カルチャー
毛利衛さんに宇宙と未来の話を聞く。【後編】
宇宙飛行士が語る火星移住、そして地球の未来……。
2021年6月13日
text: Keisuke Kagiwada
2020年7月 879号初出
※毛利氏の肩書きはインタビュー当時
今や一般人の宇宙旅行が実現する日もそう遠くはなさそうだ。あらためて考えたいのは、人類が宇宙を目指すのはなぜなのか? ってこと。というわけで、日本人初の宇宙飛行士であり、現在は日本科学未来館で館長を務めている毛利衛さんに、宇宙好き映画監督の三宅唱さんがzoomインタビュー!後半戦スタート。
無重力空間では足が邪魔。
毛 宇宙に行くとまず思い知らされるのは、足が邪魔だということです。足は重力がある地上で初めて役に立つ。そういうことをはじめ、宇宙での経験は自分が住める場所は地球しかないと気付かされることの連続でした。科学も政治、宗教、ビジネス、芸術、教育などと同じように社会を持続するために人類が誕生してからずっと続いてきた広い意味での文化の一つだと思います。どれも大切ですがどれが一番ということはない。それを誤解して威張っている人が多いじゃないですか(笑)。最終的には地球に生きる動物であることを自覚して、謙虚に生きていくことと、すべてに必要なバランスをとることが大事だと思います。
火星への移住はインポッシブル?
三 「威張っている」「謙虚」という言葉で連想したのですが、実業家のイーロン・マスクによる火星移住計画はどう捉えればいいですか?
毛 火星に行くだけなら、近いうちに実現するでしょう。しかし、移住となると話が違います。先ほども言ったように私たちは地球で生きていくように進化してきたからです。火星を地球に近い環境に変えて、私たちが宇宙服なしで住めるようにするためには、数千年以上かかるでしょう。それだったら、地球の環境が壊れないようにしましょうよというのが私の考え。それは宇宙に出てどれだけ地球が安全で安心な場所か実感したからです。地球の大切さを思い知ることが宇宙に行く目的だと私は思っています。
毛利さんが好きな宇宙映画について。
三 最後にどうしても聞きたいんですけど、宇宙に行った人にとって、宇宙映画って面白いんですか? 僕は「ホンモノはもっとすごいんだろうな」と物足りなさを感じてしまうことが多いんです。
毛 宇宙に行った者からすると、よくできているなと思うのは『ゼロ・グラビティ』。私が実際に宇宙で感じた、人や物の動き、炎の広がり方……。それが他の映画に比べて圧倒的に本物に近かった。もうひとつ驚いたのが、地球の映像。昼間から夜になっていくときの様子が、宇宙から見るのと本当に同じなんです。最後に地球上の海に落ちて、今までの無重力から立ち上がり重力を感じるシーンも感銘を受けました。
三 観直したくなってきました!
毛 ただ、一点だけ残念だったのは、あの映画では日本の実験棟「きぼう」が爆発するんですよ(笑)。
三 たしかにそうでしたね(笑)。今日のお話を聞いて、宇宙について考えることは未来について考えることなんだと思いました。ありがとうございました。
プロフィール
毛利 衛 -日本科学未来館館長、宇宙飛行士-※肩書きはインタビュー当時
もうり・まもる|1948年、北海道生まれ。’92年、日本人として初めて米スペースシャトルに搭乗し、日米研究者が提案する43テーマの無重力宇宙実験を行う。2000年、NASA宇宙飛行士として立体地形図作成ミッションを遂行。同年~2021年3月まで日本科学未来館館長を務める。
プロフィール
三宅 唱 -映画監督-
みやけ・しょう|1984年、北海道生まれ。監督作に『Playback』『きみの鳥はうたえる』『ワイルドツアー』など。『呪怨』シリーズの起源となった「呪いの家」の出来事が明かされるオリジナルドラマ『呪怨:呪いの家』は、Netflixで配信中。
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