ファッション
たとえば映画をお手本に。
2024年2月18日
毛質や顔の形に合わせて、自分に似合うヘアスタイルを探す? それは、いたって正攻法かもしれない。だが、面白くはない。映画でも観て、ルッキングッドなお手本を見つけようじゃないか。
教えてくれた人
『バーバーボーイズ』島田裕生さん
誰にだって一度はあるんじゃないか。映画を観ながら、「この主人公の髪型みたいにしたいなぁ」と妄想した経験が。だけど、「顔が違いすぎるから、自分はヘアカタログの中の、顔の形や髪質に合うとされるものにしておくか」と諦めている人も少なくないだろう。「そう、そこで諦めてほしくないんです」と語るのは、映画を愛し、お客さんに映画の中の髪型を提案することもよくあるという『バーバーボーイズ』の島田裕生さんだ。「映画の登場人物は、キャラクターがしっかり描かれていて、当然、髪型もキャラクターを反映しているものです。だから、毛質や顔の形だけでは捉えきれない、自分のファッションや世界観も含めたお手本探しをするなら、映画はかなり参考になるはず。確かに向き不向きは人それぞれですが、『こんな髪型にしたい!』と思えるものを見つけるほうが大事。それをできるだけ叶えるのが僕たちの仕事ですから」
今回、挙げてくれたのは、島田さんが考える映画の中のルッキングッドな髪型、14種。「50年たったときに『あのときの髪型はダサかったな』と後悔することがなく、東京にいてもニューヨークにいても違和感がない、普遍的でインターナショナルな髪型」が条件だ。この中からお手本が見つかったらこの上なし。でも別にマンガや写真集でお手本を探してもいいと思う!
1960年代の上品なクルーカット。
クルーカットというと、横をガッツリ刈り上げるイメージがある。しかし、’60年代は、本作で“アポロ11の乗組員として史上初めて月面を歩いた男”ことニール・アームストロングのように、あまり刈り上げず、トップをさらっと横に流す上品で知的な印象の髪型だった。「他の乗組員がみんな軍人出身でそれっぽい髪型なのに対し、アームストロングだけクルーカットなのは、民間出身の優秀なパイロットであるという彼の出自を髪型でも表現しているんだと思います」
ファースト・マン(2018年、デイミアン・チャゼル監督)
ニール・アームストロングが、困難を乗り越えながら月面着陸を成功させるまでを描く。
英国的で自然なマッシュルームヘア。
英国陸軍の二等兵、トミー。目にちょうどかかるくらいの長さの前髪を、ラフにかきあげているのが彼の髪型の完成形だ。しかし、「戦火を駆け抜ける中でそれが崩れ、水に濡れた前髪が落ち、ツヤと動きのあるカーリーなマッシュルームスタイルになるんです。このカールしている状態が特にルッキングッド。第2次世界大戦を描いた映画なので、時代設定はビートルズやモッズより前ですが、それらに通じる英国らしさをこのマッシュにも感じます」
ダンケルク(2017年、クリストファー・ノーラン監督)
第2次世界大戦初期、ダンケルクでの戦いに身を投じた人々の物語。
フォーマルにも整髪できるカーリーショート。
舞台は’30年代。ハリウッドの社交界で成り上がろうとする青年ボビーは、駆け出し時代こそいかにも白人的な天然カーリーヘア。しかし、キャリアアップしていくに従い、TPOに合わせてフォーマルにスタイリングするようになる。「’50年代以前、“よそいき”のときにはグリースアップするのが白人男性の基本だったんです。それを忠実に守っているあたり、さすがウディ・アレン監督。カーリーヘアをなでつけるというのも、新鮮でかわいいですよね」
カフェ・ソサエティ(2016年、ウディ・アレン監督)
’30年代を舞台に、ハリウッドでのし上がっていこうともがく青年の恋を綴ったラブコメディ。
ボサボサに伸びたスポーツ刈り。
