ファッション

〈グランドセイコー〉と一生ものの条件の話。

〈GRAND SEIKO〉SBGW231

2023年11月17日

小旅行とパッキング。


photo: Tetsuo Kashiwada
illustration: Dean Aizawa
text: Koji Toyoda
2023年12月 920号初出

〈グランドセイコー〉

〝BUY ONCE, BUY WELL〟という格言がある。これは現英国王チャールズ3世の言葉。洋服にしろ、家具にしろ、時計にしろ、一級品を選んだほうが却って無駄な買い物をしなくて済む、という意味だ。事実、彼自身、昔買ったコートや靴をリペアしながら、何十年も愛用しているし、僕たちが〝一生もの〟を考える上でとても大切なフィロソフィーだと思う。こと時計においては、洋服や靴と違っていくつもあったら持て余すわけで、車のように気に入ったものが一本あれば、それで十分だ。

 では、時計における一生ものとは? という難題に向き合い、見て回ってみて、無数の選択肢からこれぞ! と素直に思えたのが〈グランドセイコー〉の「SBGW231」。

 まず、時代に左右されないこと。こちらは1960年誕生の初代モデルを彷彿とさせるようなデザインで、文字盤は柔らかな厚みを持つドーム状、鋭敏なドルフィン針にザラツ研磨された鏡面ケースを採用し、クラシックの風格を今に伝える。控えめでクラシックな佇まいはワークウェアだろうと、スーツだろうと合わせる服を選ばず、『銀座 和光』の時計塔(ご存じこちらもセイコー製)のごとくタイムレスな存在といえる。

 次に実用性。見た目だけならアンティークを探せばいいと思うかもしれないが、常に進化を続けるムーブメントは最新こそ最良。大正時代に国産初の腕時計を作り、’69年には電池式で月差±5秒という革命的なクオーツを生み出したセイコーの名に恥じぬ〝精巧〟極まりない機構が収められ、道具としての本分にも抜かりはない。しかもこちらは〈グランドセイコー〉の初代モデルと同じ手巻き式。タイパが声高に叫ばれ、時刻を確認するのにスマホで事足りる昨今において、3日に一度ゼンマイを巻くという静謐な習慣が、時と丁寧に向き合うきっかけを与えてくれる。どの世代の自分にも寄り添ってくれそうな懐の深さを感じるが、こういうものこそ若いうちから同じ時を過ごし、ゆくゆくは子、孫へとバトンを渡して、長きにわたり付き合っていきたい。そう考えれば、55万円の値付けは決して高くはない。

BRAND STORY

〈Grand Seiko〉ロゴ

1881年の創業以来、国産時計ブランドの代表格として君臨する〈セイコー〉の最上級ラインは1960年に設立した。’67年には、多面カットや鏡面技術を駆使することで、ささやかな陰影がつけられた「セイコースタイル」と呼ばれるデザイン文法を生み出した。

インフォメーション

〈GRAND SEIKO〉SBGW231

「エレガンスコレクション」内に密かにラインナップされる一本。ラグ(ケースとバンドを繋ぐパーツ)はカーブがつき、手首の曲線に自然に沿う。手巻き式ならではの薄型で重さは61g。ケース径37.3㎜もちょうどいいサイズ感。¥550,000(グランドセイコー/セイコーお客様相談室☎0120·302·617)