がある時に食べに来てもらえたら嬉しいです。

モロッコ産のワイン(グラス¥800)とカサブランカビール(¥900)も楽しめる。イスラム教徒であるジャファーさんは、飲むことはもちろん、アルコールの販売すら本来は難しいが、日本人のレストランの使い方を考慮して扱うことに決めたのだそう。

モロッコの食文化を語る上で欠かせないのが、このミントティー。砂糖たっぷりの甘い味わいで、モロッコではお酒の代わりの嗜好品。ランチタイムは、食後サービスで出してくれる。

土井 モロッコのお酒も揃っているから、落ち着いて食事がしたいディナーなどにもいいですね。それにしても、ジャファーさんが日本に来てからの40年以上の濃いお話をぎゅっとまとめてお伺いできて、充実した時間でした……!

ジャファー 飲食店を営むこと以外にも、病気や再婚を経験したり、生活をする中でいろんな出来事がありました。何十年という時間でも、過ぎ去るのは本当にあっという間! 皆さんも振り返った時に後悔のないように過ごしてくださいね。

土井さんからのコメント。「ピンクの可愛い壁紙が目をひくお店ですが、中に入れば可愛らしいモロッコ人の方々が出迎えてくれます。すでに甘いスパイスの香りが漂う店内。モロッコの素敵な雑貨も置いてあり、瞬間的にモロッコへワープしたようです。モロッコ料理が大好きな私ですが、なかなか東京で本場の味に巡り会えないなあ……と思っていた矢先。友人から教えてもらい訪ねてみると、マラケシュの通りのレストランにいそうな素敵なモロッコ人ジャファーさんが出迎えてくれました。気さくで優しいジャファーさんの雰囲気はモロッコの魂と日本の丁寧さを掛け合わせた不思議な方。最後に頂くミントティーはさっぱりとしていて、私がフランスで飲んだことのあるものよりも飲みやすい。砂糖の加減が絶妙なミントティー最高です。優しい味のクスクスや、じっくり煮込んだタジンも最高。ちなみにプルーンが入っているタジンに惚れました! サービスの方々も常にニコニコ、とてもフレンドリー。美味しいか? 大丈夫? と声をかけてくれ、一人で行っても絶対楽しい。温かいモロッコの家庭料理になぜか懐かしさを感じてしまうはず。ぜひさくっとランチ、ゆっくりディナーと使い分けて楽しんでください」

インフォメーション

モロッコ料理店『レストラン・モロッコ』/異国の店主と土地の味。Vol.34

レストラン・モロッコ

◯東京都千代田区内神田1-5-9 丸山ビル1F ☎︎03・5577・2993 11:30〜14:00・17:30〜23:00 日・祝休

今回取材した店主の故郷について

モロッコ料理店『レストラン・モロッコ』/異国の店主と土地の味。Vol.34

モロッコ王国

◯面積は日本の約1.2倍。ほぼ一緒。
◯人口は約3,700万人。日本の半分以下。
◯中央にはアトラス山脈、西には太平洋、南にはサハラ砂漠が広がる。
◯かつてはフランスとスペインの植民地。
◯アラビア語とベルベル語が公用語だが、フランス語も通じる人が多い。
◯国教はイスラム教。大多数がスンニ派。
◯宗教上、一夫多妻制が認められていて、男性は同時に4人の女性との結婚が可能。
◯「スーク」と呼ばれる野外市場が盛んで、西部の都市マラケシュのそれが世界最大規模。
◯モロッコのアラビア語でおいしいは、「ラディドゥ」。


モロッコ料理店『レストラン・モロッコ』/異国の店主と土地の味。Vol.34

↑場所はここ↑