「映画の中のカッコいい髪型と言われて、最初に思い浮かびました」と島田さんが語る『セブン』のデヴィッド。「伸びたスポーツ刈りを、マットな整髪料でラフにセットした感じです。トップは3㎝程度でフラットに切り揃え、横と後ろは1㎝くらい。あと、もみあげとひげが、きちっと整えられています。だから、仕事が立て込んで無精ひげになってもルッキングッド。ちなみに、ツヤの出る整髪料で髪を立てると同じブラピでも『ファイト・クラブ』のタイラーになります」
セブン(1995年、デヴィッド・フィンチャー監督)
「七つの大罪」をモチーフにした殺人事件に、新人刑事ミルズが立ち向かう。
前髪をかきあげるミディアムレイヤー。
トロイの髪型は、彼の適当な性格を体現するかのごとく、ラフな印象のミディアムヘア。しかし、ただ伸ばしているだけではない。トップを長めに残したレイヤースタイルというもので、襟足は短くなりすぎないようにあくまでナチュラルに整えられている。「日本人は前髪をおろしがちですけど、人によっては野暮ったく見えてしまいます。彼のようにヘアオイルなどのホールド力の弱い整髪料を使って前髪を常にかきあげてるくらいが、印象も柔らかくていいと思います」
リアリティ・バイツ(1994年、ベン・スティラー監督)
ジェネレーションX世代の若者たちが、悩みながらも自分の生きる道を模索する青春映画。
バキバキに決めすぎないナチュラルオールバック。
実在した銀行強盗のデリンジャーは、その気高き存在感に魅せられた女性からの人気が高かったという。色気が漂う髪型も人気に一役買っていたに違いない。「彼はサイドとバックをほんのり刈り上げたオールバックで、バキバキになでつけてないのがいいですね。崩れてもカッコいいので、ソフトなポマードやワックスでセットするのがお勧め。前髪は長めなので、崩れると分かれてしまうかもしれませんが、劇中のデリンジャーのように気にせず手ぐしで直すくらいで」
パブリック・エネミーズ(2009年、マイケル・マン監督)
大恐慌時代のアメリカで暗躍した実在の銀行強盗の人生を活写した犯罪活劇。
長めで素朴なアイビーカット。
全体的に短く切り、トップを横に流す髪型は、アイビーリーグに所属する学生たちの定番であることから、アイビーカットと呼ばれる。本作におけるレイモンドもその系譜に当たると島田さん。「本来はもう少し短いので、長めのアイビーカットと言うべきでしょうが、くせを自然に生かした横分けにグッときます。なので、プレジデンシャルカットのようにツヤを出してなでつけるのではなく、ワックスやクリームなどで、あくまでさらっとセットするといいムードなんです」
レインマン(1988年、バリー・レヴィンソン監督)
自由奔放なチャーリーとサヴァン症候群の兄レイモンドが繰り広げる珍道中。
モダンで重たいボブヘア。
シェイクスピアの名作『ロミオとジュリエット』を現代に置き換えた本作では、ロミオの髪型もモダンなボブヘア。この髪型のポイントは前髪の長さにあるようだ。「耳の上あたりから前髪の中心に向かって下がっていく、つまり前下がりの形。ロミオを演じたレオナルド・ディカプリオの髪は重めなのが特徴なので、すきすぎるとこの感じは出ません。かきあげた髪が落ちてくる。それをまたかきあげる。その仕草も込みでこの髪型としたいところです」
ロミオ&ジュリエット(1996年、バズ・ラーマン監督)
ロミオとジュリエットはパーティで知り合い恋に落ちる。しかしそれは悲劇の始まりだった。
薄毛でも雰囲気が出るベリーショート。
「アジアでは薄毛をネガティブに捉える価値観の人が多い気がしますが、映画の中の髪型は、そんなことはないんだと教えてくれもします」と島田さん。その好例として推すのが本作のエンゾだ。たしかに、額は広い。「トップを、サイドより若干長めにしたベリーショートで、ひげとサイドが同じ長さでつながっているのもいい。サイドよりひげのほうが長いと悪目立ちするケースもあるので。これはフロントだけでなくトップが薄くなっても清潔感を失わない髪型です」
