ファッション
10 STYLE ESSENTIALS/Margaret Howell
2023年3月17日
photo: Jack Orton
coordination: Keita Hiraoka
text: Tamio Ogasawara
2023年4月 912号初出
小さなワードローブになるほどに際立つのがスタイル。
着るものは必要なものを最低限にという
マーガレット・ハウエルさんの10の欠かせないもの。
「しっかりした品質で実用的。
だけど今の時代に合わせて
アップデートされたものが好きです」
正直に言うと、〈マーガレット・ハウエル〉というブランドはもちろん知っているし、着たこともあるし、むしろ好きなほうだけど、デザイナーのマーガレットさん本人をお目にする機会はなかったし、人前に出ているのもほとんど見たことがないし、ましてや、彼女と話すことができるなんて想像もしていなかった! それほどにマーガレット・ハウエルは伝説だ。しかも、彼女のスタイルの秘密を直接聞けるなんてとっても贅沢な話である。
「私はたくさんの種類の洋服を持っているようなタイプではなく、似たようなアイテムを好み、時代によって着るものが変わってきたという人間でもありません。ですので、ワードローブはかなり少ないほうだと思っています。ものづくりや、ものを選ぶときの基準となる考え方としては、ウェルメイド(しっかりとした品質)かどうか、またクラシックすぎずコンテンポラリーでプラティカル(実用的)なものかというのがとても重要な部分となります。イギリスには昔ながらのブランドや工場が多くあり、今の生活に合わせてアップデートされているものは着やすさがあると思います。また、素材についても強い思い入れがあると言えるかもしれません。ハリスツイードに代表されるような英国生地は自然の色味で表情豊かなものが多いので、ものそのものの素材、表情を生かしたシンプルな製品を作ること、生地の雰囲気をうまく使ったスタイリングを心がけるようにしています。実用的で飾らない、心地よいスタイルであるというのが私のこだわりです」
1970年にジャンブルセール(蚤の市)で見つけたという、古いけれど縫い目が繊細なピンストライプのシャツがきっかけで自分でも服を作ってみようと思ったのが、〈マーガレット・ハウエル〉誕生のきっかけだった。「ブランドを始めた頃は、シャツ通りとしても有名なジャーミンストリートには固い襟のメンズドレスシャツしかないような時代でしたけど、ソフトでもう少しリラックスしたシャツを求めている人は多いと感じていたし、実際にそのようなシャツを作ったらたくさんの人に手に取ってもらえるようになりました。生地に関してもしっかりとした打ち込みで織られた上質なポプリン生地を50年以上たった今でも定番として作っています」
日本のブランドである〈CANTON〉や〈EDWIN〉といったデニムブランドと一緒に作ったウェルメイドのジーンズをはき、シンプルだけどディテールに工夫を凝らした白いTシャツや、少しリラックスしたメンズライクな白いシャツを合わせる。今の時季なら、今日のように白いTシャツの上からスコットランド製のカシミヤ100%のVネックのセーターを着たり、白いシャツの上にコットンリネンのスリップオーバー(ニットベスト)を重ねたり。コットンベースのクラシックでナチュラルなベンタイル地のパーカは、天気の移り変わりの激しいイギリスには向いている素材だといい、小雨くらいならフードをかぶって雨をしのぐ。通勤の際もチャリング・クロス駅から職場のウィグモア・ストリートまでウォーキングしたりしているという足元には、コンフォータブルで主張の少ないデザインのスニーカーを履くことが多くなった。ちょっと肌寒いときや、首元にアクセントをつけたいときに巻くことが多いというバンダナ柄でシルク素材のスカーフも昔から長く大切に使っている。
「ワードローブは小さく必要最低限に」。必要なものだけを所有するのがマーガレットさんの生き方でありスタイルである。少ないワードローブになるほどに、個性というのは表れてくるのだ。
10 STYLE ESSENTIALS
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