グラン・ブルー(1988年、リュック・ベッソン監督)
フリーダイビングの世界記録に挑むエンゾと、ライバルであるジャックの勝負を描く。
知的でナードなセンターパート。
ひょんなことからハリウッド女優と恋に落ちる書店員、ウィリアムの髪型については、「ウェービーなセンターパートですね。知的で少しオタクな印象があって、書店員の彼にはぴったり」と島田さんは表現する。「自然なグラデーションのボブがベースで、極力重みを残すとこんな感じになります。髪が硬くてサイドが膨らむ人は、やりすぎない程度にツーブロックにしてもいいかもしれません。サイドは耳が出るか出ないかの長さで、襟足は自然に残すもよし刈るもよし」
ノッティングヒルの恋人(1999年、ロジャー・ミッシェル監督)
うだつのあがらない書店員ウィリアムと、ハリウッド女優の恋を綴ったラブコメディ。
ビンビンに気合の入った軍人風バズカット。
いろんなバズカット(ボウズ)が見たければこの映画。海兵隊員は、サイドからトップにかけてグラデーションがあるバズカットにするのが規則だ。この頭(ヘッド)が、蓋がついた瓶(ジャー)に見えることから、“ジャーヘッド”なる蔑称を持つ。湾岸戦争に従軍するアンソニーもこの髪型だ。「個人的にかなりいいと思っています。グラデーションの始まる位置に規則はないようですが、気合の入っている奴ほど位置が高い印象。アンソニーは相当に高い位置(笑)」
ジャーヘッド(2005年、サム・メンデス監督)
’90年代初頭。海兵隊員のアンソニーは、湾岸戦争中のサウジアラビアに派遣されるが……。
現代にもふさわしいローマ時代のクロップ。
ローマ時代が舞台の時代劇だからといって侮るなかれ。軍人マキシマスの髪型は、よく見ると今っぽいのだ。「柔らかい毛質のボウズが、少し伸びた髪をピタッと寝かせているだけなんですよ。おそらく全体的に同じ長さで揃えているか、前髪だけちょっと短いくらいで、今ちょっと増えてきているクロップという髪型に近い。映画では鎧を着ていますが、洗いざらしのオックスフォードシャツみたいな、スタンダードなスタイルにもハマると思います」
グラディエーター(2000年、リドリー・スコット監督)
帝政ローマ時代中期。皇帝の陰謀により奴隷になった軍人マキシマスは復讐を誓う。
コームを持ち歩きたくなる、プレジデンシャルカット。
「結局、ハリウッドスターばかりかよ!」という声も聞こえてきそうだが、アジア映画の中にも真似したい髪型は登場する。本作の主人公チャウのプレジデンシャルカットだ。「この手の髪型は、サイドを刈り上げがちですが、チャウのように、耳周り、襟足は綺麗に落とし、分け目を額の角で作って、なでつけるのが本当のクラシック。この髪型の場合、ぜひコームを胸ポケットに忍ばせてほしいですね。それで少しでも崩れるたびに取り出して、セットし直すストイックさを」
花様年華(2000年、ウォン・カーウァイ監督)
’60年代の香港を舞台に、互いに結婚していながらも惹かれ合う男女の切ない不倫劇。
ひたすら普通なスポーティヘア。
本作のケンの髪型について島田さんは「“ザ・普通”なのが最高」と太鼓判を押す。「あえて名付けるなら、トップが若干長めのスポーティヘア。サイドは刈り上げているようにも見えるかもしれませんが、1㎝強はあるので髪が寝ているだけ。あくまでスポーティで、“スポーツ刈り”ではない。注目してほしいのはもみあげ。耳の中心のあたりでスパンと剃っています。欧米人にはこのもみあげをしている人が多いんですが、非常にクリーンでまさにルッキングッド!」
インフォメーション
フォードvsフェラーリ(2019年、ジェームズ・マンゴールド監督)
ル・マンでフェラーリ社を打ち負かすべく、しのぎを削った男たちの実録ドラマ。
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